投影とは?精神分析における意味と特徴を具体例でわかりやすく解説

2020-12-22

人間の心は自分が考え、思い起こせるような「自覚できる」領域だけでなく、普段はまったくもって意識していない、「無意識」と呼ばれる領域やこころの働きが作用しています。今回は自分を守るための無意識的なこころの働きである「投影」についてご紹介します。

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投影とは

投影とは、端的にいうと自分で認めがたい衝動や感情などを他者に押し付けることを指します。

精神分析における防衛機制

現在の心理臨床にとても大きな影響を与えたフロイト,S.は催眠療法による治療・研究を通じて、人間のこころは本人が自覚している以上の広さと働きを持っていると主張しました。

フロイトによれば、人間のこころは意識(自覚している領域)・前意識(努力すれば自覚できる領域)・無意識(全く自覚できない領域)の3つの領域に分けることができるとしました。これを「局所論」と呼びます。

防衛機制の種類

フロイトはヒステリー研究の中で、本人が認めがたい衝動や欲求、感情が「無意識」の領域にしまわれ、そこから出てこれないようにする無自覚のこころの働きによって「意識」を守っていると考えました。(これは抑圧という防衛が働いています)

そして、このような自覚していないうちに自らの意識を守ろうとするこころの働きを「防衛機制」と名付けました。

その後、フロイト,S.とその娘であり父の研究を受け継いだフロイト,A.は、防衛機制に次の10種類があることを示しました。

防衛機制

  1. 抑圧(Repression)
  2. 退行(Regression)
  3. 反動形成(Reaction formation)
  4. 隔離(Isoration)
  5. 打消し(Undoing)
  6. 投影(Projection)
  7. 取り入れ(Introjection)
  8. 自分自身への向け換え(Tuning against one's own person)
  9. 逆転(Reversal into the opposite)
  10. 昇華と置き変え(Sublimation or displacement)
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投影の意味・定義

防衛機制の中の「投影」は、歴史上でも非常に古くから注目されてきたこころの働きです。

投影はProjectionという名前にもあるように、自分の中にある不愉快でいらない感情や欲求をを外に出してしまいます。

そして、それが自分の中にあるのではなく、ほかの人にある感情や欲求であると思うことで自分のこころを守る防衛法です。

投影の具体例:嫌いな人

例えば、「人の嫌うということは望ましくない」という考えの人にとって、「Aさんのことが嫌いだ」という考え、感情は望ましいものではありません。

そこで、投影を用いた防衛では「人の嫌うということは望ましくない」という自分を守るため、「私はAさんのことを嫌っていない」のに「Aさんはどうやら私のことが嫌いらしい」と自分の中にある敵意がAさんから発せられたものであるという風に思い込むのです。

投影と投影同一視

投影は自分の欲求や感情がまるで相手の中にあるものかのように感じる防衛機制でしたね。

これと似ているメカニズムの防衛機制として投影性同一視(投影同一化)をご紹介します。

投影性同一視の意味

投影性同一視は途中まで投影と同じメカニズムですが、同一化という防衛機制も併せて行われることで、対人関係に支障をきたすことのある防衛です。

投影同一視の具体例:モラハラ

投影性同一視が引き金となりモラハラ(モラルハラスメント)が起こる例をご紹介します。

Aさんは、同僚のBさんという人を嫌いだという気持ちを抱えていたとしましょう。

投影性同一視によってモラハラが起きる例

  • まずは、AさんはBさんが嫌いだという気持ちを受け入れることができず、「Bさんが自分のことを嫌っている」と思い込みます。(ここまでは投影)
  • すると、Bさんの中に起こった(投影した)Aさんのことが「嫌い」と気持ちに同一化し、AさんはBさんを攻撃し始めます。
  • Aさんは「(Bさんは)なんて非常識なんだ」「(Bさんは)いつも自分のことしか考えていない自己中心的なやつだ」とBさん本人や周囲の人間に伝えるようになります。こうなると立派なモラハラです。

投影だけであれば、Aさんの単なる勘違い、思い違いで済むのですが、そこに自分が投影した「嫌い」という感情に同一化することでBさんを操作し、巻き込んでいくという特徴から社会適応に支障をきたす防衛機制です。

投影をしやすい人の特徴

山本(2002)は質問紙検査によって、防衛機制と基本的性格特性の関連を検討しています。

防衛機制とYG性格検査の関連を検討した結果、「Co尺度」(協調性の無さ)と「R尺度」(衝動性)の性格特徴が投影(論文内では投射)の機制を促進するという結果が示されています。

つまり、他者に対し不満や不信感を抱いていたり(Co尺度)、衝動的で活発な(R尺度)人は投影を用いやすいと考えられます。

投影による問題への対処法

自分のこころを守るために行われる投影ですが、それにより問題行動が引き起こされ、対人関係に支障をきたす場合があります。

いじめ

いじめには様々な要因があることが指摘されていますが、投影によっていじめが起こる可能性もあります。

自分のコンプレックスや受け入れがたい部分をクラスのある子に投影し、周囲に言いふらしたりすればそれは立派ないじめに該当します。

投影される受け入れがたいイメージは、養育環境から構築されていたケースもあるため、いじめが起こった際には加害者をただ叱りつけるだけでは不十分な場合もあります。

二度といじめを起こさないためにも原因が何であったのかを追求し、被害者・加害者をともにケアしていく姿勢が重要です。

恋愛

付き合うまでは相手がとても素晴らしい人だと思っていたのに、いざ付き合って(結婚してみると)思っていたのと違ったという話を聞いたことがあるでしょう。

そのような場合、付き合う前に見えていた相手の素晴らしい部分というのは、自分が都合の良い理想像を相手に投影していただけの幻想であったかもしれません。

また、被愛念慮というケースもあります。これは相手のことが好きなのに、その気持ちを相手に投影することで相手から好かれていると勘違いすることです。

そのことを周りに言いふらしたりなどすれば、投影された相手からすると全く好意を抱いていないため、困惑しますし、いい迷惑ということになります。

投影をプラスに活かす方法

もちろん、投影がポジティブな効果を生み出すこともあります。投影はその性質上、他者を鏡のように使い、自分のこころの一部を映し出すものです。

裏を返せば、投影された相手から受け取る印象によって自己理解を深めるきっかけになるといえます。相手に抱く印象が投影によるものか現実によるものかを判断するためには、俯瞰的な視点が欠かせません。

特に、投影による場合は(ポジティブ、ネガティブどちらでも)明確な理由がない場合が多いです。

そのため、何か被害を受けたわけでもないのに、「なんとなくあの人が嫌い…」という思いを抱いた場合などは投影によるものではないか考えてみましょう。

投影について学べる本

さらに理解を深めたい方におすすめの本を3冊ご紹介します。

精神分析的人格理論の基礎

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投影も含めた、防衛機制や人格構造による病理までが詳しく解説してあります。

日本の精神分析の大家である馬場禮子先生が生活体験や臨床体験に結び付けて書くよう意識されていることもあり、理論だけの無味乾燥な書籍とは異なり初学者でも読み進めやすい一冊になっています。

対象関係論を学ぶ クライン派精神分析入門

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対象関係論を構築したメラニー・クラインによる精神分析は非常に難解ですが、初学者でも理解しやすいよう工夫された入門書です。

クライン派は原始的な防衛機制(赤ちゃんの頃に用いる防衛機制)として投影同一視のメカニズムを詳しく解説しています。

防衛機制の心理分析: 心理分析法中級シリーズ第5巻

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フロイトとラカンという精神分析家の理論を基に防衛機制について詳しく解説しています。

この本には心理テストもついているため、ご自身がどのような防衛機制を用いやすいのか知るきっかけにもなるでしょう。

他者は自分の鏡

投影はそもそも自分のこころを守るために備わったもので、誰でも投影を用いています。

しかし、それに頼ってしまってばかりでは現実をゆがめてしまい、周囲を傷つけてしまうこともあるかもしれません。

それを防ぐためには、他者と良好な関係を築けるよう自己理解を深めることが必要です。

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参考文献

  • 馬場禮子(2008)『精神分析的人格理論の基礎』岩崎学術出版社
  • 山本都久(2002)自我防衛機制と性格特徴の関係,富山大学教育学部紀要 (56), 137-143

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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