非常に未成熟な状態で生まれる人間の新生児は、すぐに自分の身体を思い通りに動かすことはできません。そのため、身体が大きくなっていくのに合わせて、身体を動かす練習をする必要があります。
原始反射は、人間に生まれながら備わっている、動きを練習するためのプログラムです。原始反射にはどのような種類があるのか、その出現期間・消失時期や原始反射が消えない現象について詳しく解説していきます。
目次
原始反射とは
原始反射とは赤ちゃんに生まれつき備わっている反射行動です。
私たちは歩く、字を書く、座るなどの行動を意識的に行っていますが、中には私たちの意思とは無関係に生じる身体動作も存在します。その一つが反射であり、反射は外部からの特定の刺激に対して、自動的に生じる反応のことを指します。
そして、生まれながらにして私たちに備わっており、生後間もないころに出現する反射をまとめて原始反射と呼びます。
ある一定期間における原始反射の表出のなかで運動を練習し、様々な反射を統合していくことで、反射に頼らない行動のコントロールを獲得していくのです。
原始反射とU字現象
原始反射は成長の過程で必要な反応です。しかし、それがいつまでも自分の意思とは関係なく自動的に反応しているようでは、行動を制御することが困難です。
そのため、原始反射により行動を練習した後、原始反射が消失し行動が少なくなってから、自発的な行動として改めて出現します。この現象はU字現象と呼ばれています。
原始反射の行動と自発的な行動では細かな様式が異なるものの、意識的な運動のなかには原始反射としての運動が組み込まれていると考えられています。このことから、原始反射によって体の動かし方を練習し、意識的に動かせるよう備えているのだといえます。
原始反射に関連する脳部位
原始反射は、生後まず最初に発達する脳幹と呼ばれる部分に由来すると考えられています。
脳幹は生命維持に深くかかわっている部位で、意識や呼吸、循環など私たちが生きていくために必要な最も基本的な機能を制御している脳部位です。
原始反射の種類と出現期間・消失時期
ここでは代表的な原始反射を取り上げ、その特徴や出現期間、消失時期を紹介していきます。
歩行反射
歩行反射は、その字の通り歩く動作にかかわる原始反射です。
新生児の脇下を抱えて起立させ、足を床に着け前傾姿勢を取らせると、足を一歩ずつ前に出し、歩行するような動作を行います。
この反射は生まれてから1~2か月くらいまでの間にみられるものであり、その時期を過ぎた3か月ごろには自然に消失するとされています。
モロー反射
モロー反射は、生後6~7か月くらいまでにみられる原始反射です。
仰向けに寝かせた新生児の後頭部を手で少し持ち上げ、持ち上げた頭を急に下すと、両腕を広げゆっくりと抱え込むような動作を示します。
この反射は、突然大きな刺激にさらされたとき、危険な状況から身を守ろうと養育者にメッセージを送る機能があると考えられています。
通常は生後半年ほどで自然に消失することが知られています。
握り反射
握り反射は、手のひらもしくは足の裏でモノを握るような動作を見せる原始反射です。新生児の手のひらに指をあてる、圧迫すると、指を握りしめるという動作が起こります。
この反射は手と足で消失する時期が若干異なっており、手であれば6か月ほど、足なら8か月ごろに消失すると言われています。
吸てつ反射
吸てつ反射は、食事にかかわる原始反射です。
新生児は、母乳や哺乳瓶のミルクを摂取しますが、これは何もご飯に対してのみ起こる反応ではありません。生まれてから4~5か月ごろまでは唇に触れたものに反射的に吸い付き、それを吸い続ける動作がみられます。
瞬目反射
瞬目反射は目を閉じるという反応を示す原始反射です。新生児の瞼に息を吹きかけたり、目に強い光を当てると、目を閉じるという反応を示します。
生まれてから3~4か月ごろに消失すると言われています。
バビンスキー反射
ここまでの原始反射は主に自分の身を守ったり、その後の発達で必要となる行動の前段階としての意味を持つ原始反射であり、おおよそ生後6か月ごろまでに自然に消失するものです。
対して、これからの発達において何らかの役割を果たしているわけではないものの、新生児にみられる原始反射としてバビンスキー反射が挙げられます。
バビンスキー反射は1956年にバビンスキーという学者によって報告された反応です。
新生児の足の裏の外側をペンなどのとがったものでかかとからつま先まえ刺激すると、親指は足の甲を向けて曲がり、それ以外の指は外側に開くという反応がみられます。
この反射は生後1~2歳ごろまで持続するとされており、人間がサルから進化するにあたり、木の上で生活していたころの名残としてあらわれるものであると考えられています。
原始反射が消えないとき
原始反射は、生後しばらくすると自然に消失することが知られています。
原始反射の消失には、身体の成長に加え、脳などの中枢神経系の発達が大きくかかわっていることが指摘されています。
そのため、いつまでも原始反射が消えない場合には、中枢神経系の発達に何らかの問題があり、意識的な行動への移行がうまくいっていない可能性があると考えることができます。
例:バブキン反射の消失時期比較
二木ら(1987)は健常児、脳性麻痺児、精神発達遅滞児におけるバブキン反射の反応の強さ、残存時期を比較する研究を行っています。
バブキン反射とは、新生児の両手の手のひらを親指で同時に強く圧迫すると、口を開くという反射です(それに伴い、目を閉じる、腕が曲がるなどの反応がみられることもある)。
この反射は基本的に生後3~4か月のうちに消失することがほとんどであるとされています。
この原始反射の発見者であるバブキンは手によって知覚された情報は脊髄を通り、脳幹の顎の運動に関与する運動神経核と密接な関係であるためであると考えました(例えば、モノを食べるときには手で食べ物を口に運ぶなど)。
研究の結果、脳性麻痺児・精神発達遅滞児では、健常児と比較してバブキン反射の長期残存する傾向が認められたのです。
原始反射が消えないと障害があるのか
原始反射の消失は、発達の進み具合の指標としてある程度有効であると考えられます。
それでは、一般的に生後6か月ごろまでに消失するとされる原始反射が消えずに残っている場合は、子どもに障害があることを示しているのでしょうか。
結論から言えば、原始反射の残存のみで中枢神経系の発達の遅れを確定診断することはできません。それは子どもの発達の個人差はとても大きく、原始反射の消失時期も子どもによって異なるためです。
原始反射がなかなか消えないからと言って障害だと決めつけてはいけません。
しかし、発達の遅れがあまりにも著しいようであれば専門機関による検査や早期療育が必要となるケースもあります。以下で紹介する兆候を参考にしながら、子どもの発達を温かく見守る姿勢をもち、必要に応じて専門機関へ相談することが求められます。
原始反射が統合されていない可能性のある兆候
原始反射が消失せず、統合されていないとどのような兆候が見られるのでしょうか。
いくつかの原始反射と兆候の関係性を見ていきましょう。
モロー反射
モロー反射の統合がなされていない可能性のある兆候は次の通りです。
- 困難な状況からの離脱
- 光・音・動きなどに対する過敏症
- 同年齢児と接触することに問題がある
- 新しいチャレンジへの恐怖
- 適応性の低さ(変化や驚きを嫌う)
- 弱い免疫系(ぜんそくやアレルギー、消化不良など
吸てつ反射
吸てつ反射が統合されていない可能性のある兆候は次の通りです。
- 言葉や発音の問題
- 書くときに頻繁に舌や口が動く
- 飲み込む、嚙むことが困難
- 話しながら手を動かすことが困難
バビンスキー反射
バビンスキー反射が統合されていない可能性のある兆候は次の通りです。
- ねん挫しやすい
- ゆっくり歩く・走る
- 偏平足
- 歩くときにつま先が内側に曲がる
- ひざまずき
原始反射について学べる本
原始反射について学べる本をまとめました。
初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
人間脳を育てる 動きの発達&原始反射の成長
原始反射は、これから成長していくための運動の基礎となりうるものであり、原始反射が表れ、消えていくことが発達には欠かせない要素です。
原始反射にはどのようなものがあるのか、どのような遊びから原始反射を統合することができるのかというヒントが隠されています。
ぜひ本書から原始反射について詳しく学びましょう。
児童精神医学にもとづく 乳幼児の発達障害「解体新書」
原始反射は確かに発達の進み具合を示すバロメーターとしての役割を持っています。
しかし、原始反射がすぐに消えないからといって、それが直ちに発達障害がであることを示すわけではありません。
不要な不安を抱えた子育てにならないためにも、乳幼児の発達はどのようなものなのか、発達障害である場合、どのような療育をするべきなのかについて簡潔にまとめられた本書を読んでみるのはいかがでしょうか。
原始反射は生きる力のトレーニング
非常に未成熟な状態で生まれる子どもは、大脳も大人とは異なった状態で生まれてきます。
一見無意味な行動に見える原始反射ですが、まずは生命維持に深くかかわる脳幹を使い、生きるために必要な動きをトレーニングしているのです。
ぜひこれからも原始反射、乳幼児の発達について詳しく学んでいきましょう。
【参考文献】
- 小西行郎(2015)『赤ちゃん学から見た発達障害児―ヒトの心の起源を探る― 』環境と健康 28 407-414
- 穐山富太郎・伊藤信之・鈴木良平・川口幸義(1975)『原始反射と運動発達 -正常児について- 』整形外科と災害外科 24 (4), 460-464
- 二木康之・安部治郎・田中順子・岡本伸彦(1987)『Babkin反射の診断的意義について』脳と発達 19 (5), 392-396