社会的ジレンマとは?いじめ・環境問題・コロナ禍の自粛等の具体例からしくみを学ぶ

2021-02-08

今回は、社会的ジレンマについて学んでいきます。社会的ジレンマとはどのようなものなのでしょうか。

社会的ジレンマの中でも有名な、囚人のジレンマ・ゲームについても見ていきます。

また、いじめや環境問題という形で現れる社会的ジレンマについて、解決方法があるのかについても考えてみたいと思います。

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社会的ジレンマとは?

ジレンマは、2つの選択肢があった場合に、どちらを選んでも何らかのデメリットがある状況です。

私達は日頃から、ジレンマを身近に経験しています。欲しいゲームがあった場合を考えてみましょう。

買うという選択をするとお小遣いが減るというデメリットがあります。買わないという選択をすると友達付き合いに支障が出るというデメリットがあるかもしれません。

社会的ジレンマの意味と定義

ジレンマが個人的な問題だけではなく、社会全体に生じている場合を社会的ジレンマと言います。

社会的ジレンマは次の3つの条件から成り立っています。

① 個人は「協力する」か「協力しない」かのいずれかを選ぶことができる。

② 個人にとっては、「協力する」よりも「協力しない」方が利益が大きい

集団内の全員が「協力しない」を選んだ場合は、集団内の全員が「協力する」を選んだ場合に比べて利益が小さくなる

社会的ジレンマの具体例

今、世界中の人が実感している社会的ジレンマが、新型コロナウィルス対策ではないでしょうか。

例えば外出自粛を例に見てみましょう。協力行動は「外に出かけない」、非協力行動は「外に出かける」事と考えられます。

個人にとっては、感染予防を徹底していれば外に出かける(非協力行動)事はメリットが大きいかもしれません。けれども、国民の多くが非協力行動を取ると、また感染者が増加し、自粛生活が長引いてしまいます。

お店の営業自粛についても同じ事が言えます。

1店舗の利益だけ見れば、営業をする(非協力行動)事の利益の方が大きくなります。けれども、多くのお店が営業をする事で自粛期間が延長されれば、長期的に見た場合の利益は減少してしまいます。

実は政府の対策(アメとムチ)も含め、新型コロナウィルス対策の観察は、社会的ジレンマの理解にとても役立ちます。

囚人のジレンマ・ゲーム

先ほど挙げた社会的ジレンマの3条件を、二者間にしたものが、囚人のジレンマ・ゲームです。協力行動を「自白しない」、非協力行動を「自白する」とします。

選択した行動によって結果は次のようになります。

  • 両者共自白しない(協力行動)   →両者共刑期1年
  • 1人のみ自白する(非協力行動)    →自白者は不起訴自白しない者は無期懲役
  • 両者共自白する          →両者共刑期10年

個人で見れば、相手が自白するしないに関わらず、自白する(非協力行動)方が刑期が短くて済みます。

けれども2人共が自白しなかった場合(協力行動)は、2人共が自白した場合(非協力行動)よりも刑期が短くて済みます。

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社会的ジレンマに関する心理学的実験

ここからは、社会的ジレンマに関する心理学実験を見てみましょう。

山岸俊男による実験

山岸俊男らは次のような実験を行いました。

手続き

実験参加者は、実験のお礼として受け取った500円について、知らないもう1人の参加者に渡すか渡さないかを選択します。

参加者が相手の参加者に500円を渡した場合、もう500円が上乗せされて、相手は1000円を受け取る事ができます。

選択行動と結果は次のようになります。

  • 両者共渡す    →両者の利益は1000円
  • 片方のみ渡す   →渡した方の利益は0円、渡さない方の利益は1500円
  • 両者共渡さない  →両者の利益は500円

つまり、個人で見れば渡さない方が利益が大きくなりますが、2人共が渡せば両者の利益は大きくなります。

結果と考察

実験の結果、参加者の56%が渡すという協力行動を取りました。このことから、1回きりの囚人のジレンマ実験においては、必ずしも全員が常に非協力行動を取る訳ではない事が分かります。

社会的ジレンマによる問題と解決方法

ここからは、社会的ジレンマによる問題と、その解決方法についてみていきましょう。

いじめ

いじめにおいて、いじめをやめさせようとする行動を協力行動、いじめをやめさせる行動をおこなわない行動を非協力行動とします。

全員が協力行動を行えば、クラス全員にとって快適な環境となるでしょう。反対に、自分だけが協力行動を取った場合、自分だけいじめに合うなど不利益を被る事になるかもしれません。

山岸(2000)は、ネットワークの育成が必要だと言います。同じ相手と長く付き合う事が前提であれば、応報戦略により協力行動が増加すると考えられるからです。

その集団メンバーが互いによく知り合う事が、いじめの予防に役立つという事になります。

また、いじめが生じた当初から協力行動を取る人の割合が高ければ、その割合は次第に高くなり、非協力行動を取る人に割合が高ければ、その割合はより高くなっていくとされています。

つまり、いじめが生じた当初の協力行動を取る人の割合を高くするが重要ということになります。そのためには、いじめには皆で立ち向かう、という教育も有用でしょう。

環境問題

環境問題においても社会的ジレンマは見られます。

個人にとっては便利さという点でメリットが大きくても、社会全体で見ると環境破壊につながる行為は、社会的ジレンマとなるのです。

最近では、レジ袋有料化により、有害なレジ袋の利用量が抑えられています。これは、個人の利益と社会的利益を結びつける事に成功した事例と言えます。

社会的ジレンマについて学べる本

最後に、社会的ジレンマについて学べる本や論文をご紹介します。

社会的ジレンマの解決を探る「社会的ジレンマ『環境破壊』から『いじめ』まで」

今回の記事における「社会的ジレンマに関する心理学的研究」でも取り上げた、山岸俊男氏による著書です。

本書では、社会的ジレンマに関する様々な研究を元に、そのメカニズムを解明していきます。また、社会的ジレンマの解決に向けて、その糸口を探っていきます。

実は本書は、次にご紹介する本の10年後に同じ著者が執筆したものです。この10年間に、なぜ同じテーマの本が書かれたのでしょうか。

そこには、社会的ジレンマの研究の大きな転換点があったのです。著者は、非合理性の中に隠された「本当のかしこさ」こそが、社会的ジレンマを解決する鍵となると述べています。

社会的ジレンマ研究の入門書「社会的ジレンマのしくみ 『自分1人ぐらいの心理』の招くもの」

先に挙げた「社会的ジレンマ『環境破壊』から『いじめ』まで」の著者である山岸氏が、その10年に前に書かれた本です。

1980年代までの、社会的ジレンマの研究と、当時の著者の見解が述べられています。先の本と読み比べると、社会的ジレンマ研究の進展が分かります。

こちらは単行本サイズです。

社会的ジレンマと感染拡大防止協力金

緊急事態宣言の延長に伴い、時短要請に応じる店舗への協力金も新たに支給される事になりました。社会的ジレンマの視点から見ると、時短営業(協力行動)によるデメリットが減少する事になります。

けれども人の行動は、金銭的な利益だけでは図れないものです。

心理学を学ぶ私達は、協力行動が正しく、非協力行動が誤り等と軽々しくは言えない事を知っています。

社会的ジレンマを始めとした社会心理学を学ぶ事により、個人の言動を責めるのではなく、なぜそのような言動を行うのかに目を向けられるようになりたいものです。

よく社会的ジレンマは、「わかっちゃいるけどやめられない」現象として説明されます。けれども、分かろうとする事から変わってくる何かもあるのだと思うのです。

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参考文献

長谷川寿一・東條正城・大島尚・丹野義彦・廣中直行(2020) はじめて出会う心理学第3版 有斐閣

高木聖・村田雅之・大島武(2016) はじめて学ぶ社会学第2版 慶應義塾大学出版会

山岸俊男(2000) 社会的ジレンマ「環境問題」から「いじめ」まで PHP研究所

山岸俊男(1990) 社会的ジレンマのしくみ「自分1人ぐらいの心理」の招くもの サイエンス社

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    こころ

     臨床心理学・実験心理学等を学んだ後、心理カウンセラーとして勤務。現在はライターとして活動中。

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