身体症状症(身体表現性障害)とは?原因や症状、診断基準、治療法と接し方のポイントを解説

2022-01-27

胃に炎症が起こっているためお腹が痛くなる、脳の血流が悪くなって体に力が入らなくなるなど、身体症状の多くは、何らかの器質的な原因を元にして生じるものです。

しかし、中には、器質的な異常が無いにも関わらず痛みや吐き気などの身体症状が長くに渡って続く身体症状症(身体表現性障害)という精神障害があります。それでは身体症状症とはいったいどのような精神障害なのでしょうか。その原因や症状と診断基準、治療法と接し方などについてご紹介します。

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身体症状症(身体表現性障害)とは

身体症状症とは以前は神経症と呼ばれていた疾患群の一つであり、身体的な異常が無いにも関わらず、身体的な自覚症状を長期間にわたって訴える精神障害です。

身体症状症の歴史

身体症状症・関連疾患群は古くから研究がなされてきた疾患概念であり、次のような古典的な疾患概念を多く含む概念です。

【身体表現性障害に含まれる疾患概念】

  • ヒステリー
  • 心気神経症
  • 醜形恐怖
  • 神経衰弱
  • 自律神経失調症
  • 心因性疼痛

特にこの中でもヒステリーは、ヒステリックという一般的に知られるイメージとは異なり、本来は身体的な異常が無いにも関わらず、手足が動かなくなる、意識を消失して立てなくなる、嘔吐や下痢・発熱を生じる、盲目になるなど多彩な症状を示す疾患です。

神経症への注目

このような疾患群は神経症と呼ばれる疾患であり、19世紀末ごろからシャルコー,J.M.やジャネ,P.、フロイト,Sなどの精神科医によって積極的に研究されていました。

神経症はストレスや内的な葛藤などの心理的要因により発症すると考えられている精神障害であり、古典的な精神医学では病因論という精神障害の原因によって精神障害を分類する手法が主流でした。

確かに病因論に基づく疾患分類は精神障害の特徴をしっかりと捉えることができ、その原因に対して直接アプローチする治療法を選択しやすいという利点がありました。

しかし、精神障害の明確な原因を特定することは実際の心理臨床の現場では困難であり、「Aという疾患のようだけど、Bという疾患のようでもある」というグレーゾーンの存在から診断を行う者によって診断名が異なるという事態が頻発していることが問題視されつつありました。

DSMによる神経症の解体と身体表現性障害の登場

このような流れにおいて、外から観察可能な示される症状によって精神障害を捉えようとする症候論に注目が集まり、誰が診断を行っても同一の診断を下せるような診断のマニュアル作成への機運が高まり登場したのがDSM-Ⅲです。

DSM-Ⅲでは、診断する人の主観ではなく、誰が診断しても同じ診断名に至るよう客観性重視した操作主義と表面に現れた症状のみを見て分類を行い、病気の原因が何かということは重視しないことが大きな特徴でした。

そのため、神経症という心因性のストレスなどによって心の働きに不調をきたしたという障害群を廃止し、不安障害や強迫性障害、解離性障害など神経症としてひとまとまりにされていた疾患を分類し直しました。

そうして登場したのが身体表現性障害です。

身体表現性障害とは、次のように定義されます。

【身体表現性障害の定義】

さまざまな苦痛を伴う身体症状が長期的に持続し、適切な検査を行っても身体症状を医学的に説明できる異常が認められない疾患

DSM-5の登場と身体症状症概念の成立

この後DSMは第4版であるDSM-Ⅳに改訂がなされても身体表現性障害の診断基準そのものに大きな変化は起こりませんでした。

しかし、2014年にDSM-5への改訂がなされると、身体表現性障害という疾患単位は削除され、身体症状症および関連症群と名称が変更され、次のような疾患概念の整理がなされました。

DSM-ⅣDSM-5
大分類身体表現性障害身体症状症・関連症群
小分類心気症病気不安症
身体化障害・疼痛性障害身体症状症
転換性障害変換症・機能性神経症状症
虚偽性障害という独立疾患から整理作為症
他の医学的疾患に影響する心理的要因
身体醜形障害強迫性障害関連群へ

このようにして、現代では身体症状症は身体化障害と疼痛性障害を含む精神障害として捉えられています。

【身体化障害】

身体のあらゆる部分における不調(便秘や下痢、腹痛、倦怠感、月経痛、吐き気など)を訴え、他人への補助を求めることで他者の注意を引こうとする。

【疼痛性障害】

医学的な検査を行っても身体には異常が発見できないにもかかわらず、頭部や顔面、背中、手足など様々な箇所に痛みを感じる障害であり、ストレスなど心理的な要因が発症に関わると考えられている。

身体症状症と混同されやすい疾患概念

身体症状症と混同されやすい類似疾患として心身症というものがあります。これは「心理的要因によって、器質的ないしは機能的障害が認められる病態」のことです。

つまり心身症は、心理的な要因によって発症する身体疾患のことであり、症状を示す身体部位によって多彩な疾患を呈します。

【心身症の例】

  • 胃潰瘍
  • 過敏性腸症候群
  • 片頭痛
  • 不整脈
  • 月経不順
  • 気管支喘息
  • アトピー性皮膚炎
  • 本態性高血圧症

心身症の患者はシフオネス,P.Eらによって提唱されたアレキシサイミアという特徴を持っているとされています。アレキシサイミアとは失感情症とも呼ばれ、自らの感情を自覚したり、その表現に欠けている状態のことを指します。

そしてこの特徴により、ストレスなどによって生じる不快な感情を自覚して、言語など適切な方法で外部へ表現することができないため、ストレス性の胃潰瘍などの身体症状となって表現されるという発症機序が想定されています。

身体症状症と心身症の違い

それでは、身体症状症と心身症の違いはどのようなものになるでしょうか。

まず、心身症は心理的な要因が発症に関わっているものの、器質的ないしは機能的な障害がみられる身体疾患であり、器質的な異常がない精神障害の身体症状症とは大きく異なります。

また、心身症患者の示すアレキシサイミアは、身体症状症患者には認められません。

そちらも心理的な要因によって、身体症状を訴えるという共通点があるため、混同されがちなため、しっかりとその違いについて覚えておきましょう。

身体症状症の原因

身体症状症の原因は現代の医学においても特定されていません。

しかし、遺伝的な要因と環境的要因のいずれか、もしくはその両方が発症に関係していると考えられています。

主な発症の要因としては次の3つが挙げられます。

気質

気質とは、感情や行動の傾向であるパーソナリティ特性の中でも、生まれながらにして持っている傾向であり、遺伝的な影響を受けるものです、

その中でも神経症傾向のような否定的な感情の気質が、様々な症状を呈する身体症状症の関連因子として指摘されており、発症の危険因子だと考えられています。

環境要因

身体症状症を発症する人は、教育歴の低い人であったり、社会的地位や経済的地位の低い人、ストレスフルなライフイベントを経験した人が多いという傾向があるようです。

特に、幼少期に虐待を受けたり、大人になってから暴力を振るわれるような驚異的な環境に置かれることは発症率の上昇に関連しているとされます。

認知的要因

身体症状症は、疼痛など、痛みがない箇所からの刺激に過敏に反応するように、身体感覚の過敏さが過剰であるという認知的な傾向を持っている人が発症するという報告があります。

そして、逆に身体症状を正常な現象と捉えたり、心理的なストレスを認識しないなど異常を感知しにくい認知的な鈍感さが、過剰な身体からのフィードバックを生み出し、自覚される際には症状として感じられるほど激しいものになっているという報告もあるようです。

身体症状症の症状と診断基準

身体症状症は次のような診断基準に該当する場合に診断が下されます。

DSM-5での身体症状症の診断基準

基準A:1つまたはそれ以上の苦痛を伴う,または日常生活に意味のある混乱を引き起こす身体症状.
基準B:身体症状,またはそれに伴う健康への懸念に関連した過度な思考,感情,または行動で,以下のうち少なくとも1つによって顕在化する.
(1)自分の症状の深刻さについての不釣り合いかつ持続する思考.
(2)健康または症状についての持続する強い不安.
(3)これらの症状または健康への懸念に費やされる過度の時間と労力.
基準C:身体症状はどれひとつとして持続的に存在していないかもしれないが,症状のある状態は持続している(典型的には6カ月以上).
(出典:American Psychiatric Association(高橋三郎・大野裕監訳)(2014)『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院)

また、基準Bの(1)から(3)までいくつ該当するかによって重症度が判定され、1つ当てはまるならば軽症、3つ当てはまるなら重症と判定されます。

なお、診断にあたっては、心理検査など身体症状症を鑑別する客観的な指標はないため、パーソナリティ障害や知的障害など、他の精神障害との合併の可能性を考えながら診断を行う必要があります。

身体症状症の症状

また、身体症状症は非常に多彩な症状を示すということが大きな特徴であり、主に次のような症状を呈するとされています。

【身体症状症の症状】

  • 疼痛症状(頭痛・腰痛・関節痛など)
  • 全身症状(疲労・倦怠感など)
  • 消化器症状(嘔気・腹部膨満感・腹痛・下痢など)
  • 循環器症状(胸痛・動悸など)
  • 呼吸器症状(息苦しさなど)
  • 神経症状(めまい、しびれ、ほてりなど)

身体症状症の治療と接し方

身体症状症の治療を導入するにあたり、まず大事なのは、身体症状を引き起こすような様々な生活上の要因を排除することです。

【身体症状を引き起こす要因】

  • 乱れた食生活
  • 過重労働
  • 薬剤(処方薬、サプリメント、カフェインなど)
  • 喫煙
  • 飲酒

治療時の注意点

患者の中には身体症状の原因は何らかの身体の器質的な異常であると信じている場合が多く、身体症状症の原因が心理的な要因であるといきなり伝えてしまうと、不信感を抱く人も少なくありません。

そのため、患者に接する際には次のような事項に留意する必要があります。

【治療導入時の注意点】

  • 患者の訴えを傾聴し、身体症状を真剣に受け止めている姿勢を見せる
  • 完全に精神的なものとして身体症状を説明することを避ける(勘違いだと伝えているように捉えられる)
  • 身体疾患が明らかでない限り、さらなる医療機関の紹介や検査を避ける
  • 定期的に通院することを約束する

まずは、このような注意点に基づき、しっかりとした信頼関係を構築することが求められます。

身体症状症に有効な治療法としては次のようなものが挙げられます。

薬物療法

薬物療法としては、抗うつ薬が疼痛などの痛みに対して有効であるという報告があります。

しかし、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、日本において適応疾患とされていないため、三環系抗うつ薬やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの使用が考えられるでしょう。

また、不安や不眠が強い場合には必要に応じて、抗不安薬や睡眠薬などを処方するケースもあります。

認知行動療法

身体症状症に対する心理療法として優先的に適用を考えるべきなのは認知行動療法です。

認知行動療法は、歪んだ認知の修正を行い、行動を変容させることで、ネガティブな気分を低減させることを狙った心理療法です。

身体症状症の原因の1つに認知的要因が挙げられているように、歪んだ認知を修正し、気分を安定させることによって、身体症状の軽減を狙います。

リラクセーション法

心理的要因によって身体症状が引き起こされているということに懐疑的な患者も少なくないと先ほどお伝えしましたが、そのような患者に心理療法を適用することは難しいかもしれません。

そのような場合には、比較的導入しやすいリラクセーション法を実施することもあります。

研究によっては認知行動療法と同等の効果がみられるという報告もあり、認知行動療法の適用が難しい場合は、リラクセーション法を検討すると良いでしょう。

心理教育

患者本人や家族に配慮しながら、適切な知識を伝える心理教育によって、症状が改善することがあります。

しかし、しっかりとした信頼関係が築けていないまま、身体症状症の原因が心理的要因であり、そのような要因を改善するべきであるといきなり伝えてしまうと、患者の不信感が募り、治療が困難となるケースがあります。

基本的には病気によって生じる問題や困難への対処法を伝え、日常生活をより良く送ってもらえるようにしたいという姿勢で、適切な情報提供を行うようにしましょう。

身体症状症について学べる本

身体症状症について学べる本をまとめました。

精神医学 2020年 12月号 特集 身体症状症の病態と治療 器質因がはっきりしない身体症状をどう扱うか?

身体症状症は、とても多彩な症状を呈し、その治療も原因を根本から治療する薬もないため、治療は長期化するリスクもあります。

身体症状症の診断や治療について詳しく書かれた本書を読んで、身体症状症に対する適切な治療とは何かについてしっかりと学びましょう。

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人間のこころと身体は密接なかかわりを持っており、これにより社会不適応が生じる精神障害の代表的なものととして身体症状症や心身症が挙げられます。

両者の違いについては、今回の記事でご説明しましたが、改めて、身体症状を呈する精神障害について詳しく学びましょう。

身体とこころのつながりにより生じる精神障害

身体症状症は心理社会的要因により身体症状を呈する精神障害ですが、他の精神障害を併発しているケースも少なくありません。

成育歴におけるストレスフルなイベントの存在や、否定的感情を持ちやすいパーソナリティ特性は身体症状症のリスク要因となりますが、それらが合併症に影響を及ぼしていないかをしっかりと見極める必要があります。

ぜひ、今後も身体症状症について、詳しく学びどのような対応が適切なのかをしっかりと身につけましょう。

【参考文献】

  • 入谷修司(2016)『精神科とのクロストーク 身体表現性障害 精神科の立場から』神経治療学 33(3), 409-412
  • 溝部宏二・中込和幸(2007)『神経症性障害, ストレス関連障害及び身体表現性障害(摂食障害を含む)の疾患の概念と病態の理解』精神神經學雜誌109(12), 1157-1164
  • 名越泰秀(2019)『身体症状症および関連症群 (身体表現性障害) の薬物療法はどこまで可能になったのか?』心身医学 59(6), 554-559
  • 太田大介(2020)『老年期の身体表現性障害, 説明困難な身体症状』心身医学 60(4), 321-326

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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