社交不安障害とは?原因・症状・診断基準と治療法、向いている仕事を解説

2022-01-13

大事な会社のプレゼンの時、学校のクラスでの発表の時、心臓の鼓動が早くなり、呼吸が浅くなり、緊張してしまったという人も少なくないでしょう。

一般的にそのような緊張しやすい人のことをあがり症などと呼ぶことがありますが、その苦痛があまりにも強く、社会生活に支障をきたすようであれば、社交不安障害という精神障害の可能性があります。

それでは社交不安障害とはいったいどのような障害なのでしょうか。その原因や症状、診断基準、治療法、向いている仕事などについてご紹介していきます。

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社交不安障害とは

社交不安障害とは、人前に立つなど苦手とする対人場面に強い不安を感じることで社会適応に支障をきたす障害です。

精神障害としての社交不安

社交不安障害は誰にでも経験がある緊張とよく似た症状を示すため、精神障害として認識されたのは近年のことです。

社交不安を障害であると指摘したのは、日本人の森田正馬という人物です。

森田による対人恐怖の指摘

森田は、独自の神経症理論を展開し、あるがままを受け入れる治療プロトコルである森田療法を開発したことで非常に有名です。

1930年代に神経衰弱と1つにまとめられていた病態の中から、対人場面において強い恐怖に支配され、日常生活を送るうえで重大な支障をきたしているものに対し「対人恐怖」と名付けました。

ここでの対人恐怖が生じるメカニズムは、不安や恐怖などの感覚に対し意識が集中することによって、より過敏になり、一層不安感やそれに伴う身体症状が強く感じられ、そのことしか考えられなくなってしまう精神交互作用にあると考えられていました。

対人恐怖では、他者と対面する場面で生じる恐怖であり、社会生活を送るうえで他者を意識することは当然のことです。

そのような状況下では「他者によく思われたい」という願望を抱くものであり、この欲求が強いほど、「相手に嫌われたら、変に思われたらどうしよう」という考えが強くなってしまい、それにとらわれてしまうことこそが対人恐怖の中核であると考えられていました。

欧米での社交不安障害の評価

近年になり、社交不安障害は注目を集めていますが、世界的に用いられている精神障害の診断と総計マニュアルであるDSMでは、1980年代の第3版の改訂まで記載されることはありませんでした。

それまでに社交不安障害を初めて指摘したのはマークスという精神科医であり、1966年に恐怖症の臨床的な特徴をまとめ、広場恐怖・特定の恐怖症・社会恐怖の3タイプを見出しています。

この中でも社会恐怖こそが現在の社交不安障害の前身となるもので、「社会との交流があるときに悩んだり回避したりする際に、じろじろ見られたり評価されることへの過度の恐怖」と定義されています。

そしてDSM-3への改訂がなされる際に初めて、社会恐怖は恐怖症から独立した1つの疾患として扱われるようになりました。

このことにより、社会恐怖は広く注目を集める精神障害となり、世界的な疫学調査が行われるようになりました。

その結果、社会恐怖は70%が女性で、若年、低所得、教育の程度が低く、独身もしくは別居や離婚状態の者が多いこと、有病率は2.4%であるなどの知見が示されています。

社会恐怖から社交不安障害へ

社会恐怖という疾病概念が広く知られるようになってから、その調査研究は盛んに行われ、社会恐怖を評価する尺度(LSAS)が開発されました。

これは24項目という簡便な質問紙ながら、高い精度で社会恐怖を測定することのできる尺度です。

こうした研究により、診断基準もより明確なものとなっていき、1994年のDSM-Ⅳへの改訂に伴い、社旗恐怖には、社会不安障害が併記され、恐怖症から、不安障害へと名称が変更されました。

恐怖とは特定の対象へ感じる反応であり、父親が怖い、上司が怖いなど特定の人間に対して感じるものは恐怖となります。

しかし、社会不安障害は、社会的場面という実態のないものに対して幅広く不安を感じ、社会生活に支障をきたすという病態に合わせ、不安障害の一つとして捉えられるようになりました。

これにより、社会恐怖の「社会に対し恐怖を抱く」というネガティブなイメージから生じる偏見や差別を恐れ、受診率が低下するなどを問題を軽減することにもつながると考えられています。

なお、日本では社会不安障害という表記がなされていましたが、2008年に日本精神神経学会により、より実態に近い社交不安障害へと名称が変更され現在に至ります。

社交不安障害の原因

社交不安障害の原因として指摘されている要因としては、生物学的な要因と性格的な要因が挙げられます。

生物学的な要因

社会不安障害の人は不安な状況に対し、健康な人に比べ脳の反応が過敏であることが指摘されています。

そして、薬学研究の発展から脳内の神経伝達物質のバランスが乱れていることも指摘されており、脳という生物学的基盤で何らかの異常が起こることで症状が現れると考えられています。

このような脳の異常の引き起こす要因としては、遺伝的影響が考えられます。

社交不安障害も少なからず遺伝による影響を受ける可能性が指摘されており、親子で顔が似るように、脳の構造も似ているため、このような遺伝的影響を受けるものと考えられます。

性格的な要因

しかし、親が社交不安障害を罹患しているからと言って必ずしも発症するとは限らないでしょう。そのような違いを生み出すのが、生まれた後の環境から受ける影響です。

特に、社交不安障害の人は次のような性格特徴を持っていると言われています。

  • まじめで責任感が強い
  • 心配性で完璧主義
  • 人との交流が苦手・交流を求めない
  • 人から良く思われたいと思いやすい

そのため、このような性格になるような育てられ方や虐待・いじめなどネガティブなイベントを経験することが社交不安障害のリスクを高めると考えられています。

社交不安障害の併存疾患

社交不安障害の病態は複雑なものであり、社交不安障害の半分以上には他の精神疾患を併発しているというデータがあるほどです。

社交不安障害が先行し、その後発症する可能性が高い疾患としては、他の不安障害、うつ病、アルコール依存症などが挙げられます。

特にうつ病は社交不安障害によって社交場面を回避することにより、社会的引きこもりとなり、その孤立からうつが引き起こされるという見解もあります。

特に合併症を抱えている社交不安障害患者は自殺率が高いことが指摘されているため、社交不安障害の診断に加え、併存疾患がないかを見極めることも非常に重要です。

社交不安障害の治療法

社交不安障害の治療においては、薬物療法と心理療法を組み合わせて行うことが主流です。

薬物療法

社交不安障害の原因は、脳内の神経伝達物質の分泌に異常がみられることであるとお話ししました。

そして、社交不安障害に有効とされている薬は、本来、抗うつ薬として有名なSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれるものです。

本来、脳神経は電気信号(インパルス)を通じて、情報伝達を行っていますが、神経と神経の間にはわずかな隙間(シナプス間隙)が空いています。

そのため、シナプスと呼ばれる神経の末端から、情報を伝える神経へ神経伝達物質を放出し、それを受容することでシナプス間隙を乗り越えて情報伝達を行っています。

この神経伝達物質のうちセロトニンと呼ばれるホルモンの量を調整する役割を持っているのがSSRIなのです。

心理療法

社交不安障害の治療においては、特に認知行動療法が有効であるとされています。

認知行動療法とは、思考やそれに基づいた感情・行動をターゲットとして介入を行う心理療法です。

社交不安障害は、恐怖対象となる社交場面に強い不安を感じるため、その社交場面を避けようとする回避行動が生じ、それによってさらに社交場面を恐れるようになるという悪循環に陥ります。

そのため、社会的状況の脅威を過度に高く見積もってしまうというコストバイアスが社交不安の中核を担っているとされます。

認知行動療法では、そのような認知の歪みに対してアプローチを行い、回避行動を修正することで不安という不快な感情を低減させるよう導くのです。

社交不安障害の人に向いている仕事

社交不安障害を発症すると、人と関わる場面を避けなければならなくなるため、仕事を継続することが困難となるケースが多いでしょう。

しかし、現代ではテレワークの普及や在宅でのフリーランスなどによって生活費を稼ぐ人も出てきています。

例えば、社交不安障害を発症して休職した後に、復職を目指す場合などはまずはテレワークの導入などにより、段階的に仕事に慣れていくこともできるかもしれません。

また、人との関わりに対して過敏になっている状況なので、家族や職場の人が変に心配し、ぎこちなくなってしまうとかえって本人の負担となるケースもあります。

そのため、職場に復帰した際などは、本人の気持ちを思いやりながら、なるべく普段通り接するよう心がけることが重要です。

社交不安障害について学べる本

社交不安障害について学べる本をまとめました。

社交不安症がよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)

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社交不安障害はあがり症のように捉えられ、その苦痛を正しく理解してもらえないことはその後の社会適応に大きく関わるでしょう。

そのため、社交不安障害について正しい知識を持つために、本書で社交不安障害を詳しく勉強しましょう。

社交不安障害: 原因、症状、診断、および治療

社交不安障害かそれともただのあがり症なのかについての判断は非常に難しいでしょう。

そのため、正しい知識を持つことが重要です。

本書では、社交不安障害の原因から治療法まで包括的な内容がまとめられているため、ぜいひ目を通して社交不安障害の全体像を掴みましょう。

家族だからできるサポートもあります

社交不安障害では、患者自身が規則正しい生活習慣を確立し、日々をリラックスして過ごせる環境も重要です。

そのような環境づくりに一番求められるのが家族による理解とサポートでしょう。

そのため、心理臨床の現場では、社交不安障害の症状を直接軽減させるアプローチに加え、家族へ心理教育を行い、包括的に患者が過ごしやすい環境づくりをしていく必要があるのです。

皆さんの周りに社交不安障害の人がいたら、自信の健康にも気を配りながら、適切なサポートを行い、ゆっくりと回復を待ってあげてください。

【参考文献】

  • 音羽健司・森田正哉(2015)『社交不安症の疫学―その概念の変遷と歴史―』不安症研究 7(1), 18-28
  • 朝倉聡(2015)『社交不安症の診断と評価』不安症研究 7(1), 4-17
  • 城月健太郎(2020)『社交不安症の認知行動療法の展開』武蔵野大学認知行動療法研究誌
  • (1), 12-18

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    • この記事を書いた人

    t8201f

    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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