日常生活、職業生活をより良いものにしていくためには、自己理解を深めることが大事であると言われています。自己理解を深める方法は様々ありますが、心理検査を活用することも一法です。
今回は心理検査の中から「東大式エゴグラム(TEG)」を紹介します。東大式エゴグラムは、性格傾向や行動パターンを把握することができ、実施が簡便なこともあって医療・教育・産業など幅広い分野で活用されています。
ここでは、東大式エゴグラム(TEG)とは何か、代表的なパターン、結果の解釈について解説します。
目次
東大式エゴグラム(TEG)とは
東大式エゴグラム(Tokyo University Egogram 略称:TEG)は、質問紙法の性格検査です。アメリカの精神科医バーンが提唱した交流分析をもとに、東京大学医学部心療内科TEG研究会が開発しました。
現在は2019年出版の「TEG3」が用いられており、概要は以下のとおりです。
- 対象年齢 16歳以上
- 所要時間 5~10分程度
- 質問項目 53項目、「はい」「いいえ」「どちらでもない」のいずれかに回答
- 回答方法 検査用紙・マーク式用紙(コンピュータ採点)・オンライン
- 医療点数 80点
そして、質問項目の回答を採点し、5種類の自我状態をグラフ化することによって、自己の性格傾向や行動パターンについて把握します。
以下、参考となる用語をまとめています。
交流分析とは
交流分析は、アメリカの精神科医バーンによって提唱されたパーソナリティーやコミュニケーションに関する理論及び心理療法です。
交流分析において、人には「親(Parent:P)、成人(Adult:A)、子ども(Child:C)」の3の自我状態があり、それぞれの自我状態の量を分析することによって、性格傾向や行動パターンを把握することができると考えられています。
エゴグラムとは
エゴグラムは、交流分析をもとに弟子のデュセイが考案した性格検査です。
デュセイは、PをCP(批判的な親)とNP(養育的な親)、CをFC(自由な子ども)とAC(順応した子ども)に分け、自我状態を5つ(CP・NP・A・FC・AC)に分類しました。
この5つの自我状態のエネルギー量をグラフで表したものがエゴグラムであり、東大式エゴグラム(TEG)もそのひとつです。
自我状態とは
自我状態は、思考・感情・行動のもとになる心のエネルギーのことを表します。エゴグラムにおいては以下の5つの自我状態に分類にされています。
- CP(Critical Parent:批判的な親)
特徴:道徳的、倫理的、支配的、威圧的、理想の追求 - NP(Nurturing Parent:養育的な親)
特徴:養育的、保護的、世話好き、温かい、過干渉 - A(Adult:大人)
特徴:客観的、現実的、合理的、計画的、冷淡 - FC(Free Child:自由な子ども)
特徴:活動的、好奇心旺盛、積極的、自由奔放、自己中心的 - AC(Adapted Child:順応した子ども)
特徴:協調的、従順、依存的、素直、受動的
東大式エゴグラムの特徴と目的
東大式エゴグラムの特徴としては、実施及び採点が簡便な点が挙げられます。
53項目の選択式のため所要時間が短く、受検者への負担が少ないほか、用紙に採点方法が記載されており、採点も容易です。加えて、自己記入型であるため、個人でも集団でも実施することが可能であり、総じて実施や採点が簡便な検査と言えます。
他方、質問紙検査全般に言えることですが、意図的に回答を操作しやすくなる点は挙げられます。
目的としては、自我状態のバランスから、性格傾向や行動パターンを把握し、自己理解を深めることが挙げられます。そのほか、受検者の性格傾向や行動パターンを知ることを目的に使用され、治療方針の決定などアセスメントにおいて重要な役割を果たしています。
東大式エゴグラムの検査方法
検査方法は、53項目の質問に対して、当てはまると感じた場合は「はい」、当てはまらないと感じた場合は「いいえ」に〇を付けます。どうしても決まらない場合は「どちらでもない」に〇を付けます。
なお、回答の際は深く考え過ぎず、ありのままを直感的に回答することが望ましいとされています。
採点は、回答用紙に記載のある採点方法に従って進めます。CP・NP・A・FC・ACの5つの尺度(自我状態)の得点を計算し、棒グラフに表します。(棒グラフは左からCP・NP・A・FC・ACと並びます)
東大式エゴグラムにおける代表的なパターン
グラフの高低、つまり自我状態の現れ方によって、いつくかのパターンに分類することができます。ここでは、代表的なパターンをいくつか紹介します。
優位型と低位型
まずは、1つの自我状態が突出して高い場合を優位型、低い場合を低位型と分類します。
例えば、「CP優位」の場合は、CP(批判的な親)の特徴が強く出ていると考えられます。つまり、責任感が強く、規則をしっかり守るところがある半面、理想を追求し過ぎて頑固になったり、自分と意見が違うと批判的になりやすいと言えます。
一方、「CP低位」の場合は、CPの特徴が弱いと考えられます。つまり、融通性があってのんびりしているが、責任感に乏しく規律を守らない傾向があると言えます。
「NP優位」は、親切で面倒見が良い半面、過干渉となりやすい傾向があり、「NP低位」は、他者にお節介をすることはないが、思いやりに乏しく放任的となりがちと言えます。
「A優位」は、冷静に物事を分析・判断できるものの、理屈っぽく冷たい印象を与えがちで、「A低位」は、直感的に考える傾向が強い半面、計画性がなく場当たり的になりやすいと言えます。
「FC優位」は、明るく活動的で、周囲を楽しませることができる半面、度を超すと場をわきまえず、自己中心的に振る舞いがちで、「FC低位」は素直で大人しいが、積極的に欠けていると言えます。
「AC優位」は、他の人の意見を聞くなど協調性が高い半面、主体性に乏しく依存しがちな傾向があり、「AC低位」は自分をしっかり持っているものの、周囲と協調できず思いのままに行動しやすいと言えます。
棒グラフの形
そのほか、自我状態の高低のバランス(棒グラフの形)から、以下のようなパターンも分類できます。
「M型」(NP・FCが高い)の場合、明朗で元気、自分も他人も肯定的に捉えるといった傾向があると言えます。一方、CP・A・ACが低いと、周囲のことを考えず羽目を外したり、お節介をしてしまったりする場合があります。
「N型」(NP・ACが高い)の場合、優しく献身的であるが、嫌とは言えない面もあるので自己犠牲的になりがちな面もあります。
「逆N型」(CP・FCが高い)の場合、理想が高く、創造力が豊かであるものの、NP・ACが低いと、思いやりに乏しく、他者の意見を聞き入れないため、周囲と摩擦が生じることがあります。
「W型」(NP・FCが低い)の場合、批判力があり、合理的に考えることができるものの、NP・FCが低いことから他者否定的な上、自己主張が苦手であるため、他者とうまく交流できない中、葛藤を抱えてしまいがちです。
このほかにも様々なパターンが存在し、各尺度のバランスによってバリエーションは様々あります。
東大式エゴグラムの結果の解釈
目的の部分でも記載しましたが、東大式エゴグラムは自身の自我状態を把握し、自己理解を深めるためのツールです。
したがって、結果に「良い・悪い」「正常・異常」があるわけではありません。大事なのは、それぞれの自我状態の特徴から、自分の傾向を総合的に理解することにあります。
例えば、同じNP優位であっても、Aが低い場合だと、客観的に判断する力が低く、親切のつもりで行ったことが、実は相手にとってお節介だったという仮説が考えられます。一方、ACが低い場合だと、相手のことを考えずに世話を押し売りしている可能性が考えられます。
このように、それぞれの自我状態の特徴(高い場合と低い場合、長所や短所)を理解し、仮説を立てていくことが自己理解につながります。
また、結果を活用するに当たっては、低い自我状態を上げていくアプローチが一般的と言われています。例えば、CPが低い場合、時間を守る。NP低い場合、人を褒める。A低い場合、物事の理由を考える。FC低い場合、よく笑う。AC低い場合、相手を立てるといった行動が挙げられそうです。
東大式エゴグラムを受けるには
東大式エゴグラムは心理検査ですので、心療内科や精神科などの医療機関を受検することができます。
なお、東大式エゴグラムは健康保険が適応できる心理検査であり、診療報酬は80点と定められています。1点10円ですので費用は800円、健康保険で3割負担の場合は240円を支払うことになります。
そのほか、自己理解・自己分析のツールとして、進路指導や就職支援、キャリア相談など様々な場面で実施されています。
エゴグラムを無料で体験する
上記のとおり、東大式エゴグラムは有料の検査ですが、インターネット上にはエゴグラムを用いた性格診断が無料で体験できるサイトも存在します。
まずは無料で試してみたいと思われる方は、こうしたサイトを活用することもひとつです。「エゴグラム 無料診断」などで検索されてみると良いでしょう。
東大式エゴグラムについて学べる本
最後に、東大式エゴグラムについて詳しく学ぶ上で参考になる書籍を紹介します。
最新版のTEG3ではありませんが、概要は大きくは変わりませんので参考となります。東京大学医学部心療内科TEG研究会による編集であり、東大式エゴグラムとは何かといった基礎的な部分を押さえることができます。
心理検査は実施して終わりではなく、結果をどのように活かしていくかが肝要です。この書籍では、医療場面のほか親子関係、キャリア開発や就労支援など様々な分野における活用事例が紹介されており、実践的なイメージを得ることができます。
対人関係・コミュニケーションの改善について、交流分析の理論を用いて分かりやすく解説されています。自分ですぐに実践できることも多く、具体的な活用法が掴みやすい内容となっています。
より良く過ごすために、自己理解を深めること
エゴグラムのもとになった交流分析においては、過去と他人を変えることはできないとして、「今、ここ」の自分を変えていくことが原則とされています。
自分を変えていくためには、まずは自分を知ることが大切です。自身の性格や行動傾向を知ることで、自身の考え方の偏りや陥りやすいパターンに気が付くこともあるかと思います。
そして、自己理解が進むことによって、他者との関わり方を見つめ直すことにもつながり、コミュニケーション改善の助けともなります。
自己理解を深める方法は様々ですが、エゴグラムは自分を知るきっかけとなるような自己理解に役立つツールですので、興味を持たれた方は是非活用してみてください。
参考文献
- 東京大学医学部心療内科TEG研究会 編集(2006)『新版TEG2 解説とエゴグラム・パターン』金子書房
- 杉田峰康 著(2018)『3つの自分で人づきあいがラクになる: エゴグラムで見える本当の私』創元社
- 桂戴作 著(1986)『自分発見テスト―エゴグラム診断法』講談社
- 金子書房HP『新版TEG® 3【10月27日 オンライン版発売!】』(2021年8月7日参照)