ウェルビーイングとは?福祉・教育・ビジネスにおける実践例とデジタルウェルビーイング

今回は、ウェルビーイングについて学んでいきます。ウェルビーイングとはどういうものなのでしょうか。

福祉・教育・ビジネスといった日常生活におけるウェルビーイングの実践例も見ていきます。

また、近年着目されているデジタルウェルビーイングの意味や、デジタルウェルビーイングを維持する方法についても学んでいきます。

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ウェルビーイングとは

まずは、ウェルビーイングの意味から見ていきましょう。

ウェルビーイングの意味と定義

ウェルビーイング(Well-BeIng)という言葉が初めて使われたのは、1946年のWHO(世界保健機構)憲章草案でした。

そこでは、健康について、次のように記載されていました。

健康とは、身体的、精神的、社会的に良好な状態であり、単に疾病に罹患しておらず、衰弱していない状態ということではない

この中の「良好な状態」というのが、ウェルビーイングの語源となっています。その後、ウェルビーイングがQOL(生活の質)の到達目標となりました。

1990年にWHOはQOLを次のように定義しました。

個人が生活する文化や価値観の中で、目標や期待、基準および関心に関わる自分自身の人生の状況についての認識

つまり、このような認識が高いと感じられる状態がウェルビーイングです。

ウェルビーイングの具体例

転職を考えた事はありますか?今の慣れた職場環境を離れ、時には収入が減るリスクもありながら、転職を希望するが方々がいらっしゃいます。

それは、今の職場環境よりも自分がより良く生きられるから、つまりウェルビーイングが高まると考えるからなのではないでしょうか。

ウェルビーイングの理論

ラファエルら(2017)によると、ウェルビーイング理論については様々なものが存在すると言います。今回はその中から3つを取り上げて見て行きます。

現在の心理学における主要な考え方は、3つ目のPERMAモデルです。

医学的モデル

うつや不安などのネガティブな状態が改善された事を、ウェルビーイングの向上と捉えるものです。

快楽心理学モデル

その時点でのポジティブな感情の高さで、ウェルビーイングを図ろうとするものです。

PERMAモデル

ポジティブ心理学の名付け親であるマーティン・セリグマンは、ポジティブ心理学のテーマはウェルビーイングであると言います。

そして、ウェルビーイングの判断基準である持続的幸福度の増大こそが、ポジティブ心理学の目的としています。

ウェルビーイングの要素であるPERMAは、以下の通りです。

・ポジティブ感情(P:Positive Emotion)

快楽心理学モデルにおいてもウェルビーイングを図る要素ですが、PERMAモデルでは5つの要素のうちの1つとなります。

つまり、PERMAモデルでは、ポジティブ感情だけではウェルビーイングを図ることはできないと考えているのです。

・エンゲージメント(E:Engagement)

没頭している状態であるエンゲージメントは、現在ではなく過去の回想としてのみ存在します。没頭している最中は感情すら存在しないからです。

後から振り返って、「あの時は楽しかった」と思う状態がエンゲージメントです。

・関係性(R:Relationships)

セリグマン(2014)は、「ポジティブなもので孤独なものは実に少ない」と言います。笑ったり、喜びや達成感を感じた時、それは必ず誰かがそばにいたはずだというのです。

・意味・意義(M:Meaning)

自分より大きいと信じる存在に属し仕えることです。自分個人のポジティブ感情は低くても、歴史的な意義や客観的な判断から意義深いと判断される事があります。

芥川龍之介や三島由紀夫など、自殺を選んだ作家達も、歴史的な存在意義は大きかったと考えるのです。

・達成(A:Achievement)

PERMA理論では、達成や成功は、ポジティブ感情や意味・意義などが得られなくても追求されるとされます。ただ勝つためだけ、達成するためだけに人生を送る場合があるというのです。

ウェルビーイングに関する心理学的研究

ウェルビーイングに関する心理学的研究を見ていきましょう。

家族からの愛を感じると、子どものウェルビーイングが高まる?

畠中ら(2006)は、子どものウェルビーイングと家族との関係について研究を行いました。

手続き

中学生を対象に、「家族の情緒的関係」と子どものウェルビーイングについて質問紙法により調査をしました。

「家族の情緒的関係」に関する質問は、次の8つです。

  1. 家で家族とよく話し合う
  2. 家族はあなたのことを気にかけてくれる
  3. 家族の中であなたは信頼されている
  4. 家族はそのままのあなたを受け入れてくれている、
  5. 家族はあなたのことを理解してくれている
  6. 家族に愛されていると感じている
  7. 家族はあなたが中心である
  8. 家族で何かを決めるとき、あなたの意見を聞いてくれる

子どものウェルビーイングに関する質問は、次の4つの構成概念から作成されました。

①身体面のウェルビーイング、②心理面のウェルビーイング、③社会的場面でのウェルビーイング、④自分の未来を創造する力

結果

「家族の情緒的関係」を子ども自身が良いものとして認識しているほど、子どものウェルビーイングが高まる事が分かりました。

つまり、子どもが家族に理解され、家庭を居場所と感じられる安心感が、ウェルビーイングにつながっている事が考えられます。

日常生活におけるウェルビーイングの実践事例

福祉・看護

コロナ禍における医師や看護師の方々の献身的な努力が報道されています。

自らの感染を防ぐために、看護師も防護服を身につけています。患者にとって、顔も分からない相手から世話をしてもらうというのは、どれほど心細い事でしょう。

この状況を改善すべく、防護服の名札に笑顔の写真をつけて患者と接する取り組みをしている海外の看護師がいらっしゃいました。

これにより、患者のウェルビーングはどれ程高まったのでしょう。ウェルビーイングにおける「関係性」の重要性を実感させられる事例です。

教育

国立教育研究所(2017)は、生徒のwell-being(生徒の「健やかさ・幸福度」)についての報告書をまとめています。

生徒のwell-beingには、心理的・社会的・認知的・身体的という4つの特徴があり、その中に様々な側面が存在します。

本報告書では、学習、テストへの不安、学校への所属感、いじめ、運動と食習慣、ICT利用等とwell-beingとの関連について記載されています。

ビジネス

企業にとって社員は財産ですから、成長企業においては以前から社員の満足度を高める環境づくりが行われています。

改めてwell-beingの実践事例として取り上げると、昔から行われている健康診断もそうでしょう。

コロナ禍でのリモートワークの導入、定年退職後の再雇用、モチベーションを高める評価制度なども、ウェルビーイングを高める実践事例と言えます。

近年注目されているデジタルウェルビーイング

ここでは、近年注目されているデジタルウェルビーイングについて見ていきましょう。

デジタルウェルビーイングとは

デジタルウェルビーイングという言葉が初めて用いられたのは、2018年のGoogle I/Oというイベントでした。

生活時間の中でデジタル機器に触れる時間が長くなったため、ウェルビーイングに与えるデジタルな環境の影響が無視できなくなったのです。

スマホ、タブレット、パソコン、またそれを通して得られる膨大な情報を、より良く生きる事に能動的に利用できている事です。

デジタルウェルビーイングを維持する方法

デジタルな物やそれを通した情報にふれている時間と、それ以外の時間のバランスを取る事が1つの方法です。

心理学的な考え方からは、ある行為をする時間を減らすより、別の行為をする時間を増やす方が簡単なのです。

そのため、ウオーキングをする、本を読む、お茶を飲む、家族とお喋りをするなどの時間を取るようにすると良いでしょう。

子供のネット使用制限をしたり、スマホの使用制限機能を使う事もできるでしょう。けれども制限するよりも、他の事に時間を使おうとする方が、ストレスは少なくなります。

ウェルビーイングの資格・セミナー

ここでは、ウェルビーイングの資格やセミナーについてご紹介します。

ウェルビーイングの資格

ウェルビーイング心理教育ナビゲーター(認定講師)

ウェルビーイング心理教育アカデミーの講座を受けて取得する資格です。

ウェルビーイングのセミナー

日本ポジティブ心理学会のセミナー

日本ポジティブ心理学協会では、ウェルビーイングプラクティショナー養成・認定コースという講座があります。

ウェルビーイングについて学べる本

ウェルビーイングについて学べる本をご紹介します。

ポジティブ心理学の名付け親による待望の新刊「ポジティブ心理学の挑戦 “幸福“から“持続的幸福“へ」

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著者のマーティン・セリグマンは、今回、ウェルビーイングの理論の中でご紹介した、PERMA理論の提唱者です。

著者は、ウェルビーイングこそがポジティブ心理学の目標であり、ウェルビーイングは増大して行く事ができると主張します。

本書の構成は、以下のようになっています。

  • 第1章 ウェルビーイングとは何か?
  • 第2章 幸せを想像するーポジティブ心理学エクササイズ
  • 第3章 薬とセラピーの“ばつの悪い秘密“
  • 第4章 ペンシルベニア大学MAPP(マップ)プログラム
  • 第5章 ポジティブ教育ー学校で割るビーイングを教える
  • 第6章 知性に関する新理論ー根気、特性、達成
  • 第7章 アーミー・ストロングー総合的兵士健康度プログラム
  • 第8章 トラウマを成長に変える
  • 第9章 ポジティブヘルスー楽観性の生物学
  • 第10章 ウェルビーイングの政治学・経済

行きたくて仕方がない会社がある?「実践 ポジティブ心理学 幸せのサイエンス」

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アメリカ生まれのポジティブ心理学ですが、不安を抱きやすい日本人にこそ、ポジティブ心理学は有効だと述べられています。

PERMA理論がいまいちしっくりこなかった方にも、著者が日本人向けに発案した、以下の幸せの4つの因子は馴染みやすいかもしれません。

  • やってみよう!因子:自己実現と成長の因子
  • ありがとう!因子:つながりと感謝の因子
  • 何とかなる!因子:前向きと楽観の因子
  • ありのままに!因子:独立とあなたらしさの因子

子どものデジタルウェルビーイング「ゲーム・スマホ依存から子どもを守る本」

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著者は、ゲーム障害等を専門とする精神科医です。本書には、ゲーム・スマホ依存のメカニズムや、依存から子どもを守る方法が書かれています。

今回の記事では自己管理のできる大人を対象としたデジタルウェルビーイングについて学びましたが、子どもの場合は大人の関与も大切になります。

お子様のデジタルウェルビーイングについて、特にゲーム障害やスマホ依存などについて学びたい方、スマホを与えようか迷っている方は読んでおくのも良いかもしれません。

ウェルビーイングは永遠のテーマ

今回は、ウェルビーイングについて学びました。ウェルビーイングという言葉が初めて使われてから80年近くも経っている事に、驚きませんでしたか?

にも関わらず、この言葉に新鮮さを感じるのは、「幸せとはなにか」「どうしたら幸せが増大するのか」という事が、人類にとって永久の課題だからかもしれません。

今も多くの学者がウェルビーイングについて研究を続け、10年後にはまた新しい理論も誕生しているかもしれません。

リモートワークやオンライン授業が普及し、画面越しのコミュニケーションが増えても、人が自分の人生を自分らしく生きられる実感を求め続ける事には、これからも変わりがないのでしょう。

参考文献

畠中宗一・木村直子(2006) 子どものウェルビーイングと家族 世界思想社

樋口進(2020) ゲーム・スマホ依存から子供を守る本

小林正弥(2021) ポジティブ心理学 科学的メンタル・ウェルネス入門 講談社

マーティン・セリグマン (宇野カオリ訳)(2014) ポジティブ心理学の挑戦 “幸福“から“持続的幸福へ“ ディスカヴァー・トウエンティワン

前野隆司(2017) 実践 ポジティブ心理学 幸せのサイエンス PHP研究所

国立教育政策研究所(2017) OECD 生徒の学習到達度調査 PISA2015年調査 国際結果報告書 生徒のwell-being

ラファエル・A・カルヴォ/ドリアン・ピーターズ著 (渡邊淳司/ドミニク・チェン 監訳)(2017) ウェルビーイングの設計論 人がよりほく生きるための情報技術 ビー・エヌ・エス新社

島井哲志・長田久雄・小玉正博(2020) 健康・医療心理学 入門ー健康なこころ・身体・社会づくり 有斐閣アルマ

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    • この記事を書いた人

    こころ

     臨床心理学・実験心理学等を学んだ後、心理カウンセラーとして勤務。現在はライターとして活動中。

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