般化(汎化)とは、似ている刺激に同一の反応を示す現象のことを指します。例えば、医師の前で緊張してしまう人が、白衣を着る他分野の職業の人に対しても緊張してしまうことがありますね。これは「白衣を着ている」という刺激の般化が招いた現象です。
また、物事を関連付ける力はネガティブな反応を引き起こすだけでなく、日常生活での応用力として発揮されることもあります。今回は私たちの認知にさまざまな影響を与える般化について、具体例を交えながらより分かりやすく解説していきます。
目次
般化(汎化)とは
まずは般化の基礎知識について見ていきましょう。
般化の意味・定義(刺激般化と反応般化)
般化は以下のように説明されています。
ある特定の刺激のもとで反応が強化されたために,他の刺激のもとでもその反応が増大することを刺激般化 stimulus generalizationという。このように刺激般化とは,ある刺激のもとで強化された反応が,他の刺激のもとでも生じる(増大する)ことを指す。
一方,ある特定の反応が強化されたために,それと類似した反応も増大することを反応般化 response generalizationという。反応般化は,すでに獲得されている反応から徐々に新しい反応を形成していく行動形成(接近法)に必須の過程である。
(引用:最新 心理学事典)
ある刺激に対して起きる反応が、似ている刺激に対しても生じることを「刺激般化」と呼びます。
例えばヘビに噛まれてヘビ嫌いになった人がいるとしましょう。その人は道行くトカゲやテレビに映るイグアナ、挙句の果てにヘビのおもちゃにまで嫌悪感を示すようになりました。
「ヘビと似た顔を持つ爬虫類」「ヘビと似た動きをするおもちゃ」こうした刺激が般化によって同列の嫌悪対象となり、反応範囲が広がったと考えることができます。
これとは逆に、似ている刺激の中で特定の刺激のみに反応することを「弁別・分化」といいます。
また、1つの刺激に対してある反応が起きたとき、それと似ている反応も生じるようになっていくことを「反応般化」と呼びます。
般化の具体例
ここからは具体例を挙げながら、それぞれの般化の特徴についてもう少し詳しくご紹介します。
刺激般化の例
- 「生牡蠣を食べて食中毒になったせいで、他の生ものが怖くて食べられなくなった」
- 「電車でパニック発作を起こしてから、バスやタクシー、飛行機にも乗れなくなった」
こうしたネガティブな刺激の範囲を広げてしまうのは無意識な般化の仕業です。「生もの」や「乗り物」といった、元の刺激との共通点を認知する機能が、多くの刺激般化を生み出します。
反応般化の例
- 「この仕事は初めて任されたけれど、以前取り組んだ内容と似ている。それならあの時と同じようにやってみよう」
刺激に対する反応が強化されていると、似ている反応を示す割合も増加します。これを反応般化と呼びます。
反応般化は接近法に欠かせない過程です。接近法(シェイピング法)とは、大きな目標を達成する際に、小さな段階を設定し1つずつクリアしていく方法を指します。詳しくは以下のシェイピング法の記事をご覧ください。
シェイピングとは?心理学における意味や定義、日常生活での応用方法を詳しく解説
大きな目標を掲げた後、な ...
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般化模倣の例
人は初めて何かを行う際、兄弟や熟練者の行動を観察し、真似することがあります。この時にきちんと褒めたり報酬を与えることで、模倣(真似)を条件づけすることができるのです。
般化模倣とは、対象となる人物の行動を真似して良い結果が生まれると、その後も対象人物の行動をよく真似するようになることを指します。幼児の兄妹を例に見てみましょう。
- 「お兄ちゃんの真似をして部屋の片付けをしたらお母さんに褒められた。」
妹は兄を真似て部屋の片付けを始めました。片付けると母から褒めてもらえると理解した妹は、次第に片付け以外の兄の行動も真似し始めます。
学習された模倣は、場面や状況が変わっても般化するのが特徴です。(例:兄→幼稚園の先生、部屋の片付け→靴をしまう)
パブロフの犬の実験で理解する般化
般化についてよく分かるのが、古典的条件付けで有名なパブロフの犬の実験です。
犬はエサを見れば自然と唾液が分泌されます。ですがベルの音を聞かせても唾液は出ません。ベルの音はエサと全く関係ないので、これは自然な現象です。
しかしエサを与える直前に毎回ベルの音を聞かせると、ベルの音を聞いただけでも唾液を分泌させるようになります。これを古典的条件付けと言います。
さらに条件付けが施された犬は、ベルだけでなくベルに似た音にも唾液を分泌するようになりました。これが「般化」です。元のベルの音に近ければ近いほど般化は生じやすくなります。
弁別と般化
古典的条件付けではもう少し複雑な手順を踏むことも可能です。
例えばベルAの後にはエサを与え、ベルBの後には与えないようにします。こうした手順を繰り返すと犬はベルの音を区別し、ベルAでのみ唾液を分泌させるようになるのです。これが前述した「弁別・分化」です。
般化勾配
特定の刺激に充分な反応が得られるようなった後、与える刺激の次元を変化させ反応の大きさがどのように変わるか調べることができます。この変化比率(または変化比率のグラフ)のことを「般化勾配」(はんかこうばい)と呼びます。勾配は「傾斜の度合い」という意味です。
刺激の次元とは、音であれば「高さ」や「大きさ」、光なら「明暗」や「色合い」です。横軸に刺激の次元、縦軸に反応数を取りグラフを作ると、特定の刺激での反応数を頂点とし綺麗な山型になります。
犬にベルAの音を条件付けした後、ベルAの波長を少しずつ変化させて聞かせます。するとベルAで唾液分泌が最も盛んになり、ベルAの音から離れるほど(波長の変化が大きいほど)その反応は弱くなっていきました。
このように刺激を弁別した後の般化勾配は「弁別後般化勾配」とも呼ばれます。刺激を弁別させずに行う測定よりも勾配の傾斜は急になり、反応の頂点はより高い位置を示します。
ヒトの般化に関する心理学的研究
次に般化に関する心理学実験を見てみましょう。
ワトソンの恐怖条件づけの実験
1920年、JBワトソンらは生後11か月になるアルバートという男の子を対象に、恐怖条件付けと呼ばれる実験を行いました。
- アルバートに白ネズミを見せると興味を示し、手を伸ばして触れようとした。
- その際、背後で鉄の棒を叩き大きな音を鳴らす。するとアルバートは激しく飛び上がりマットに頭をつけてしまった。
- これを数回繰り返すと白ネズミを見せただけで泣き出し、はいはいして逃げ出すようになる。
- 実験後アルバートは白ネズミだけでなく、白うさぎや白いあごひげのサンタクロースのお面にまで恐怖を示し泣き出した。
アルバートは「白ネズミは怖い」という条件付けがされた後、般化によって「白くてふわふわしたもの」すべてを怖がるようになりました。
社会における般化の活用
先ほどのアルバート坊やの実験ではマイナスに作用していますが、般化はうまく活用することで社会生活に役立てることもできます。実際どのような場面で活かされているのか見てみましょう。
自閉症児への特別支援
般化は物事を関連付けて考えたり、過去の経験を応用する能力に繋がります。しかし自閉症児は独特のこだわりを持っており、状況に応じての般化や弁別が苦手です。
「家では歯磨きが出来るのに、学校だと出来ない」という状態について考えてみましょう。自閉傾向のない人たちにとって歯磨きをどこでするのも変わりありません。それは場面や状況を上手く般化できているということです。
しかし自閉症児は違います。「1つの課題と1つの場面」この結びつきが強すぎて、場面が移り変わると同じような行動をとることが難しいのです。
児童の般化や弁別を促すためには
- 1つの意味に対して、たくさんの事例を体験し一貫したカテゴリーを整理する
- 幼児期からの「似通っている」と「違い」などの分類課題で概念の理解を深める
(引用:自閉症教育・支援フレームワーク BOUZAN NOTE)
こうした地道な支援や指導が必要となります。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)
ソーシャルスキルとは、社会生活や対人関係を円滑に営むために必要な技能や技術のことを言います。通常暮らしの中で自然と身に付いていくものですが、上で説明したような自閉傾向のある人たちにとっては困難だとされています。
しかし訓練を繰り返せば習得することも可能です。このソーシャルスキルトレーニング(SST)の中にも般化が用いられています。
- 教示
「なぜそのような行動をしたほうが良いのか」といった行動の必要性を説明する。 - モデリング
実際に他者の行動や動画を見て、良いところや悪いところを学習する。 - リハーサル
日常での1コマを想定し、役割を決めてロールプレイを行う。 - フィードバック
行動を振り返り、適切な場合は褒め、間違っていたら修正の指示を出す。 - 般化
1~4までで得た知識やスキルを、日常生活のあらゆる場面で発揮できるようにする。
最終的な目標は、般化の場面を増やし多くの状況でソーシャルスキルを活かせるようになることです。学習すれば般化の力は養われていきます。対象者の自己肯定感を高めていけるようにサポートしましょう。
マーケティング
売れている商品を参考に、色使いや字体などパッケージを似せることがあります。これは消費者の無意識な般化を狙い、自然と手に取ってもらえるように操作しているのです。
例えば新しいビールを発売したいと考えます。その際、新イメージを確立するために目新しいパッケージを採用するよりも、実は現段階で最も売れている商品を真似するほうが効率が良いのです。
消費者心理としては「売れているビールと似ていて美味しそう」「なんとなく安心感がある」といった状態になります。これも我々の般化を上手く利用したマーケティングだと言えます。
般化について学べる本
プログラム学習で学ぶ行動分析学ワークブック
行動分析学とは、人や動物の行動を分析する一つの学問体系のことを指します。我々の行動は古典的条件付けとオペラント条件付けの2つに基づいているとされており、今回紹介した般化や弁別といった原理もこの中に属します。
本書では身近な事例を用いて行動分析学の基礎を学習することが出来ます。初心者の方のテキストに最適な一冊です。
高機能自閉症・アスペルガー障害・ADHD・LDの子のSSTの進め方
自閉症や発達障害の子供たちが社会で円滑な対人関係を築くためには、ソーシャルスキルトレーニング(SST)を用いてソーシャルスキルを獲得させることが重要だとご紹介しました。
「SSTがまだイマイチよく分からない」「どうやって実践すべきか知りたい」「導入のコツは?」といった悩みを持つ初学者には、本書が入門書として大いに役立ってくれるでしょう。40枚の絵カードも付いているので、実際に児童とトレーニングを行うことも可能です。
本書で鍛えたスキルは、般化を用いて日常で活かせるようにしましょう。
般化で鍛える応用力
般化を活かせる分野は、教育やマーケティングに留まらず、医療現場でのリハビリやカウンセリングなど幅広い領域に及びます。反応の基となる刺激(物事)の関連性について今一度考えてみると、生活に活用出来る思わぬヒントが見つかるかもしれません。
般化とはまさに応用力の基盤です。察することが早い人、何でも器用にこなせる人たちは物事の共通点を見つけるのが上手く、般化能力に長けているのではないでしょうか。広く柔軟な心で全体を見渡し、般化を用いて多様な場面で経験を活かしていきましょう。
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参考文献
- 鹿取廣人・杉本敏夫・鳥居修晃 (1996). 『心理学 第3版』東京大学出版会 14-16,68,69,78,79.
- 徳田克己・髙見令英文 (2003).『ヒューマンサービスに関わる人のための教育心理学』化書房博文社 13-15.
- 杉山尚子『行動分析学入門ーヒトの行動の思いがけない理由』集英社 73-75.
- 自閉症教育・支援フレームワーク BOUZAN NOTE『関係理解・般化の困難さ』
- 子どものためのソーシャルスキルトレーニング きみならどうする『ソーシャルスキルトレーニングとは』