心理検査は質問紙法、投映法、作業検査法など様々な種類がありますが、紙と鉛筆(ペン)を使って絵を描くことでそこに現れた被検者の心理状態を読み取ろうとする描画法と呼ばれる検査も存在します。
今回は風景構成法と呼ばれる検査を取り上げ、その目的や実施方法、解釈に加え、実際の事例もご紹介します。
目次
風景構成法とは
風景構成法とは、日本の精神科医である中井久夫が開発した、1枚の紙に風景を描いてもらう心理検査もしくは芸術療法です。
Landscape Montage Techniqueという英語名の頭文字をとって、LMTと呼ばれることもあります。
風景構成法の目的
風景構成法は開発された当初は、統合失調症患者と非言語的な交流を行うことを目的とされていました。
そして、これまでの研究や心理臨床の現場での知見の積み重ねにより、独特の臨床的な意義を持ち、芸術療法という治療的な側面とアセスメントに用いる心理検査としての側面を持つものとして位置づけられています。
風景構成法が受けている影響
風景構成法は開発に至るまで多くの影響を受けています。
- 絵画療法と象徴解釈を重視するユング心理学
- サリヴァン,H.Sの「関与しながらの観察」の考えに通じるなぐり描き法
- 箱庭療法
特に3においては、日本の著名なユング心理学者である河合隼雄は統合失調症患者に対する箱庭療法の作品は柵で囲まれたものが多いということを指摘しています。
そして、この示唆に影響を受けた中井は風景構成法にいて枠づけ法という技法を開発しています。
枠づけ法は、描画を行う紙に端に沿った四角い枠を描いておくというものです。
枠づけ法によって、描画者が紙の上においてこころの内面を表現しすぎ、傷ついたり疲れすぎてしまわないよう保護するとともに、表現することを促すという二重の性質があるということが指摘されています。
風景構成法の実施方法
風景構成法の実施に必要な用具や教示は次の通りです。
【用具】
- A4の紙
- 黒のサインペン
- クレヨンなどの彩色を出来るもの
【教示】
今から私が言うものを、ひとつひとつ唱えるそばからこの枠の中に描きこんで、全体として一つの風景になるようにして下さい。
最初の教示が終わったら、次の順番で描く題材を伝えていきます。
- 川
- 山
- 田
- 道
- 家
- 木
- 人
- 花
- 動物
- 意思
- 足らないと思うもの
これらを順番に描いてもらったら、クレヨンで彩色をするように伝えます。必要に応じて描いた絵画の気候や天気などの質問をすることがあります。
なお、a~dまでの題材は大景群、e~gまでの題材は中景群、h~jまでの題材を小景群と区別されています。
風景構成法の解釈
実は、風景構成法には標準化された解釈は存在しません。
そのため、風景構成法から得られる精神疾患の診断のための情報は主観的だと批判を受けることもあります。
ただし、これまでの研究から各疾患に特徴的な空間の構成があることが分かっています。
形式 | 説明 | 臨床像 |
キメラ的多空間 | 複数の空間が不自然に接合している | 妄想型統合失調症 |
真空世界 | 遠くが薄く青みがかるなど遠近感の表現がない | 解体型統合失調症 |
近影化 | 近影の強調 | 妄想型統合失調症・ヒステリー |
鳥瞰図 | 真上から見た、地図のような風景 | 躁病 |
虫瞰図 | 遠景がそそり立ち視線が地表近くのような風景 | うつ病 |
リリバット化 | 人物の狭小化 | 嗜癖者 |
稜線の枠越え | 山頂が見えなくなっている | 不登校 |
左近影 | 画面の左を手前にした風景 | 内向型・自閉性ナルシズム |
右近影 | 画面の右を手前にした風景 | 外向性・反社会性 |
これらの特徴は必ずしも、診断を行ううえでの決定因ではありませんが、各疾患や心理的な特徴ごとに描かれる絵が異なることは非常に興味深いと言えるでしょう。
風景構成法の事例
久保薗(2015)は作品と書き手の心理の変化を探ることを目的として風景構成法の事例を発表しています。
【被検者情報】
男性(Bさん)
一回目:20歳大学生
二回目:22歳大学院一回生
※2年の感覚をあけ、風景構成法を2回実施
この被検者が描いた描画はこのようになっています。
※久保薗悦子(2015)『風景構成法に表れる心理的変化 : 二事例の語りについての検討』P19より
この2つの絵を見比べると、一回目の描画は全体としてまとまりがなく、空白が目立ち、どこか寂しげで空虚な印象を受けます。
それに比べ二回目の描画では、それぞれの題材が意味を持ったまとまりを成しており、それぞれも適切な大きさで書かれ、生き生きとした情景が表現されるようになっています。
中でも、象徴的なのは山を転がる岩です。
久保薗は、これはせっかちで止まることが出来ない被検者の自己像の表れではと考察しています。
そして、2年間で部活動やアルバイトなど様々な経験を積む中で、自分らしさについて向き合い、うまく統合できたために二回目の平和な情景が描き出されるようになったとしています。
風景構成法について学べる本
風景構成法について学べる本をまとめました。
風景構成法の文法と解釈 描画の読み方を学ぶ
風景構成法は標準化された解釈、分析法はありません。
そのため、描かれた絵からどのようなことが読み取れるかどうかは検査者の力量に依存しています。
つまり、描かれた絵からなんとなく感じられる印象を適切な言葉にして表現する力が求められるのです。
本書は初学者であっても読み進めやすい平易な表現で様々な解釈の視点を紹介しているので、これから風景構成法を学びたいという方におすすめです。
投映描画法の解釈:家・木・人・動物
風景構成法を含む描画法の検査には様々な象徴的な表現が描かれることがあります。
そのような表現が被検者とどのように結びついているのかという視座をもたらしてくれる本書に目を通しておくと検査で得られた描画に対する捉え方も少し変わったものになるかもしれません。
治療的側面とアセスメント的側面
風景構成法はアセスメントの一環として用いられることもありますが、心理療法に生かすという治療的な側面も軽視できません。
絵に表現された風景にはそれぞれの題材をまとめ上げられることで、何らかのメッセージやテーマ、イメージが込められており、それをテーマとしてカウンセリングを行うとクライエントも気づかなかった自分の一面を再発見できる機会になる可能性もあります。
ぜひ風景構成法について学び、アセスメントと心理療法の視点の幅を広げてみましょう。
参考文献
- 明翫三宜(2012)『風景構成法の構成型に関する文献的考察』東海学園大学研究紀要. 人文科学研究編 (17), 241-256
- 久保薗悦子(2015)『風景構成法に表れる心理的変化 : 二事例の語りについての検討』神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要 8(2), 15-23