面接法とは、心理学研究に用いられる調査方法の一つです。就職活動やバイトの採用試験でも応用されているため、私たちの生活にも非常に馴染み深いものだと言えます。
面接法は人と会話を行うだけのシンプルな調査方法ではありますが、その意図や注意点をきちんと把握していなければ良質なデータは取れません。
今回は面接法の種類や進行方法、具体的な注意点、長所や短所について詳しくご紹介していきます。
目次
面接法とは
まずは面接法の基礎知識から見ていきましょう。
面接法の意味と定義
私たちは普段から会話を通して他者とコミュニケーションを取っています。面接法とは、その会話を用いて相手を深く理解し、心理学的な側面から意識や態度、または発達状況などを調査する方法です。
対象者の価値観、経験に至るまでの背景など、個人に対する詳細な内容を把握したいときに非常に適していると言えます。
一般的な会話と面接法の違いは、「相手のことをより深く知りたい」という明確な意図があるかどうかが挙げられます。実際に対象者の理解を深めるためには、面接法の正しい知識を学び、面接の質を上げる努力が必要です。
面接法の長所
面接法の具体的な長所は以下の通りです。
- 対象者の語る言葉の内容と同時に
- しぐさや表情などにあらわれる非言語的情報を得ることができ
- 相互に浮かんできた疑問や印象を直接伝え合うことができる
引用:心理学研究法入門 調査・実験から実践まで
心理学にはさまざまな研究方法がありますが、対象者が発する「言葉」と「情緒的な表れ」を同時に得られ、会話をしながら理解を深めていけるものは面接法以外にありません。
上記3点は、長所であると同時に面接法だけの特徴でもあります。
面接法の短所
面接法の具体的な短所は以下の通りです。
- データを取るのに手間と時間がかかる
- 上記の理由で、質問紙法などに比べると研究の対象人数が減る
- 面接者の技量が問われる(面接者によって結果が異なる可能性がある)
- 誘導質問になってしまう恐れがある
- 面接者、対象者ともに細かな神経を使う
面接法の種類
面接法は「調査的面接法」と「臨床的面接法」の2種類に大別されます。今回は主に調査的面接法についての詳しい解説と、各面接方法におけるメリットについてご紹介します。
調査的面接法
調査的面接法とは、対象人物を調査したり、深く知るために行われる標準的な面接方法です。この調査的面接法の中にも更に3つの方法が存在します。
構造化面接法
構造化面接法とは、あらかじめ質問内容や評価基準などを決めておく方法です。マニュアル通りに進めていくため、誰が面接を行っても評価のバラつきを最小限に抑えられるメリットがあります。
半構造化面接法
半構造化面接法とは、既定の質問をした後に、話の流れに応じて面接者が柔軟に質問内容を変化させたり増やしたりする方法を指します。
構造化面接だけでは知ることが出来なかった相手の長所を引き出せるメリットがあります。ただし、経験の浅い面接者では趣旨とずれたり、相手の理解に繋がらない質問を投げかけてしまうリスクも出るので気を付けましょう。
非構造化面接法
非構造化面接法とは、あらかじめ質問内容などは決めずに対象者との会話の中で自由に質疑応答を行う方法です。非構造化といっても完全にノープランで始めるわけではなく、面接の流れや想定される回答などを把握したうえで行うのが望ましいとされています。
上手くいけば対象者の人柄を最大に理解できるメリットがあります。しかし面接者の技量が最も問われる方法なので、多くの場面で使用することはお勧めできません。
臨床的面接法
臨床的面接法とは、診断や治療のために行う面接です。主にカウンセリングや心理療法で用いられ、クライエントの悩みや問題解決のサポートを目的としています。
具体的には、クライエント中心療法※、精神分析療法、集団精神療法などがあります。動機づけを用いてクライエントの問題解決を行う「動機づけ面接法」も臨床的面接法の一つです。
※クライエント中心療法に関しての詳しい解説は以下の記事をご覧ください。
来談者(クライエント)中心療法とは?特徴やメリット・デメリットと批判を解説
今回のテーマは、来談者中心療法(クライエント中心療法)です。ロジャーズが提唱した来談者中心療法の理論について、その特徴やメリット・デメリットと事例、さらに本理論への批判・欠点について学びます。 また、 ...
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集団面接法
ここまでは主に、一対一で行う個人面接についての解説でしたが、対象者を複数人にして行う集団面接法も存在します。集団で面接を行う利点は以下の通りです。
- 知り合い同士であれば面接場面の緊張が緩和される
- 個人では思い出せない出来事も他の人の話をきっかけに思い出すことができる
- 事実関係の確認ができる
- 対象者同士のやりとりが資料となる
引用:心理学研究法入門 調査・実験から実践まで
個人面接と併用して行えば、内容に信頼性が生まれ、より質の高いデータをとることが出来ます。
面接法の流れと注意点
面接法は、実際にどのような流れで行われているのでしょうか。書籍「心理学研究法入門 調査・実験から実践まで」を参考に、半構造化、非構造化面接の進行方法について解説していきます。各項目での注意点も参考にしてください。
1. 研究目的と面接方針の確認
まず初めに研究目的を明確化し、面接方針を定めます。
構造化の低い面接では、方向性が曖昧にならないよう注意を払わなくてはなりません。そのため、何を聞き出したいのか、どこに焦点を当てるのかといった面接方針は、研究目的に沿ってしっかりと決めておきましょう。
また、面接者の基本態度についてもあらかじめよく考えておく必要があります。対象者の感情面が表に出た際、受け止め方次第では面接の流れが変わってきてしまうからです。
面接者はさまざまな状況に対応出来るよう、事前にロールプレイなどを行うのがお勧めです。
2. 対象者の選び方
心理学では、ある集団から対象者を選ぶ作業のことを「サンプリング」と言います。限られた人数に対し深い調査を行う面接法では、研究目的とサンプリングが合致していることが重要です。
例えば「子育てを行う母親の不満」のような「典型性」を明らかにしたい場合、結果が偏らないように無作為(ランダム)なサンプリングが理想的だと言われています。
また、特定の分野における専門技術についてのデータが欲しいときは、無作為にサンプリングを行うのではなく、その分野に秀でた人を選ばなくてはなりません。この場合は「代表性」を考えながら選定を行います。
いずれにせよ、対象者を選んだ理由や個人の特性については必ず明記しておきましょう。
3. 面接場所
面接場所は対象者が落ち着いて話せる場所を指定すると良いでしょう。仮に対象者の自宅に足を運べば、生活環境から多くの手がかりを見つけ出すことも出来ます。
4. 面接への導入・信頼関係の形成
面接を本格的に開始する前に、面接の趣旨やデータの利用方法について再度丁寧な説明を行います。例えば会話を録音で記録し後に公表する場合には、必ず対象者からの承諾を得ましょう。
初期段階で断られてしまっても、面接は誠実に進めていきます。その際にきちんと信頼関係が構築できていれば、改めて了承してもらえる可能性も出てくるのです。
こうした信頼関係のことを臨床心理学では「ラポール」と言います。面接法ではラポールにより、得られるデータの質も上がるため、なるべく早い段階で信頼関係を築けるようにしなくてはなりません。
5. 面接の過程
長所の見出しでも挙げたように、面接法のメリットは対象者の非言語的要素を確認出来ることにあります。相手の複雑な表情や、言語化することに困難を示している様子などは、すかさず捉えなくてはなりません。
面接者は相手から豊かな語りを引き出すためにも、あらゆる角度から質問したり、上手く言語化出来るようサポートを行うことが大切です。
6. 面接を振り返る
面接の大まかな流れは、面接者の応答や質問により決まるといっても過言ではありません。面接後は自身の発言を振り返り、どうすればより良いやり取りが行えるのか考える時間を設けましょう。
初めに設定した研究目的と照らし合わせることで、どれほどの達成度が得られたのかも分かります。不充分だった場所は次回面接時に改善出来るよう努めましょう。
面接法について学べる本
面接法についてより理解が深まる書籍をご紹介します。
心理学研究法 補訂版
本書ではさまざまな心理学研究法を一冊にまとめて紹介しています。面接法のノウハウを理解できるのはもちろんのこと、他の研究方法と比較しながらメリット・デメリットについても学ぶことが可能です。
まず初めに心理学研究法全般の基礎を学びたい、という初学者の方はぜひご一読ください。
調査的面接の技法
「調査的面接法についてより詳しい知識を得たい」「面接者としてのスキルが欲しい」と思われた方にはこちらの書籍がお勧めです。調査のデザイン、分析、報告書の書き方まで、すべてのプロセスが分かりやすく解説されています。
調査的面接法においては、事前準備も大変重要な役割を担います。何から始めようかと悩んでいる方は、まず本書を手に取ることから始めてみましょう。
面接法
薄くて小さな本ではありますが、内容は表紙同様、重みのあるものとなっています。
先にご紹介した「調査的面接の技法」と同じく基礎的なことはしっかりと網羅したうえで、面接法の意義や、修練方法、各精神療法家の理論との付き合い方などについても深く教示されています。
「面接法」と聞くと、専門家や企業人事のためにある調査方法のように感じますが、そんなことはありません。面接法の心構えは、他者の話を聞くすべての職業の人に当てはまるのです。
コミュニケーションの本質的な理解を促すためにも多くの方に目を通してほしい一冊です。
意義のある面接を
面接法は複雑な研究を行う際や、より詳細なデータが欲しいとき非常に役立つ手法です。また対象者においても、自身をより深く知ってもらえるというメリットがあります。
しかしこれらはすべて面接法の特性を理解した上で行われなくては意味がありません。ただ漠然と会話をするだけでは普段のおしゃべり止まりです。それを避けるためにも面接の主の目的である「対象者の内面を引き出し、人間性を理解すること」をしっかりと意識することが大切です。
良質な面接は徹底された事前準備と、面接者の技量にかかっています。今一度基礎を学び直し、意義のある面接を行えるよう努めましょう。
参考文献
- 南風原朝和・市川伸一・下山晴彦 (2001)『心理学研究法入門 調査・実験から実戦まで』東京大学出版会
- 徳田克己・髙見令英 (2003)『ヒューマンサービスに関わる人のための教育心理学』文化書房博文社 11
- 杉村知美 (1998)『面接法によるデータの収集と分析』日本青年心理学会大会発表論文集(6),12-13