パニックや不安、焦りを覚えるときや緊張しているとき、腹が立ったときに、あなたの心の中ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
心理学ではそのような不適応な反応がどのようにして起こっているのか、どうすれば快適な状況を取り戻せるのかをテーマに取り上げた精力的な研究が数多くあります。
今回はそうした研究をもとに、不適応な反応が起こる原因と落ち着くための方法をわかりやすくご紹介していきます。
目次
落ち着かない時、心の中では何が起こっているのか
パニックや不安、焦りを覚えるときや緊張しているとき、腹が立ったとき、あなたはどのような状況にいるでしょうか。
おそらく、何か嫌なことが起こった、もしくは起こりそうだと予期している状況だと思います。
そのような脅威的な状況への直面(もしくはその予期)によって生じる反応のことを逃走か闘争反応と呼びます。
逃走か闘争反応とは
逃走か闘争反応とは、身体の各器官を支配する自律神経系によって起こる反応です。
自律神経系は大きく次の2つの経路に分かれることが知られています。
【交感神経】
身体を活性化させ、循環器の機能が向上し、消化器の機能を低下させる働きを持つ。交感神経が活性化すると、心拍数や血圧が上昇し、呼吸が浅く、早くなり、食欲が減退します。
【副交感神経】
身体をリラックスさせ、循環器の機能を低下、消化器の機能を向上させる働きを持つ。副交感神経が活性化すると、心拍数や血圧が低下し、呼吸が深く、ゆっくりとなり、食欲が増進します。
そして、この交感神経の支配が優位となった状態こそが逃走か闘争反応です。
キャノンによるストレス理論
この理論は、ストレスに関する研究者であるキャノン,W.B.が提唱したストレス理論です。
もともと、動物は天敵に遭遇するなどの危機的状況において逃げるか闘うかという2択を迫られてきました。
どちらにしても、身体を素早く動かさなければならないため、交感神経が優位となり、対象から逃げると判断されるときにはパニックや恐怖などの感情が、闘うとする場合には怒りが知覚されると考えられているのです。
そのため、恐怖反応であるパニックや不安、緊張などや腹が立つ怒りの反応も元をただせば交感神経系の活性化という共通点があるのです。
ストレス反応とは
しかし、皆さんが不安になったり、腹が立つときに必ずしも何か脅威的な状況に直面しているとは限らないと思います。
それにもかかわらずなぜ不安や緊張、イライラが止まらないなどの反応が起こるのでしょうか。
それにはストレスが大きく関係しています。
心理学的には一般的にストレスと呼ばれるものをストレッサーといい、ストレッサーに対して生じる反応のことをストレス反応といいます。
何がストレッサーとなるかはその人次第ですが、ストレッサーに晒され続けることで身体の抵抗機能が低下し、自律神経系のバランスが崩れてしまいます。
そうなると交感神経が優位となり、不安や緊張、パニック、腹が立つなどの反応が生じてしまうのです。
心が乱れたときに落ち着く方法5選
なぜ不安や緊張、パニック、腹が立つなどの反応が私たちに起こるのかについてわかったところで、今度はそのようなときにどのようすれば落ち着きを取り戻せるのか、もしくはどのように予防すればよいのかについて紹介していこうと思います。
深呼吸する
これらの反応は自律神経の乱れであることは解説しましたが、自律神経を整えるためにすぐにできる方法として挙げられるのが深呼吸です。
そもそも、不安や腹が立つなどのとき、交感神経系が優位になっているため、呼吸は浅く、早くなっています。
そして、人間の心と身体は密接なつながりを持っており、こころで感じていることが身体に影響することもあれば、逆のケースもあり得ます。
ですので、不安や緊張などを感じる時こそ意識的に深呼吸を行いましょう。
益谷ら(2010)では3秒吸って、15秒吐くという深呼吸は腹式呼吸でなかったとしても非常に効果的であると指摘しています。
最初はうまくできないかもしれませんが、繰り返すうちに落ち着きを取り戻して深呼吸ができるようになるため、粘り強く取り組みましょう。
しっかりとした睡眠をとる
睡眠不足も自律神経の乱れに大きく関わっています。
特に睡眠不足の人は自律神経が乱れやすいことが知られており、その結果、日頃からイライラしやすかったり、落ち着きがなくパニックになってしまうことが考えられます。
日頃、睡眠が不足し溜まった睡眠負債は休日の寝だめなどでは解消できず、就寝のリズムも崩れてしまうため、日頃から早寝早起きを心がけるようにしましょう。
特に朝起きたら朝日を浴びることで、セロトニンと呼ばれる脳の神経伝達物質が分泌され、それが夜になるとメラトニンと呼ばれる入眠のために必要なホルモンへと変化するため、規則正しい生活習慣が重要です。
運動をする
健康のために運動をすることは良いことだというのは周知の事実ですが、自律神経を整え、精神的な健康を維持するうえでも運動は非常に重要です。
奥村ら(2017)は運動が神経系や心理面の改善に様々な効果を及ぼすとされていることのエビデンスの集積を目的として、自転車のペタルを漕ぐという運動をした後の自律神経の働きや心理的な健康度を測定するPOMSと呼ばれる質問紙調査を実施しました。
その結果、30%程度の負荷を加えた緩やかな運動を行った後には交感神経の変化は見られず、副交感神経が活性化し、不安・緊張や抑うつなどのネガティブな心理的状態が抑制され、即自的な心理活性効果が見込めることが示されました。
逆に60%ほどの負荷をかける運動をするとかえって交感神経が活性化し、不安・緊張や抑うつは変化を見せませんでした。
これらをまとめると、過度な運動ではなく、苦しくない適度な負荷で日常的に運動をする習慣を作ることで落ち着いたこころの健康を保てることがわかります。
ストレッサーを避ける
自律神経の乱れにはストレッサーに晒されることが深く関わっていることは既に述べましたが、自律神経の乱れの原因を減らすことができればパニックや不安、緊張、腹が立つといった状況を作り出さずに済みます。
ただし、あらゆるものがストレッサーとなりうるわけですが、適度なストレッサーは人間に必要です。
例えば、全くの滅菌状態では身体の免疫機能が下がってしまうように、全くストレッサーに晒されない心地よい環境に甘んじていては、心理的な適応能力や自己成長の機会が損なわれてしまうでしょう。
そのため、自分が無理をしてしまっているような状況を改善していくべきです。
場合によっては独力では改善できないケースもあるでしょうから、残業が多くてストレス過多なのであれば、上司に相談をして業務量を調整してもらう、学校の授業についていけないのであれば、先生に相談して授業をわかりやすくしてしまうなど信頼できる他者の力を頼りながら自らの環境を調整することが求められます。
ストレスコーピングをする
ストレスに対する対処法をストレスコーピングと言います。
実は、同じストレッサーに晒されたとしてもストレス反応が生じるか生じないかには個人差があることが分かっており、その個人差はストレスに対する捉え方とストレスコーピングのあり方が関係しています。
【ストレス反応が起こるまで】
ストレッサーに晒されたとき、まずは一次評価と呼ばれる、ストレッサーがどれほど自分に害をもたらす脅威であるかという判断が行われます。
この時に、脅威と判断されると不安や怒り、抑うつなどのネガティブな情動が喚起されます。
そして、そのストレッサーに対し、自分は不快な状況を軽減できるのかという二次評価がなされます。
そして、それらの評価に基づき、ストレッサーに対し、どのようなストレスコーピングを採用するのかが決定されるのです。
この時、適切なストレスコーピングを採用することができれば、ストレス反応は低減され、落ち着くことができるでしょう。
ストレスコーピングの種類
主なストレスコーピングの種類は次の通りです。
【ストレスコーピングの種類】
- 問題焦点型コーピング:直面している問題に対し、自分の努力もしくは他者からの協力によって解決したり、対策を立てる対処法
- 情動焦点型コーピング:怒りや不満、不安などネガティブな感情を表出し、聴いてもらうことで気持ちの整理をつけたり、その思いを自分のこころの奥深くにしまい、見えないようする対処法
- 認知的再評価型コーピング:直面している問題に対する視点を変え、前向きにとらえるなど物事の見方を変える対処法
- 社会的支援探索型コーピング:上司や同僚、家族などに相談し、具体的なアドバイスを得る対処法
- 気晴らし型コーピング:運動や趣味などいわゆるストレス解消法により、気分転換をしたり、リフレッシュする対処法
落ち着く方法について学べる本
落ち着く方法について学べる本をまとめました。
科学的に証明された不安にならない36の方法
コロナによる影響から自宅で過ごす機会も増え、不安や緊張感、いら立ちが続いています。
そのような時こそ、適切な対処法を身に着けることは重要です。
科学的に証明された「脳」と「腸」を整えることで、不安を取り除こうとする方法を紹介する本書でぜひ落ち着いた生活を送ってください。
精神科医が教える ストレスフリー超大全――人生のあらゆる「悩み・不安・疲れ」をなくすためのリスト
ストレス社会と呼ばれる現代ではあらゆる悩みや不安を抱えがちです。
そのため、具体的にどのようなことを実行すべきなのかをまとめた本書を通じて、スト得r巣社会においても落ち着いた心を保つ秘訣を学びましょう。
落ち着いた心で快適な生活を
パニックや不安、緊張、腹が立つ時は非常に辛く、落ち着いた心を保つことが難しいでしょう。
今回ご紹介した落ち着く方法はあくまで一例ですので、ご自身にあった方法を模索してみることをお勧めします。
そして、ストレスに振り回されることのないよう適切な対処法を身に着け、快適な生活を送ることができるよう心がけましょう。
【参考文献】
- 尾仲達史(2005)『ストレス反応とその脳内機構』日本薬理学雑誌126(3), 170-173
- 益谷真・益谷望(2010)『深呼吸の健康心理学的考察』敬和学園大学研究紀要 (19), 93-99
- 奥村裕・江口輝行・龜井亮良・高橋秀典(2017)『運動後の自律神経活動と心理的効果』保健医療学雑誌 8(1), 44-49
- 坪井康次(2010)『ストレスコーピング —自分でできるストレスマネジメント—』心身健康科学 6(2), 2_1-2_6,