不安障害とは?原因・症状・診断基準と治療法、なりやすい人について解説

2022-01-23

不安障害と呼ばれる不安を主症状とする精神障害は、心理臨床の現場でも非常に重視されています。

その理由として、不安障害は基本的に早期発症であり、その後に出現する併発症の頻度が高いことや、併発する精神障害の重症化するリスクが非常に高いことなどがあります。

それでは不安障害とはいったいどのような精神障害なのでしょうか。その原因や症状、診断基準や治療法、対処法、なりやすい人についてご紹介します。

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不安障害とは

不安障害とは、不安を主症状とする精神障害のことを指します。

不安障害の歴史

不安障害についての歴史は、精神分析の創始者であるフロイト,Sによる研究にまで遡ります。

フロイトによる不安神経症の提唱

フロイトは不安を人生の想起に発生したトラウマとなりうるショッキングな出来事に基づくと考えていました。

しかし、初期のフロイトはヒステリーなど神経症の研究を進めていく上で、不安に密接に関連しているのは性的なエネルギー(リビドー)であり、その発散されないエネルギーが不安へと形を変えて現れると考えるようになりました。

フロイトは構造論と呼ばれる理論において、

  • 「自我」と呼ばれる自分と認められるこころ
  • 「イド」と呼ばれるエネルギーが昇ってくる自分とは認められないこころ
  • 「超自我」と呼ばれる自我に昇ってきても良いのかを監視するこころ

というこころの3つの機能を仮定し、超自我が望ましくない欲求を検知した際に、自我へ危機を知らせる信号として予期(警告)不安が生じると考えていました。

通常であれば、この3つのこころの機能のバランスがとれているため、不安は生じたとしても一過性のものであり、社会不適応に陥るまでには至りません。

ところが発達上の問題によりバランスが崩れ、この予期不安があまりにも強かったり、頻繁に起こるため、不安症状を主症状とするものを不安神経症として名付けました。

しかし、心的な葛藤のみで不安神経症を説明することが難しくなり、後期のフロイトは神経症について以下の2つの分類を呈示しました。

  • 過去の心的葛藤を原因とする精神神経症
  • 心の機能に関わらず、現在の心理的な活動が不適切なことにより、自律神経系の異常や感情に異変をきたす現実神経症

そして、不安神経症は現実神経症であるという見方を示しています。

DSMによる不安神経症概念の成立

その後も不安神経症の概念は長い間、心理臨床の現場で非常に重視されていましたが、それがDSM-Ⅲの登場によって大きく変化します。

DSM-Ⅲでは不安神経症に代わり不安障害という新しいカテゴリーが示され、次のような疾患を主なものとして含む障害群であるとしました。

  • パニック障害
  • 強迫性障害
  • 社会不安障害
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD)

その後、DSM-Ⅳ、DSM-5と改訂が重ねられていくうち、不安障害を構成する障害群は新たに整理され、DSMの最新版であるDSM-5では、主に次の精神障害を含むものとしています。

【DSM-5での不安障害】

不安障害の症状

それぞれの各不安障害によって、症状は異なるものの、不安障害では不安を主症状とする精神障害であるため、主に次のような症状がみられることが特徴的です。

【不安障害の主たる症状】

  1. 主観的な不安感
  2. 生理的な反応(動悸、発汗、呼吸困難、胃腸症状など)
  3. 行動面(回避行動など)

不安症状の分類

不安障害の治療においてはこのような不安感という精神症状だけではなく、生理的・行動的な反応にも注目することが重要だとされています。

金(2013)はこれらの表れ方の特徴や組み合わせにより、次のような不安症状の分類ができるとしています。

【不安の類型】

  1. 全般性不安:安心感の欠如を特徴とし、様々な情報や他人からの言葉を悪い方へ受け取り、実際には生じていない辛い出来事が起こるのではないかと過剰に心配する。
  2. 恐怖症:高所や動物など特定の対象に強い不安を抱き、時にはパニック発作が生じる。恐怖対象がない際は落ち着いているが、不安になることを避けるために行動の制約が生じたり、回避のための努力に没頭することがある。
  3. 対人不安:人と接することを恐れ、多くは自分が相手から評価されるような場面などで生じる所謂対人恐怖。赤面や吃音、発汗などの自律神経症状を呈する。
  4. 予期不安:将来悪いことが起こるのではないか、自分が取り乱してしまうのではないかという不安が生じる。些細な出来事を不安の兆候として捉えやすい。
  5. パニック発作:突発的で強い不安と共に、生理的な症状が生じる。特に、呼吸困難や動悸が顕著であり、自分が死んでしまうのでないかという二次性の不安も生じる。

不安障害の原因となりやすい人

不安障害の明確な原因というのは未だ特定されていません。

しかし、その発症に関わる要因はいくつか指摘されており、基本的には遺伝的な要因と環境的な要因が相互に関連しあうことで発症すると考えられています。

遺伝的な要因

不安障害における遺伝子の役割は非常に重要であり、30~67%に遺伝性が認められるという報告があるほどです。

特に不安障害に関連する遺伝子としてはCRHR1及びCRHR2という遺伝子が不安障害の発症に関連しているという指摘があり、このような遺伝子により、不安障害の発症のリスクが遺伝されると考えられています。

環境的な要因

しかし、遺伝子による発症効果は環境的要因に比べさほど大きくないということも指摘されています。

環境的要因としては、児童虐待やいじめなどのストレスフルな出来事に遭遇することや心配性、神経質などの性格特徴が関連すると言われています。

また、不安障害の人は脳機構に特徴があることが指摘されており、不安や恐怖に関連する脳部位である、大脳辺縁系の主要部位である扁桃体と島皮質という部分が関連することが指摘されています。

そして、各不安障害ごとのその部位の活動の様子が異なっていることが指摘されています。

これらの事項をまとめると、不安障害になりやすい人というのは、親族に不安障害に罹患した人がおり、発症の引き金となるような性格特徴やストレスフルな出来事を経験した人であると考えることができます。

不安障害の類型と診断基準

不安障害には様々な種類があります。主な不安障害の特徴とその診断基準についてご紹介していきます。

分離不安症

分離不安症とは、養育者や家族など愛着を形成している人から離れることで、年齢を加味しても発達的に不適切で過剰な不安を症状とする障害です。

子どもの不安障害として注目されることが多く、昔の登校拒否(現在の不登校)の主たる原因とも考えられていました。

【分離不安症の診断基準】

  1. 子どもや青年では4週間以上、成人では半年以上に渡り、主に保護者などの愛着を持っている人物と離れようとすると強い恐怖や不安に襲われたり、悪夢を見るため、愛着対象と離れられないために、社会生活を送るうえで支障をきたしている。
  2. このような症状は他の精神障害などの影響によるものではない。

※参考:米国精神医学会『DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)』

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選択性緘黙

選択性緘黙とは、普段は何ともないのに、会社や学校など特定の社会的場面になると、急に何も話せなくなってしまう不安障害です。

自閉性スペクトラム障害もコミュニケーションの障害により、人と話すということに障がいが出る場合がありますが、選択性緘黙の場合は状況により離せなくなってしまうため、家庭など安心できる場所では症状は出ないケースが多いようです。

【選択性緘黙の診断基準】

  1. 学校や職場など、会話を行うであろう社会的状況では話すことができなくなってしまうが、家庭など他の状況では問題がない。
  2. ある特定の状況で話すことができないために、学校や職場での成績・パフォーマンスおよび人とのコミュニケーションが妨げられている。
  3. 入学や入職の最初の時期だけでなく、1か月以上特定の場所で話せない
  4. 言葉が分からなかったり、会話を楽しめないなどの理由から話せないわけではない。
  5. この特定の場所で話せないという症状は、コミュニケーション症や自閉スペクトラム症、統合失調症などの症状によるものではない。

※参考:米国精神医学会『DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)』

社交不安障害

社交不安障害とは、人前などの場面で、「他者から変な人間と思われるのではないか?馬鹿にされたり笑われたりするのではないか?」という不安を抱くことで強い苦痛や社会生活を送るうえで支障が出るような精神障害です。

【社交不安障害の診断基準】

  1. 会話や雑談などの人との交流、飲食や発表など人前での行動などの他の人から注目を受けたり、詮索を受けたりするような人とのかかわりの場面に恐怖や不安を抱く。
  2. 誰かに笑われるのではないか、失敗して恥ずかしい思いをするのではないかなど、自分がとる行動に強い不安を感じる。
  3. ほとんど常にそのような人とのかかわりのある場面に不安や恐怖を抱き、回避しようとしたり、ひたすらに我慢してしまうことで大きな苦痛が生じ、社会生活を送るうえで支障をきたす。
  4. 抱いている恐怖は、実際にはそれほど脅威的なものでなかったり、他者から恐ろしいものとは思われない。
  5. 抱いている不安や恐怖、回避行動は6ヵ月以上続いている。
  6. 抱いている恐怖や不安は、他の精神障害や薬物などの影響によるものではない。

※参考:米国精神医学会『DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)』

パニック障害

急激な恐怖や不快感が数分のうちに起こり、動悸や息切れなどの症状を呈するパニック発作が繰り返され、いつパニック発作が起こるのか、次パニック発作が起こったら自分は死んでしまうのではないかという予期不安を特徴とする精神障害です。

【パニック障害の診断基準】

  1. 突然の激しい恐怖や身体的な不安反応(動悸や発汗、めまいなど)が生じるパニック発作が起こり、パニック発作が次起こったらどうしようと過度に恐れたり、社会生活を送るうえで支障をきたしている。
  2. このようなパニック発作を巡る症状は、他の精神障害や薬物などによる影響を受けていない。

※参考:米国精神医学会『DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)』

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広場恐怖症

広場恐怖症は、脱出が困難で援助を求められないような公共交通機関、広い場所、店内などの場所において、パニック発作などの症状が起こるかもしれない状況を恐怖し、回避しようとする不安障害です。

以前はパニック障害と付随して起こる症状の一つであると考えられていましたが。DSM-5からは、パニック障害があるかどうかに関わらず起こる病気として、独立疾患と捉えられるようになりました。

【広場恐怖症の診断基準】

  1. 公共交通機関の利用や広い場所、囲まれた場所、列に並ぶこと、群衆の中にいること、一人で外出することなどについて恐怖や不安を抱き、そのような状況を回避しようとしたり、ただひたすらに耐えている。
  2. このような恐怖は何か現実的な危険があったりするものではなく、多くの人は恐怖を抱かないものである。
  3. 恐怖や不安の生起及びそれに付随する回避行動が半年以上続いていることで、社会生活を送るうえで支障をきたしている。
  4. 他の精神疾患によるものではなく、他の身体的疾患の存在を考えても明らかに恐怖や不安、回避行動が過剰。

※参考:米国精神医学会『DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)』

全般性不安障害

全般性不安障害とは、持続的なあらゆる事物に対する漠然とした不安感が起こることを特徴とする不安障害です。

上記の各不安障害は恐怖に近い不安障害ですが、全般性不安障害は心配とかかわりの深い不安障害であり、その疾患概念には未だ議論がなされています。

【全般性不安障害の診断基準】

  1. 日常生活における様々な出来事、事物に対して半年以上過剰に心配しており、落ちる気のなさや集中困難、易怒性、睡眠障害などの症状が起こっている。
  2. このような症状は他の身体疾患や精神障害の影響によるものではない。

※参考:米国精神医学会『DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)』

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不安障害の治療法

不安障害の治療として有効なのは、薬物療法と心理療法です。

薬物療法

薬物療法として用いられることが多いのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬やベンゾジアゼピンと呼ばれる抗不安薬などです。

認知行動療法

不安障害の多くは、不安を引き起こす対象や状況を避けようとする回避行動が特徴であり、それによって不安がさらに高まるという悪循環が指摘されています。

そのため、心理療法として不安障害への介入に有効なのが認知行動療法です。

認知行動療法では、「何か恐ろしいことが起こるに違いない」という不安の認知の歪みを修正するべくアプローチし、行動を変容させることで気分の安定を目指す心理療法です。

治療法の選択

基本的には薬物療法と心理療法を組み合わせて用いることが望ましいですが、不安障害の多くは併存疾患を引き起こすケースが多く、うつ病を併発している患者に不安に直面させるような心理療法を行うとリスクも大きくなります。

治療の際はしっかりと併存疾患の有無を確認し、適切な治療法を選択する必要があります。

不安障害について学べる本

不安障害について学べる本をまとめました。

正しく知る不安障害 ~不安を理解し怖れを手放す~ (ぐっと身近に人がわかる)

不安障害は、不安を生じさせる対象に怖すぎて近づけないために、それが自分にとって安全かどうかを確かめることができず、不安が維持、増悪していくという特徴があります。

そのため、不安について正しい理解を持ち、怖れを手放しましょう。

不安もパニックも、さようなら 不安障害の認知行動療法:薬を使うことなくあなたの人生を変化させるために

不安障害に対する治療法として有効なのが認知行動療法です。

不安障害には特有の認知の歪みがあり、それが不安障害の中核症状だとみなされています。

そのため、認知の歪みと修正し、望ましい行動の獲得によって気分の安定を目指す認知行動療法について詳しく学びましょう。

不安障害の概念整理に向けて

不安障害は併存疾患も多く、各疾患同士で重複するような症状も多いため、その概念の整理は積極的に行われています。

特に、他の不安障害と一線を画すとされている全般性不安障害は、他の不安障害やうつ病の前駆症状や残遺症状ではないかという指摘もあり、今回ご紹介した不安障害の類型は今後も変化する可能性も十分あります。

そのため、常に最新の情報を注視し、正しい知識を身に着けるようにしましょう。

【参考文献】

  • 金吉晴(2013)『不安障害』日本内科学会雑誌 102(1), 183-189
  • 貝谷久宣・土田英人・巣山春菜・兼子唯(2013)『不安障害研究鳥瞰—最近の知見と展望—』不安障害研究 4(1), 20-36
  • 中村道彦(1990)『不安障害の診断分類』精神保健研究 36,11-16
  • 上田紋佳(2019)『不安症とうつ病のcomorbidityに関する考察 : 多重経路モデルに着目して』研究集録 (172), 35-47
  • American Psychiatric Association(高橋三郎・大野裕監訳)(2014)『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院

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    • この記事を書いた人

    t8201f

    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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