思考という認知活動そのものを認知の対象とすることを、「メタ認知」と呼びます。教育の現場で重視され、心理療法にも使われるメタ認知についてご紹介します。さらに、メタ認知能力向上のトレーニング方法もご紹介します。「メタ認知」という一見複雑な概念を、具体例を交えどのような意味を持っているのか理解していきましょう。
「考える」を「考える」メタ認知とは、一体何でしょうか。分かる様で分からないという方も多いのではないかと思います。メタ認知とはそもそも何なのか、日常生活でどのような応用が可能なのか、メタ認知能力を測る診断方法やトレーニング方法まで分かりやすく説明していきます。
目次
メタ認知とは
「メタ認知」とは何か。まずは、メタ認知の学術的な意味と定義を説明し、続いて具体例を交えて分かりやすく解説していきます。
メタ認知の意味と定義
メタ認知とは、認知に対する認知。認知を対象化して認知することとされています。「メタ」とは、「後の」「一段上の」などを意味する説頭語であるので、メタ認知とは、もう一段上の認知という意味です。
メタ認知の具体例
例えば、新しい漢字を覚えることは、「記憶する」という認知活動です。しかし、自分は(あるいは他者は)一度にどれくらいたくさんの感じを覚えられるか。今日覚えた漢字を明日まで覚えていられるか。さらに一年後は覚えていられるか。この覚え方は効果的なのか。などと、「記憶する」こと、そのものを考えることがメタ認知です。
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メタ認知の分類
メタ認知とは、主に「メタ認知的活動」「メタ認知的知識」の2つに分けることが出来ます。それぞれどういったものか、もう少し詳しく見て行きましょう。
メタ認知的活動
メタ認知的活動も「メタ認知的モニタリング」と「メタ認知的コントロール」に細分化されます。
メタ認知的モニタリングとは、「この課題なら、だいたい30分くらいで出来るだろう」「これは10回ほど書けば覚えられるだろう」などと言った、認知についての気づきや予想、評価などを表します。
メタ認知的コントロールとは、「自分一人ではこの問題が解けないので、誰かに聞いてみよう」などと言ったように、認知について目標を立てたり、修正したりすることです。
メタ認知的知識
さらにメタ認知的知識も「個人認知特性についての理解」「認知課題についての理解」「認知方略についての理解」に分けられます。
個人認知特性についての理解とは、「私は漢字を覚えるのが苦手だ」「私は英語について得意だ」などといった認知特性についての理解を言います。
認知課題についての理解とは、「足し算よりも掛け算の方が難しい」「英文が長くなるほど、和訳にはミスが増える」などといった、課題の性質が持つ、個人の認知活動に対する影響についての知識を言います。
認知方略についての理解とは、「英語はまずは文法を理解してから、単語を勉強した方が効率的だ」などと言った、目的に応じた効果的な認知方略の使用についての知識を言います。
メタ認知に関する心理学的研究
それでは、メタ認知に関しては、どのような研究があるのでしょうか。また、メタ認知を利用したメタ認知療法とは何なのでしょうか。
メタ認知を向上させるため、心理学者のヴィゴツキーが指摘していることや、教育場面においてメタ認知がどのような意味をもたらすかについての研究、ゲーム(スポーツ)とメタ認知能力の関係性についての研究をご紹介していきます。
メタ認知療法
メタ認知療法は、ウェルズ,A.によって提案された認知療法的介入体系の一つであり、注意・自己注目・メタ認知を用います。特定の場面で特定の思考をしてしまう(自動思考)に対し、自動思考が起こっている状態そのものを意識し介入していきます。
メタ認知トレーニング
ヴィゴツキーによると、言葉は他者とのコミュニケーションの道具としての機能だけでなく、思考の道具としての機能も有しています。まずはじめ、子どもは他者に対して言葉を用い(外言: external speech)、言葉によって他者の行動を左右することが出来ることを学びます。次に、自らの思考や行動を言葉として表現・理解し(内言: inner speech)します。
よって、こうした言葉を常習的に用いることや、自身の感情や認知体験を言語表現することは、メタ認知能力を形成するトレーニングの一つとして位置付けられています。
教育場面におけるメタ認知
上記のヴィゴツキーによる考えを、田島(1993)では、メタ認知を促進するために効果的な教育的働きかけや環境がどうあるべきかについて有益な示唆を与えるとしています。
教育場面では、「他者とのコミュニケーションによる気づきや調整」を「自己とのコミュニケーションによる気づき、調整」へと移行させるような環境を提供することが必要とされています。
ゲーム(スポーツ)のパフォーマンスとメタ認知能力
また、メタ認知能力の高い人は、スポーツが得意である傾向もあるようです。諏訪(2005)によると、身体の動きをメタ認知して言葉によって表現することが身体スキル獲得の有効なツールであると示しています。つまり、ゲームやスポーツで「私はこの動きが得意だ」「私はこの動きが苦手だ」とメタ認知することで、その運動行為が上手くなると示されています。
日常生活におけるメタ認知の活用
日常生活において、メタ認知をどのように利用できるか、活用例を挙げてみます。また特に、メタ認知の細かい分類から日常生活への応用を見ていきます。先述した「メタ認知の分類」の章を参照しながら以下をご一読いただけると理解しやすいかと思います。
仕事
仕事場面では、「メタ認知的モニタリング」と「認知方略についての理解」が重要な鍵となるでしょう。仕事上のタスク・課題が「どれくらいの時間で終わるか」を正確に予測し、「今行っている方法よりも、より短い時間で終わらせる方法はないか」を吟味する。このように、メタ認知を活用することが出来ます。
人間関係
人間関係では、「個人認知特性の理解」が求められます。「私は○○な人とのコミュニケーションが得意である」「私は××の場面では人と話すのが苦手だ」といったように、人間コミュニケーションにおいても、自身をメタ認知し「ではこういったコミュニケーションが効果的である」といったように、活用することが出来ます。
人材育成
人材育成の場面では、ぜひメタ認知を存分に意識してみるべきかもしれません。特に「メタ認知的モニタリング」と「認知方略についての理解」を意識しておくとよいでしょう。あなたは苦手(または嫌い)な部下や後輩がいませんでしょうか。そういった部下・後輩に対し、「○○をしろ!」と口調強く叱責や命令をして、育成を行っていないでしょうか。こういった場合、「私はこの人を嫌っている」とメタ認知的モニタリングを行い、「どういった教え方が良いだろうか」と方略についてメタ的に思考すると良いかもしれません。
メタ認知能力を高める方法
それでは、こうしたメタ認知能力を実際に高めるにはどのような方法があるか、科学的にメタ認知能力の向上に有効だとされている方法を2つほどご紹介します。
セルフモニタリング
メタ認知能力を高めるのに有効な手段とされているものの一つに「セルフモニタリング」というものがあります。セルフモニタリングとは、普段自分が行っている行為や、自分が感じている行為に気付く(モニタリングする)ことを指します。
例えば、食事一つをとっても、「私は今、これを食べている」「私は、これを美味しいと感じている」など、自身の行為を客観視し、自身の感情や気分に気づくといったセルフモニタリングの習慣化が、メタ認知能力向上に有効であると考えられています。
マインドフルネス瞑想
メタ認知能力を向上させるために有効な手段とされているものに、もう一つ「マインドフルネス瞑想」というものがあります。マインドフルネス瞑想とは、仏教をそのルーツとしたもので、方法としてはいくつかの分派があります。しかし、共通している主要なコツとしては「呼吸に意識を集中させる」「頭で何かを考えないようにする」の2点があります。
例えば、4秒かけてゆっくりと鼻から息を吸います。そして、8秒かけてゆっくりと鼻から息を吐きます。この時、注意を呼吸に集中させ、頭で何かが浮かんだとしても、その考えに捕らわれないようにしましょう。「あ、私は今、○○を考えているな」と自分が何を考えているか認知し(メタ認知)、その考えが段々と頭から消えて行くように意識を再度呼吸に戻す。これを繰り返すことをマインドフルネス瞑想と言います。
メタ認知能力の診断
メタ認知能力はどのように測定することが出来るのでしょうか。さらに、メタ認知能力を診断できるサイトはあるのでしょうか。
メタ認知能力の測定方法
メタ認知能力そのものを厳密に測定することは難しいですが、メタ認知を使った記憶方略でありワーキング・メモリーを測定することは可能です。
臨床心理学・カウンセリング・精神科では、WAISやWISCといった知能検査の下位検査でワーキング・メモリーを測定することが出来ます。
メタ認知能力診断サイト
メタ認知能力はこちらのサイトで簡易的にですが、無料で測定することが出来ます。ぜひ、紙とペンをご用意の上、試してみて下さい。
メタ認知について学べる本
メタ認知についてさらに詳しく知りたいという方には以下の本がオススメです。特に初学者の方にも分かりやすくメタ認知について理解できるような本を選書しました。
いちばんはじめに読む心理学の本④ 認知心理学―心のメカニズムを解き明かす―
「まだまだ心理学に詳しくはないけど、メタ認知についてもう少し詳しく知りたい」という方にはこの本がオススメです。
いちばんはじめに読む心理学の本は、その名の通り、初学者を対象に書かれているため、予備知識なしでもスムーズに理解が進みます。
認知心理学 4 思考
もう少し詳しく知りたいという方には、こちらの本がオススメです。
この本には章末に読書案内として、おすすめの本や文献が豊富に記載されているため、この本をスタートにさらに詳しくメタ認知について学習を深めていくことが出来ます。
メタ認知で人生の成功を手に出来るか
メタ認知、またはメタ認知能力の向上で人生の成功を手にすることは出来るのでしょうか。
結論として、「出来る」と言えるでしょう。もちろん、人生の成功とは何か。その定義は多岐に渡ります。しかし、例えば「学力の向上」を例に挙げると、やはりメタ認知能力が高い程、学習効率が高く、学業成績もメタ認知能力が高い程良い傾向にあります(例えば、Kimberly D. Tanner., 2012)。
さらに、メタ認知能力が高い程、問題を抱えても解決が上手いとも示されています(例えば、Bracha & Zemira., 2011)。つまり、仕事でも人間関係でも、メタ認知能力が高ければトラブルを起こしにくいと言えるでしょう。
確かに、人生の成功とは何かは定義が出来ないものかもしれません。しかし、メタ認知能力の向上により、人生の成功は限りなく近づくのではないでしょうか。
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参考文献
・Kimberly D. Tanner. Promoting Student Metacognition. CBE Life Sci Educ. 2012 Summer; 11(2): 113–120.
・Bracha kramarski, Zemira R. Macarech. (2011). Cognitive-metacognitive training within a problem-solving based Logo environment. British Journal of Educational Psychology. Vol,67. Issue 4. pp425-445.
・認知心理学 4 思考. 市川伸一. (1996). 東京大学出版会.
・いちばんはじめに読む心理学の本④ 認知心理学―心のメカニズムを解き明かす―. (編著)仲真紀子. (2010). ミネルヴァ書房.
・心理学検定 基本キーワード【改訂版】. (編)日本心理学初学会連合心理学検定局. (2009). 実務教育出版.