親しき友人や家族、恋人、セラピストなどに自身の悩みを打ち明ける自己開示について、詳しく説明していきます。自己開示の意味とは何か・自己開示をすることでどのような効果があるのか。自己開示が苦手な人、できない人、しない人は自己開示をした方が良いのでしょうか。
目次
自己開示とは
まず始めに、自己開示とは何か、心理学の領域ではどのように定義されているのか、少し詳しく見ていきたいと思います。
自己開示の意味と定義
自己開示を心理学の領域で最初に取り上げたのはジェラード(Jourard. S.M.)と言われています。ジェラードは同僚の社会心理学者ラザコウ(Lasakow, P.)と共に、自己開示質問紙を用いた実証的研究を1958年に発表し、これが心理学の領域で自己開示が広まるきっかけとなりました。
ジェラードは後に、1971年の論文で、自己開示を「個人的な情報を他者へ明らかにする行為」と定義し、また1974年には「自分自身をあらわにする行為であり、他人たちが知覚しうるように自身を示す行為」と定義しています。
さらに心理臨床大辞典(西井, 2008)では「自己開示はクライエントのプライバシーの開示といってよい」としています。
自己開示の具体例
上述の定義から、自己開示は「私は○○県出身です」や「私は○○会社に勤めています」といった公的な情報の開示ではなく、プライバシーに触れる情報の開示と言えます。
「私は○○について悩んでいます」「私は○○といった辛い経験をしたことがあります」といったように、見ず知らずの相手にはやや話しづらい、誰彼構わず開示することは憚れるような個人的な情報を開示することを自己開示と言います。
自己開示と自己呈示の違い
自己開示と似た概念として「自己呈示」というものがあります。自己開示が「自己の内面的な事柄を特定の他者に対して言語を介して伝達すること(安藤, 2016)」であるのに対し、自己呈示とは「他者から見られる自分を操作するための行動(安藤, 2016)」を指します。
つまり、自己呈示とは、「私はこう見られたい」と他者に対して抱かれたい特定の自己イメージの形成を目標にし、この目標を達成するための手段として自身の情報を開示することと言えます。
例えば「お金持ちに見られたい」という目標がある場合に「この腕時計は○○○万円する」と情報を開示することも自己呈示の一つです。
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自己開示の効果に関する心理学的研究
榎本博明は1997年の文献で、自己開示に関する実証的研究の領域を4つに分けています。
①自己開示に関する基礎的研究域(自己開示という現象の実態を把握するための研究)
②パーソナリティ領域(パーソナリティの特性や個人差、集団差)
③社会心理学的領域(対人関係を規定する諸側面)
④臨床心理学研究(カウンセラーの自己開示やエンカウンターグループにおける自己開示など)
この中でも特に注目されている領域は、④臨床心理学的研究です。よって、以下では臨床心理学の領域における自己開示の研究をいくつか紹介してい見たいと思います。
自己開示の効果とは
自己開示は心理臨床の現場や、相談援助職の現場では常とされているものです。「話すことでスッキリする」これをカタルシス効果と呼びますが、専門家はこれを一つの目標として日夜、カウンセリングや心理相談を行っています。
岡野(1997)では、「中性的な感情を治療者が表明することを通じて、クライエントは治療者に体験された自分自身の姿を視ることになる。治療者の心に生じた感情は実はクライエントの姿であり、それをクライエントに伝えること、それが治療技法としての自己開示である」とし、自己開示を明確に心理臨床の治療技法ともしています。
しかし自己開示には、「打ち明けてもこの人なら大丈夫だ」といった相手への信頼、そして「打ち明けても私は大丈夫だ」という自分への信頼、とりもなおさず深い人間理解が必要であるとされています(西井, 2008)。
よって、自己開示は信頼できる相手や深い関係性、人間理解の中で成される場合にのみ、精神的健康に良い効果があると言えるでしょう。
自己開示の返報性
自分の個人的な情報を相手に開示(自己開示)することにより、相手もまた、自分に個人的な情報を開示(自己開示)するよう促されるという対人コミュニケーションの法則性があり、これを「自己開示の返報性」と呼びます。
中村(1990)は「自己開示の受け手がそれと同等の価値を持ったものを相手に返すべきであるという返報性の規範に従うために、自己開示の返報性が生じる」と述べています。
日常生活における自己開示の活用
日常生活において自己開示をどのように活用していくことが出来るでしょうか。具体例を挙げながら分かりやすく解説していきます。
ビジネス
自己開示は「心から信頼している相手に行うものである」というのは、専門家のみならず、一般の方も十分に承知している事実ではないでしょうか。
これを逆手に取り、相手に「私はあなたを信頼しています」という気持ちを伝える為に、自身の個人的な情報を開示していくという活用方法が考えられます。
恋愛
恋愛において、自己開示の返報性は有効に使えます。
例えば、あなたが特定の相手に対し、「私は元カレ(元カノ)に酷い振られ方をした」という自己開示をした場合には、自己開示の返報性により、相手もあなたに対し、元恋人との不和や破局に至った経緯などを話してくれる可能性が高まります。
恋愛において、元恋人との関係性や体験は、その後その相手との関係性を深めていく上では重要な情報になるでしょう。
自己開示を行う際の注意点
お互いの関係性と、開示する内容の重さは十分に念頭に置く必要があります。まだ会って間もない相手に対し、「あなただから話すけど、私は家でDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けています」などの重大な話は、開示された相手も受け入れることが出来ず、ストレスに感じてしまう可能性もありますので注意しましょう。
また、開示した情報を相手に悪用されないか注意する必要もあります。相手が悪気が無くとも、秘密の保持は大変エネルギーを使う行為であり、開示した相手が第三者にばらしてしまう可能性も十分にあります。自己開示の相手選びは慎重をきすように注意しましょう。
自己開示が苦手な人・できない人の原因と対処法
自己開示が苦手な人・できない人はどういった原因があるのでしょうか。こういった人が自己開示を出来るようになるためにはどういった対処法が考えられるでしょうか。
自己開示が苦手な人・できない人の原因
自己開示が苦手な人・できない人の原因として主に3つ考えられます。
第一に、過去に自己開示をすることによってトラウマ経験をしたことです。信頼できる相手に自分の個人的で触れられたくない情報を、思い切って打ち明けてみたはいいが、第三者にばらされてしまった。情報を悪用されてしまった。この様なトラウマ経験により、自己開示に対し抵抗感、恐怖心を強めている可能性があります。
第二に、自尊感情が低いことです。自尊感情が低い人は、自分のネガティブな情報を開示することで、他者から軽んじられないか、自身の価値を低く見積もられないかと非常に過敏になっています。こういった人は自己開示を苦手とする傾向にあるようです。
第三に、権威主義的であることです。権威主義的なパーソナリティを持つ人は、自己開示を苦手とします。自身のネガティブな情報を開示することで、自身の権威が脅かされる可能性を酷く嫌うため、自己開示が苦手である傾向にあるようです。
自己開示が苦手・できない人の対処法
自己開示が苦手・できない人が自己開示を出来るようになりたいと考えるのであれば、まずは信頼できる相手を探すことが必要です。友人や家族には話しづらい場合は、セラピストやオンラインの相談援助を頼るのが良いかもしれません。
「この人に自己開示をしても、私にネガティブな影響を及ぼさない」と思える相手・状況を作ることが大切です。
自己開示をしない人への対応方法
自己開示をしない人と出会ったり、会話した際には「自己開示させよう」とは決して思わないでください。相手が「自己開示をしない」というのも相手の選択の一つであると尊重することが何よりも重要です。
しかし、それでも無理して頑張っている姿が心配になる、このままでは相手が潰れてしまうのではないかと不安であると言った場合には、決して自分が聞き出してやろうとするのではなく、カウンセリングルームや相談センターなどを紹介しましょう。「こんなところがあるから、行ってみたら」と相手が相談場所の敷居を高く感じない様に配慮して勧めることが大切です。
自己開示を考える上で最も大切な注意点のまとめ
これまで、自己開示について説明してきましたが、最後に自己開示を考える上で最も大切な3つの注意点をまとめたいと思います。
まず一つ目として、自己開示を自身がする場合には、自己開示をする相手を十分に吟味しましょう。その相手は信頼に足る人か。開示された情報を悪用されたり、第三者に伝えられたりしないか。自分と相手との関係性は十分に深いものか。こうした相手の吟味が自己開示を行う際の重要な注意点です。
第二に、相手から自己開示を受けた場合には、しっかりと受け止めましょう。相手から辛かった経験や愚痴を聞かされて、「君なんかいい方だよ。俺なんてね...」と相手の自己開示を聞かずに、自身の不幸自慢をする人を時々目にします。相手の話に十分と耳を傾け、話してくれたことに敬意を持つことが大切です。
最後に、自己開示をしない相手には、自己開示を促そうとしないことが大切です。「私は多くの人の個人情報を持っている」ということを自慢に思う人も時々います。相手から悩みを打ち明けて貰うことは、実際、嬉しいことではあります。しかし、話したくない相手に話す様促すものでも、話したくなるように仕向けるものでもありません。自己開示をすることで精神的に不安定になる場合も往々にして起こります。
以上3つの大切な注意点をしっかり頭に入れた上で、他者との深いコミュニケーションを図っていく事をお願いいたします。
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参考文献
・Jourard, S. M. (1971). Self-disclosure: An experimental analysis of the transparent self. Wiley-Interscience, a division of John Wiley & Sons.
・ジュラード, S. M./ 岡堂哲雄 訳 (1974). 『透明なる自己』 誠信書房.
・中村陽吉 (1990). 『「自己過程」の社会心理学』/ 東京: 東京大学出版会.