今回は、適性処遇交互作用(ATI)について学びます。教育心理学の分野の新しい知見である適性処遇交互作用。その意味と具体的な事例、研究や問題点についてわかりやすく解説します。また、学びに役立つ本もご紹介しますので、参考にしてみてください。
目次
適性処遇交互作用とは?
適性処遇交互作用(ATI:Aptitude Treatment Interaction)は、クロンバックが提唱した概念です。
適性は学習者の個人差、処遇は学習方法や指導方法の事です。
「誰にでも効果的な学習法」というものは存在せず、学習方法や指導方法が学習者の適性とマッチした時に、学習の効果が最大限に発揮されると言う事です。
適性処遇交互作用に関する実験
適性処遇交互作用に関する実験を1つ見てみましょう。
スノーら(Snow et al., 1965)は、学習指導の方法と学習者の適性との関係について実験を行いました。
手続き
大学生を2グループに分け、1つには映像授業、もう1つには教師による授業を14回行いました。そして各授業の最後に小テストを行いました。また、大学生には、対人積極性等の検査を行いました。
結果と考察
- 対人積極性の高い学生群では、教師による授業グループの方がテストの得点が高い結果となりました。
- 対人積極性の低い学生群では、映像授業グループの方がテストの得点が高い結果となりました。
つまり、学生の対人積極性という適性の違いによって、授業方法の効果が異なる事が分かったのです。
適性処遇交互作用の具体例
適性処遇交互作用は具体的にどのような場面で使われているでしょうか。
例えば保育園で、自由遊びの後に読み聞かせを始めようとします。「はい、みんな集まって」というだけでは集まれない子もいるでしょう。
このような場面で、保育士は手遊び歌をよく行います。これは言葉だけではなく身振りも使いながら、自然に全園児が読み聞かせの準備に入れるような関わりをしているのです。
適性処遇交互作用の問題点
適性処遇交互作用は個別や少人数学習には向いていますが、集団学習に適用するには限界があります。そのため、小学校で授業についていけない子は、全て教師の教え方が悪いせい、としてしまうのは問題です。
タブレット学習や映像授業を取り入れながら、集団の中で可能な範囲で行う事が大切なのではないでしょうか。
適性処遇交互作用について学べる本
適性処遇交互作用について学べる本をご紹介します。
教職や公認心理師を目指す方に「やさしい教育心理学」
教職過程や公認心理師のテキストとして分かりやすく教育心理学が学べる本です。
本書の構成は以下の通りです。適性処遇交互作用については、第6章に載っています。
- 第1章 記憶力がいいとはどういうことか
- 第2章 学ぶことと考えること
- 第3章 ほめることの大切さ
- 第4章 「やる気」を考える
- 第5章 学級という社会
- 第6章 どのように教えるか
- 第7章 児童・生徒をどう評価するか
- 第8章 人間の発達について考える
- 第9章 知的発達のメカニズム
- 第10章 人格発達の基礎
- 第11章 困難を抱える子どもたち
- 第12章 カウンセリングとは
教え方を教わる
親でも教師でも、真面目な人ほど子供に一生懸命教えようとします。それについてこられる子は良いでしょう。
けれども成果が上がらなかった場合、子供や生徒の能力のせいにする前に、教え方がその子に合っていたのかを考える必要があります。
その場合、教え方が下手だとか間違っていると言う事ではなく、「その子に合う教え方は何か」という事を考えるのです。子供をよく観察する事ができれば、自ずとどのような教え方が良いのかが見えてくるでしょう。
教え方は、子供から教えてもらうのです。
参考文献
鎌原雅彦・竹網誠一郎(2019) やさしい教育心理学[第5版] 有斐閣