虐待や発達障害など子どもをめぐる心理的な問題は連日ニュースでも取り上げられており、子どもに対する支援の必要性はますます高まっていると言えるでしょう。
そのような、子どもをめぐる問題に対する専門職の1つに児童心理司というものがあります。児童心理司の仕事内容や児童心理司になる方法や児童福祉司との違いについて解説していきます。
目次
児童心理司とは
児童心理司とは、児童福祉法第12条により、児童相談所に勤務している心理学の専門職員のことを指します。
以前は心理判定員と呼ばれていましたが、2005年の厚生労働省の通達により名称が児童心理司と変更になっています。
虐待や子育ての問題などの相談機関である児童相談所において、児童心理司はその専門性を活かし活躍しているのです。
なお、児童心理司が活躍する主な職場としては次のようなものが挙げられます。
【児童心理司の働く職場】
- 児童相談所
- 身体障害者更生相談所
- 知的障害者更生相談所
- 福祉事務所
- 障害者支援施設
- 障害児入所施設
児童心理士の仕事内容
それでは、児童心理司の仕事の内容にはどのようなものがあるのでしょうか。
児童心理司が担うべき業務は、児童やその保護者などの相談に応じ、必要な助言・指導を行うことと診断面接や心理検査、観察などによって心理診断を行うことが挙げられます。
そのほかにも、援助計画の策定やレクリエーション・クラブ活動などを通じて個別・集団両方を実施し、対象児童へ直接的な支援を行う場合もあるのです。
なお、児童心理士の業務の中でも大部分を占める相談業務の種別としては次のようなものが挙げられます。
【児童心理司に寄せられる相談】
- 養護相談
- 虐待相談
- 障害相談
- 非行相談
- 育成相談
- 保健相談
児童心理司に対して行った調査では、児童心理士がかかわる相談のうち最も多いのは障害相談となっており(相談業務の55%を占める)、次いで虐待相談(22.7%)となっています。
発達障害が学校現場で取り上げられることも増え、認知件数が高まっていることにも関係しているのでしょう。
また、虐待相談は6割以上の児童心理士が、業務の中で最も精神的に負担が大きい相談内容と挙げており、精神的負担の高い虐待の相談にも多く触れることになるために、決して楽な仕事ではないと言えるでしょう。
また、児童心理司の業務内容とその業務にかける時間の平均は次のようになっています。
【児童心理司の業務内容】
- 事務処理:2.8時間
- 面接・観察・指導:1.5時間
- 会議:1.3時間
- 心理検査:1.3時間
- 移動:0.8時間
- 心理療法・カウンセリング:0.6時間
児童福祉司との違い
児童心理司と混同されやすい職業の1つに児童福祉司があります。
児童福祉司とは、法律によって児童相談所に配置されることが義務付けられている専門職員であり、子どもや保護者等からの相談や必要な調査、支援を行う仕事を行います。
児童福祉司はその名前や勤務先などが児童心理司と類似しているため、その違いについてよくわからない方も多いでしょう。
児童福祉司は、次のような業務を担うこととなります。
【児童福祉司の仕事内容】
- 子どもや保護者からの福祉に関する相談
- 必要な調査を行う
- 子どもや保護者に必要な支援・指導を行う
児童福祉司も児童心理司と同様に相談や調査、支援などの活動を行う職業です。
しかし、児童心理士が心理学の専門家として子どもや保護者に接し、支援を行うのに対し、児童福祉司は心理学的なアプローチが強調された支援等は行いません。
例えば、障害相談においても言語発達障害や自閉症、知的障害は児童心理司の担当ケースとなり、肢体不自由児、重度心身障害などは保健師の担当となります。
そこで、児童福祉司はその他、障害児施設給付費支給申請など、ソーシャルワーカーの分野での業務を請け負うこととなります。
また、調査や支援に関しても、児童心理司が心理検査などを用いて知的能力の水準やパーソナリティ特性など心理的要因を調べることに対し、児童福祉司は社会的診断と呼ばれる対象者の社会的状況を調べる(学校との関係、親戚との関係など)ことが主な調査活動です。
こうして得られた情報を基に、児童福祉施設の入所手続きや里親への委託など対象者の社会的状況の改善を目指した介入を行います。
そのため、カウンセリングやレクリエーションなどを通した個人・集団への心理療法的アプローチを採用する児童心理司とは大きく異なると言えるでしょう。
児童心理司になる方法
それでは、児童心理司になるためには、どのようにすればよいのでしょうか。
児童心理司は臨床心理士や公認心理士のような資格ではありません。
そのため、児童相談所・身体障碍者更生相談所、知的障害者更生相談所などの施設の採用試験に合格することで、児童心理司として勤務することが出来ます。
ただし、児童心理司は心理学の専門職員であり、心理学の素養が求められる仕事です。そのため、大学で心理学を専攻していることは必須でしょう。
より心理学の専門性をアピールしたい場合は大学院の修士課程で心理学の研究科を修了していることが有利であると考えられます。
児童心理司になるために必要な資格
児童心理司になるために、「○○心理士」のような資格は求められません。
しかし、現役の児童心理司の多くは何らかの資格を保持している人がほとんどです。
- 臨床心理士:47.5%
- 教諭:24.6%
- その他心理士:8.7%
- 社会福祉士:5.3%
- 保育士:4.6%
これを見ると、半数は臨床心理士の資格を持っていることになります。
やはり、心理学の専門家として勤務することを考えると、心理臨床における深い知識と技術を備えていることをアピールできる臨床心理士や公認心理士の資格を取得することは児童心理司として活躍するうえでも大きく役立つ資格であろうことが伺えます。
そのほかに児童心理司が保有している資格の例としては次のようなものが挙げられます。
- 精神保健福祉士
- 社会福祉主事
- ケアマネージャー等福祉資格
- 言語聴覚士
児童心理司について学べる本
児童心理司について学べる本をまとめました。
初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
すぐ役に立つ! 児童相談所のしごと Q&A
児童心理士は主に児童相談所で子どもや保護者に対し適切な支援を行うための情報を精査し、支援を行っていく専門家です。
それでは、児童相談所ではどのような仕事が行われるのでしょうか。
ぜひ本書を読んで、児童相談所の仕事とはどのようなものなのかについて詳しく学びましょう。
子どもの心を診る医師のための発達検査・心理検査入門 改訂2版
児童心理司へ寄せられる相談内容の最も多いのが障害に関するものであり、発達に問題がある発達障害について必要な検査を実施し、情報を収集することは児童心理司に欠かすことのできない仕事です。
ぜひ、本書から子どもの心を捉えるために必要な発達検査や心理検査について詳しく学びましょう。
子どもをめぐる問題の最前線で活躍する心理の専門家
児童心理司は、近年増加している子どもをめぐる問題の最前線で活躍する心理学の専門家です。
しかし、虐待相談など痛ましいケースからも逃げず対応をしなければならないため、決して楽な仕事ではありません。
一人一人の児童心理司がケースに押しつぶされないためにも、児童心理司の増員は急務の課題となっていると言えるでしょう。
【参考文献】
- 大島剛・山野則子(2009)『児童相談所児童心理司の業務に関する一考察』人間福祉学研究 2 (1), 19-33
- 藤井友恵(2008)『児童福祉司として思うこと』島根大学社会福祉論集 2 86-90
- 荒木敏宏(2019)『公認心理師制度発足に伴う自治体心理専門職の役割と課題について』人間環境学研究 17 (2), 121-126