認知心理学とは?認知心理学の面白さを研究例を交えて紹介

2022-08-26

こころのメカニズムを探る心理学にも、臨床心理学や教育心理学、発達心理学など様々な学問領域が存在します。

今回はその中でも認知心理学を取り上げます。認知心理学とはいったいどのような学問なのでしょうか。認知心理学の面白さを知ってもらえるよう、具体的な研究例も取り上げつつご紹介していきます。

また、認知心理学を学ぶことのできる大学や学会についても紹介するので、この記事を読んで認知心理学に興味を持った人はぜひさらなる学びの場があることも知ってもらえれば幸いです。

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認知心理学とは

情報社会といわれる現代では、パソコンやスマホ、AIなど高度な情報処理を行う技術が発展しています。

認知心理学とは、人間を情報処理を行うシステムであるとみなし、認知という人間のこころの働きにフォーカスを当てた心理学派のことを指します。

認知心理学の源

認知心理学における認知という言葉を心理学の分野で初めて用いたのは、アメリカ心理学の代表的な学者であるジェームズであると言われています。

彼は、認知:Cognitionという語を推理:Reasoningを表す用語として用いたのです。

ジェームズやティチナーらは、人間の意識を構成する内容を、内観法と呼ばれる方法によって探ろうとする、構成主義と呼ばれる心理学派の学者でした。

しかし、個人が感じられた内容を報告してもらい、そこから意識を構成する内容を探る内観法では客観性や再現性に乏しいという欠点があり、外部から直接観察可能な行動に焦点を当てるべきであるとする行動主義心理学が台頭します。

しかし、初期の行動主義心理学では、外界からの刺激と生体の反応の間にある関係性を特定したり、人工的に刺激と反応の結びつきを作ろうとする実験がほとんどであり、情報処理を行う高度な心的過程はその研究領域に含まれていませんでした。

そこからしばらくの間、認知は心理学の領域で取り上げられることはありませんでしたが、第2次世界大戦でコンピューター、情報処理の技術革新がみられると、1960年代には心理学にも情報処理という新たな視点がもたらされたのです。

認知心理学の特徴

認知心理学はコンピューター内部で作用するプログラムの方法と、情報を処理する大脳の機能が類似しているのではないかという仮定からスタートしています。

そして、人間をコンピューターのように情報を処理するシステムの1つであるとみなすのです。

認知心理学において様々な学者の間で共通の理解を得ている特徴は次のようなものが挙げられます。

【認知心理学の特徴】

  • 情報の選択性の重視
  • 課題に対する適切な情報処理戦略の選択を重視する
  • 認知構造の発達
  • 人間の様々な心の機能は1つのまとまりをもった組織であるとみなす
  • 認知過程は能動的な性質を持っている

このような基盤を基に、知覚や学習、記憶、言語、思考、運動などを司る人間の認知プロセスを記述、説明、予測することが認知心理学の目的なのです。

認知心理学のアプローチ

認知心理学は大きく分けると実験的アプローチ、認知モデリングアプローチ、脳神経科学アプローチという3つのアプローチに大別することが出来ます。

実験的アプローチ

実験的アプローチは心理学が始まって以来、中核を担ってきたアプローチ法であり、認知心理学では知覚、学習、記憶、言語、思考、運動などに関する課題を被験者に提示し、その改題の遂行を観察するというものです。

このアプローチでは、被験者に与える課題や条件を実験者が操作することができ、その結果がどのように変容するのかをとらえることが出来るため、原因と結果つまり因果関係をとらえることに適しています。

認知モデリングアプローチ

認知モデリングアプローチは、人間の情報処理や知識表象のモデルを作ろうとするアプローチです。

このアプローチは認知心理学のアイデンティティでもあるコンピュータープログラムの図式化を模した形をとっており、人とコンピューターが共通する領域である知覚や言語処理、推論、学習などをモデル化するというものです。

多くの人の認知過程を説明できる認知モデルを構築することが出来れば、なぜそのような思考、行動が生じているのかを簡略に説明することができ、認知心理学の目的に合致しているアプローチであると言えます。

脳神経科学的アプローチ

脳神経学的アプローチとは、認知プロセスを支える脳の機能と構造を明らかにすることによって、人間の認知機能を探ろうとするアプローチです。

この手法は脳損傷患者を対象とする神経心理学と脳画像技術を利用した認知神経科科学を組み合わせています。

このアプローチでは、人間が様々な認知活動を行う際に、脳のどの部位が活性化するのかをとらえることで、認知機能の働きを整理することが出来ます。

認知心理学の研究例

認知心理学ではどのような研究が行われているのでしょうか。

ヒューマンエラーの種類

私たちは日常生活の中で、ついうっかり忘れものをしてしまったなどの失敗をすることも多いでしょう。

これはヒューマンエラーと呼ばれていますが、私たちのヒューマンエラーがどのようなメカニズムで生じるのかを認知心理学の観点から見ていきましょう。

私たちのちょっとした失敗は、その性質によっていくつかのタイプに分類されています。

もっともよく知られた分類としては、ヒューマンエラーを計画と実行という2つの段階に分けて分類するもので、次のようなものが挙げられます。

  • スリップ:行動の目的や計画は正しいが、実行する際に失敗してしまう
  • ラプス:行動を実行している間に、その目的や計画を忘れてしまう
  • ミステイク:行動の目的自体が誤っており、誤った目的に向かって行動してしまう

例えば、スリップというヒューマンエラーは、自分の考えを伝えようとするものの、いざ話すときに言い間違ってしまう、文章を考えながら書いているときに、書き間違いをしてしまうなどが当てはまります。

これに対し、ラプスは行動を起こしている最中に、その目的や計画が忘れられてしまいます。

例えば、買い物に出かけたとき、店内で必要だった商品が何だったかを忘れてしまい、当初買おうと思っていたものを買い忘れてしまったなどのミスはラプスに該当します。

最後に、ミステイクは行動の目的自体が誤っているために生じるヒューマンエラーです。

例えば、友達と渋谷集合の約束をしていたのに、池袋が集合場所であると勘違いしてしまい、池袋へ向かうという誤った行動をとってしまうことなどが該当します。

SRKモデル

認知心理学では人間を1つの情報処理システムとしてみなします。

つまり、人間には感覚機能によって情報が入力され、それが必要に応じて処理されることで、行動として出力されます。

このような一連の心の働きのことを認知過程と呼びます。

そして、ヒューマンエラーを理解するうえで有用な認知心理学のモデルがSRKモデル(Skill-Rile-Knowledge)です。

このモデルは人間に情報が入力されてから、行動として出力されるまでの間に3つのレベルの情報処理が行われるという過程に基づいています。

【SRKモデルの情報処理】

  • スキルベース:刺激を知覚すると無意識的にその刺激に対応した行動をとる
  • ルールベース:刺激をもともと形成されているルールに基づいて解釈し、ルールに沿った行動をとる
  • 知識ベース:よくわからない情報に対し、どのような行動をとるべきか熟慮して行動をとる

先述のヒューマンエラーをSRKに当てはめて考えると、スリップやラプスというミスは自分の行動に対し意識的なコントロールが行われるために生じるものであると考えられます。

そのため、無意識的に誤った行動をとってしまうスキルベースの行動で生じるエラーであるため、このエラーを起こすためには行動をしている最中に、正しく行えるよう意識することでエラーの発生を防ぐことが出来るでしょう。

これに対し、ミステイクは意識的処理を必要とするルールベースや知識ベースのヒューマンエラーであると考えられているのです。

思い込みとスキーマ

それではより複雑で意識的な情報処理過程で生じるミステイクがどのようにして生じるのかをもう少し詳しく見ていきましょう。

ミステイクの代表例である思い込みの背後にはスキーマによる影響が強いことが指摘されています。

スキーマとは、私たちが過去の経験によって得た知識から形成される物事の認識の枠組みのことであり、物事のとらえ方、感じ方の癖のようなものです。

例えばカフェを思い浮かべてください。

明るすぎない照明でコーヒーのにおいがして、落ち着いて座ることのできる席がいくつかあって…などのカフェのイメージが浮かんでくるでしょうか。

このようなカフェというワードから、実際にカフェにいなくても様々な特徴を思い浮かべることが出来るのは私たちにカフェスキーマが存在しているからです。

このようにスキーマは認識の枠組みであるとともに、ある程度の精度をもって対象を認識するツールでもあるため私たちの思考にも大きな影響を与えるものです。

しかし、このスキーマは完璧ではありません。

そのため、ヒューマンエラーの代表例である思い込み(ミステイク)などは、スキーマから零れ落ちた情報があることで生じると考えられます。

また、スキーマは外界の対象へのイメージだけでなく、行動についても同様にスキーマは存在します。

例えば、車の運転をするにあたって、まずはシートベルトを着け、エンジンをかけ、アクセルを少し踏み、ハンドルを微妙に傾けるなどの複雑な行動も無意識的に行えるように、様々な意図のもとで行われる一連の行動は行為スキーマにまとめられています

しかし、この行為スキーマから零れ落ちてしまう行動があった場合、スリップのようなうっかりミスが起こってしまうと考えることが出来るでしょう。

認知心理学を学べる大学・学会

認知心理学を詳しく学ぶために、どのような大学や学会があるのかを紹介します。

認知心理学を学べる大学

認知心理学は、心理学系の学部、研究科を解説している大学で学ぶことが出来ます。

心理学系の学部を開設している大学は多数ありますが、認知心理学のどのようなテーマに居運河あるのかが大学選びの基準の大きなポイントとなるでしょう。

それにはまず、日本の認知心理学の研究論文を読んでみることをお勧めします。

論文の検索サイトであるCiNiiでは、気になるワードを検索することで関連する研究論文を読むことのできるサービスです。

ぜひ、認知心理学に関する様々な論文を読み、その論文を書いている認知心理学者のいる大学の受験を検討すると、自身の関心のある認知心理学のテーマを深く学ぶことが出来るでしょう。

認知心理学を学べる学会

認知心理学を学ぶために有名な学会としては日本認知心理学会が挙げられます。

認知の働きに関心のある学者や関連分野の研究者などが、最新の知見の発見を目指す場として開設された日本認知心理学会は積極的な学会大会や学会誌の発表、シンポジウムの開催などの活動をしています。

認知心理学等関連分野における学識、経験を有する人が入会可能で、大学院生もその対象として含まれているため、興味のある方はぜひ入会を検討してはいかがでしょうか。

認知心理学について学べる本

認知心理学について学べる本をまとめました。

初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。

基礎から学ぶ認知心理学――人間の認識の不思議 有斐閣ストゥディア

これから認知心理学を学ぼうとする人は、ぜひ基礎から学ぶことのできる入門書を手に取るようにしましょう。

人間の持つ認知に機能の不思議を丁寧に紐解いた本書から、認知心理学の面白さを味わうことが出来るでしょう。

学習支援のツボ:認知心理学者が教室で考えたこと

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認知心理学を含む、学問で得られた知見は日常生活に活かされてこそ初めて価値があります。

教育現場で認知心理学の知見はどのように活かすことが出来るのかをまとめた本書で、より認知心理学を身近に感じましょう。

認知の過程からわかる人間らしさ

初期の心理学は動物実験などを通じて得られた知見から、心理学的理論を構築していきました。

しかし、それだけでは人間の複雑な心の働きをとらえきることはできません。

そして、人間に特有の複雑な認知過程に焦点を当てた認知心理学が心理学の発展に与えた影響は非常に大きいと言えるでしょう。

ぜひこれからも認知心理学について詳しく学んでいきましょう。

【参考文献】

  • 加藤孝義(1981)『認知心理学の史的背景とその概念』歴史と文化 295-306
  • 楠見孝(2009)『認知心理学におけるモデルベースアプローチ(<特集>認知科学におけるモデルベースアプローチ) 』人工知能 24 (2), 237-244
  • 篠原一光(2015)『認知心理学から見たヒューマンエラー』Medical Gases 17 (1), 7-13
  • 日本認知心理学会,https://cogpsy.jp/

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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