子どもの精神発達を調べるツールとして発達検査という心理検査があります。それでは、発達検査とはどのような検査なのでしょうか。
様々な発達検査の種類を一覧でご紹介しながら、それぞれの内容や結果(DQ)の算出方法、知能検査との違い、費用などについてご紹介していきます。
目次
発達検査とは
発達検査とは子どもの発達状態を診断することを目的として開発された検査です。
発達検査の定義に関しては様々ですが、今回は知能検査を除外したものを発達検査とし、ご紹介していきます。
発達とは
発達とは、受胎から成熟までの連続的な過程のことを指します。
例えば、身長が伸びた1年後に縮んでしまったということが無いように、あらゆる発達は一方向に対して進み、逆行することはありません。
そして、発達の順序はすべての子ども共通ですが、その速度は個人差が大きいという特徴があります。
その、発達の速度の個人差や今現在での成熟度の度合いなどを捉えようとする検査こそが発達検査なのです。
発達検査の歴史
発達検査の歴史は、世界初の知能検査である、ビネー式知能検査の開発まで遡ることができます。
ビネー式知能検査の開発
ビネー式知能検査は義務教育において、特殊教育を必要とする子どもをスクリーニングすることを目的として開発されました。
その後、スタンフォード=ビネー式知能検査として標準化がなされると世界各地で翻訳版が作成され、子どもの精神発達を測定する検査として広く普及しました。
ビネー式知能検査では、言語、動作、記憶、数量、知覚、推理、構成など様々な内容を含んだ課題により知的能力を測定しますが、社会性や生活習慣など日常場面での活動内容は課題に含まれず、子どもの全般的な発達の度合いを測定することはできませんでした。
ビューラー・ヘッツァーの幼児検査の登場
このような背景から作成されたのが乳幼児発達検査です。
代表的な検査としてはビューラー・ヘッツァーの幼児検査が挙げられます。
この検査の特徴は、生後間もない乳児から6歳までの子どもにおける精神発達を6つの面に分け、検査することができるという点です。
【ビューラー・ヘッツァーの幼児検査における6次元】
- 感覚
- 身体運動
- 社会性
- 学習
- ものを扱うこと
- 創造力
この検査の意義は何よりも単なる知的能力のみならず、精神発達全体を捉えようとしている点でしょう。
しかし、行動項目の少なさや日常生活における自然な社会性を測定するという点で疑問が残っていました。
ゲゼルによる発達診断の視座
ここで登場するのがゲゼル,Aによる発達診断です。
ゲゼルはまず、政情は乳幼児の発達過程に関して注目し、その知識の蓄積こそが重要であると考えていました。
そしてその知識に基づいて診断を行うことで、心身の障害の早期発見や適切な治療が行えると考え、次の5領域からなる新発達診断学という発達診断における子どもの行動観察基準を提唱しました。
【新発達診断学における5領域】
- 適応行動
- 粗大運動行動
- 微細運動行動
- 言語行動
- 個人-社会行動
このゲゼルの提唱した考えはその後の発達検査の開発に大きな貢献を果たし、日本で用いられてる新版K式発達検査や津守式乳幼児精神発達検査法などの開発へと繋がっています。
発達検査の目的と知能検査との違い
発達検査を行ううえでは、何を知るため、明らかにするために行うのかを失価値を明確にしておかなければいけません。
発達検査が用いられる場面として最も多いのは、乳幼児健康診断でしょう。
ここでは、発達障害など、発達上起こりうる様々な問題を探るために実施されますが、その場で発達検査が実施される目的は、健診を受ける大人数の子どもたちの中から、「一見健康のように見えるが実は発達に遅れや歪みがあるものを見つけることを目的としています。
また、医療の現場においては、身体的な疾患を持つ子どもの精神面を捉え、二次的な悪影響として社会、情緒的な発達に悪影響を及ぼしていないかを捉える意味合いがあります。
加えて、保育など福祉の領域においては、集団保育という状況に耐えられるまで発達が進んでいるのか、特別な支援が必要かどうかなどを考え、保育・療育の計画を立てるための指針として用いられることもあるでしょう。
そのような目的を達成するための検査としては、知的検査と発達検査が挙げられるのですが、両者の違いとはいったいどのようなものなのでしょうか。
知能検査は知的能力の発達の程度や、各年齢段階の平均と比較して知能の高さを捉えるものです。
そのため、発達検査と異なり、成人に活用されることもあります。
また、それぞれの検査が測定する概念の定義にも違いがあります。
【測定概念の定義上の違い】
- 知能:抽象的に思考し、推理する能力とそれらを目的に合わせて使用する能力
- 発達:感覚運動的機敏度
生後間もない乳児は抽象能力や言語能力が十分に発達しておらず、知能を測定することが困難なケースもあります。
そのため、課題に対する正解、不正解から知的能力を探ろうとする知能検査よりも、作業能力や言語能力が未発達の子どもの発達の程度を観察を中心とした検査手続きで捉えようとする点で大きく異なると言えるでしょう。
発達検査の種類とその内容
発達検査はその目的や特徴から大きく3つのカテゴリに分けることができます。
スクリーニング検査(診断検査)
発達障害などの問題を早い段階でスクリーニングすることを目的としたスクリーニングの目的に適した検査は次の通りです。
より早期の段階で発達障害や知的障害を見つけることができれば、療育など子どもに適した支援を早い段階で提供することができます。
障害は治ることはありませんが、より早期の介入を行えることで、苦手なことをカバーする方法を身に着けたり、いじめられる、不登校などの2次障害を防ぐことに繋がります。
日本版デンバー式発達スクリーニング検査
知的障害の早期発見や発達の偏りを早期に発見することを目的とした検査です。
検査用具を用いて子どもに対して直接実施するもので、適用年齢は0歳から6歳となっています。
発達の程度は104項目の問題から捉えられ、次の4領域のプロフィールから、発達の偏りの程度を捉えることもできます。
【日本版デンバー式発達スクリーニング検査の4領域】
- 個人-社会
- 微細運動-適応
- 言語
- 粗大運動
遠城寺式乳幼児分析的発達検査法
脳性まひや知的障害などのスクリーニングを目的とした検査です。
日本版デンバー式発達スクリーニング検査と異なり、子どもの反応や回答に加え、保護者への聞き取りも行うことで子どもの発達を捉えようとします。
全151項目から全体的な子どもの発達を捉え、次の6領域からより詳細な発達の偏りなどを発見することができます。
【遠城寺式乳幼児分析的発達検査法の6領域】
- 移動運動
- 手の運動
- 基本的習慣
- 対人関係
- 発語
- 言語理解
保護者への問診を行うもの(間接検査)
発達検査の中には保護者など子ども以外の人が回答することで子どもの発達の程度を捉えようとするものもあります。
津守式乳幼児精神発達診断法
養育者へ質問を行い、検査者がその回答から質問項目に〇・✕・△をつけることで子どもの発達の程度を捉えようとする検査です(3歳以上の場合は、養育者が直接記入して回答することができます)。
【津守式乳幼児精神発達診断法の5領域】
- 運動
- 探索
- 社会
- 生活習慣
- 言語
適用年齢は0歳から7歳までであり、次の3つのバージョンを各年齢段階に合わせて使用します。
- 0歳版
- 1歳~3歳版
- 3歳~7歳版
得られた結果からプロフィール図を作成することで、視覚的に子どもの発達の程度を捉えることができ、保育計画作成資料などにも用いられることがあります。
S-M社会生活能力検査
S-M社会生活能力検査は社会成熟度(Social-Maturity)を測定する検査であり、子どもの社会生活能力の発達の程度を捉えることによって知的障害児や発達障害児への指導をどのようにするのかに関する手がかりを得るために用いられることが多いようです。
適用年齢は乳幼児から中学生までと幅広く、保護者や学校の担任教師などが回答することで次の6領域から子どもの社会生活能力を捉えます。
- 身辺自立
- 移動
- 作業
- コミュニケーション
- 集団参加
- 自己統制
子どもを直接検査するもの(直接検査)
子供を直接検査する発達検査としてもっとも代表的なのは、新版K式発達検査です。
新版K式発達検査
この検査では発達検査では珍しく、0歳の乳幼児から成人までが検査対象となっています。
検査場面における子どもの反応や回答から次の3領域において評価を行います。
- 姿勢・運動
- 認知・適応
- 言語・社会
各検査結果は発達指数(DQ)としてまとめられ、発達の進み具合を客観的に捉えることが出来ます。
検査結果とDQ
津守式乳幼児精神発達診断法や新版K式発達検査などでは、検査結果から発達の程度を示す指標として発達指数(DQ)を算出しようとするものがあります。
DQの算出は次の数式によって行われます。
個々での発達年齢とは各検査によって測定される発達の年齢段階であり、生活年齢とは所謂、実年齢です。
発達指数は子どもの発達状況の物差しであるため、どの程度発達が進んでいるのか(遅れているのか)の基準となります。
しかし、発達検査が行われることの多い乳幼児期は特に発達変化が著しいため、それに伴い発達指数も変動しやすいという特徴があります。
そのため、一度の検査で発達指数が低く出たからと言って、直ちにそれが何らかの障害を示しているわけではないということに注意しましょう。
発達検査にかかる費用
発達検査は通常2つのパターンで検査を受けることができます。
医療機関での受検
医療機関では、医師が検査を必要と判断した場合、保険適用で検査を受けることができます。
ただし、医師が必要と判断せず、親の自発的な希望で検査を実施する場合は保険適用外となり、自費となるため、検査を受ける前に料金がどうなるのかをしっかりと確認しておくことが必要です。
また、書面での結果や診断書を希望する場合には、別途料金がかかる場合もあります。
こちらも併せて確認をしておくとよいでしょう。
自治体での受検
各自治体に設置されている発達支援センターや教育センター、児童相談所など公的機関では、発達検査を無料で受けることができます。
ただし、医療機関ではないため、発達障害等の診断を行うことは出来ず、結果を書面でもらうなどは出来ません。
あくまで、子育て支援という観点から、子どもの発達の傾向を捉えるために実施されるため、医学的診断などを希望する場合は、有料で医療機関を受診する必要があるでしょう。
発達検査について学べる本
発達検査について学べる本をまとめました。
子どもの発達検査の取り方・活かし方:子どもと保護者を支えるために
発達検査は子どもを対象として実施するため、その検査の実施にあたってのポイントや、保護者へフィードバックする際の配慮など様々な工夫が求められる検査でもあります。
そのため、本書で発達検査をより活かすための方法についてぜひ学んでみてはいかがでしょうか。
新版K式発達検査反応実例集
今回ご紹介した発達検査の中でも、心理臨床の現場で特に用いられることが多いのが、津守式乳幼児精神発達診断法と新版K式発達検査です。
しかし、実際の発達検査ではどのような事例に対して行っているのかが全く分からなければ、検査に対する現実的なイメージもわきにくいでしょう。
そのため、本書にまず目を通し、豊富な事例に触れることでぜひ具体的な発達検査へのイメージを構築するようにしましょう。
全般的な発達の度合いを測定すること
発達検査は発達の遅れや偏りをスクリーニングしたり、療育の計画に役立てるなど様々な目的で用いられるツールです。
しかし、子どもの発達は個人差が大きく、検査結果だけを過信してしまうと、誤った判断を導いてしまうかもしれません。
そのため、検査に加え、保護者からの様子の聞き取りや子どもの実際の様子、継続的な検査の実施など多角的な視点から子どもの発達を捉えるようにしましょう。
【参考文献】
- 瀬尾亜希子(2016)『発達障害のアセスメントに用いる発達検査・知能検査』小児保健研究75(6):754-757
- 木戸啓子・山口茂嘉(2003)『乳幼児発達検査の変遷と保育への応用』岡山大学教育実践総合センター紀要 3, 57-65
- 諸岡啓一(2005)『言語発達遅滞の診断と早期介入』脳と発達 = OFFICIAL JOURNAL OF THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY 37(2), 131-138