心理学には、個人の知覚や感情、思考、行動などがどのようにして起こるのかに焦点を当てた研究も多いですが、人が集まったときにどのような現象が起こりやすいのかという集団を対象とした研究分野もあります。
今回はそのような集団のもつ基本的な法則を明らかにしようとする集団力学、グループ・ダイナミックスを取り上げます。グループ・ダイナミックスとはいったいどのような意味を持っているのでしょうか。具体例を挙げながらわかりやすく解説していきます。
目次
グループ・ダイナミックス(集団力学)とは
グループ・ダイナミックスは、1930年代のアメリカで、レヴィン,K.という社会心理学者が創始した学問です。
集団力学とも呼ばれるグループ・ダイナミックスは1949年に日本へもたらされ、73年の間日本でも精力的に研究活動が行われています。
グループ・ダイナミックスの主な研究領域としては次のようなものが挙げられます。
【グループ・ダイナミックスの主な研究領域】
- 集団凝集性
- 集団規範
- 集団意思決定とその効果
- 集団構造
- 集団目標と集団業績
- リーダーシップ
グループ・ダイナミックスの意味
グループ・ダイナミックスは英語でGroup-Dynamicsと書きますが、それぞれは次のような意味を持っています。
- Group:集団
- Dynamics:動力学
この動力学とは、もともと物体の動作や運動に影響を与える力について取り上げた学問です。そのため、集団という単位が、どのような方向に向かう力が働くのかを明確にしようとするものこそがグループ・ダイナミックスなのです。
もう少し詳しく説明をすると、グループ・ダイナミックスは次のような学問分野であると言えます。
【グループ・ダイナミックスとは】
集団の基本的な性質、「集団と個人」、「集団と集団」さらにはもっと大きな組織とその集団の関係についての法則を実証的な方法によって明らかにしようとする学問分野
なお、グループ・ダイナミックスの対象となる集団は非常に多岐に渡ります。
【グループ・ダイナミックスの研究対象】
- 夫婦・恋人など2人グループ
- 一緒に仕事をしているなどの少人数
- 1つの企業に所属するなど100人、1000人単位の集団(通常組織と呼ばれるもの)
- 野球場の観客など数万人単位のグループ(通常群衆と呼ばれるもの)
- 日本国民など同じコミュニティに属するグループ
このようにグループ・ダイナミックスは数人単位の小規模な集団から数万人という大規模な集団までもその研究対象としている幅広い学問であると言えるのです。
グループ・ダイナミックスの具体例
グループダイナミックスの領域での研究にはどのようなものがあるのでしょうか。
代表的なものをご紹介します。
PM理論
PM理論とは、日本の三隅二不二が提唱したリーダーシップに関する理論です。PM理論は集団における望ましいリーダー像を提示したこともあり、教育やビジネスの現場で大きな注目を集めました。
PM理論のPとMはそれぞれ次のような意味を持っています。
【PM理論のPとMの意味】
- P機能:Perfoemanceの頭文字で、集団を目標達成や課題解決に導くための機能。新しいアイデアを出したり、部下に指示を出すなどの行動が含まれる
- M機能:Maintenanceの頭文字で、集団のメンバー同士のトラブルを解決したり、モチベーションを上げるような指示により、メンバー間の関係性をよくする行動が含まれる
これらの機能が高い場合を大文字、小さい場合を小文字として、「PM」「Pm」「pM」「pm」の4パターンのリーダーに分類することができます。
そして、最もメンバーから信頼され、高いパフォーマンスを残す集団を導くリーダーはPM型のリーダーとされます。
P機能は成果を上げるための機能ですが、これだけが高くても、メンバーのマネジメント能力が欠けていれば、集団はリーダーについていけないとモチベーションが下がります。結果的に集団としてのパフォーマンスは落ちてしまうでしょう。
逆にM機能はメンバー同士のつながりを強くしますが、人に優しすぎる、気を使いすぎるところがあると課題を達成するために負荷をかけるような指示を行えません。
そのため、メンバーを支えつつ、課題達成のために強く導けるPM型のリーダーこそが優れたリーダーであると言われているのです。
集団凝集性
集団凝集性とは、メンバーが集団に引き付けられる力を表した概念です。
集団凝集性が高ければ、メンバーは長期間にわたり集団に所属し、メンバー間のまとまりも強くなります。集団凝集性が高い集団は、集団のまとまりが強いため、課題のパフォーマンスが高いなどの特徴が見られます。
しかし、まとまりの強さから集団の輪を乱すことを恐れるがあまり、意思決定場面で誤った決断を下してしまうリスクもあります。
このような、集団での短絡的で誤った決断を下してしまう現象のことをグループ・シンク(集団浅慮)と呼びます。
歴史的にも、アメリカとキューバのカストロ政権の間に起こった「ピッグス湾事件」では、権威ある専門家やCIAなどの集団凝集性の高いメンバーによって決定された軍事作戦が物資補給の不十分さなどまずは考えなければならない事項を無視し、失敗に陥ったことが有名です。
このように集団凝集性の持つメリット・デメリットについては古くから指摘されてきたのです。
グループ・ダイナミックスの学会
日本におけるグループ・ダイナミックスに関する学会としては「日本グループ・ダイナミックス学会」が挙げられます。
この学会は実証的な社会心理学の研究及び実践を目的として活動しており、心理学論文としても有名な実験社会心理学研究を発行するなど精力的に活動しています。
学会への加入は、グループ・ダイナミックスへ関心の持つ研究者等となっていますが、大学院の修士課程もしくは博士課程に在籍している学生も正会員(学生)として所属することができるようです。
学会大会では最新のグループ・ダイナミックスに関する研究にも触れることが出来るため、ご興味のある方はぜひ入会を検討してみてください。
グループ・ダイナミックスについて学べる本
グループ・ダイナミックスについて学べる本をまとめました。
初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
グループ・ダイナミックス入門―組織と地域を変える実践学 (世界思想ゼミナール)
グループ・ダイナミックスは、集団の中に研究者が飛び込み、その集団の抱える問題を解決していく実践型のフィールドワークの元ともなる学問です。
ビジネスの場面でも組織改革に用いられることも多く、現代社会では必須の学問の1つと言えるでしょう。
そのようなグループ・ダイナミックスを高校生からでもわかるように解説した入門書である本書を読んで、グループ・ダイナミックスについて詳しく学びましょう。
人間理解のグループ・ダイナミックス
集団というものは、どのような規模であれ、個人が集まることで成り立っています。
そのため、集団を捉えようとする際には個人と集団の相互作用について考えることが欠かせません。
そのような個と集団の相互作用について考えた本書を手に取って、自己と他者の理解を深めましょう。
教育やビジネスの場面でも応用されるグループ・ダイナミックス
心理学の知見は日常生活で応用されるべきものですが、中でもグループ・ダイナミックスは私たちの生活に深く関わっていると言えるでしょう。
特に教育現場での学級運営や会社での社員の管理などに応用することができるとされ、さらなる研究の発展が望まれています。
ぜひ、今後もグループ・ダイナミックスの最新の知見に注目していきましょう。
【参考文献】
- 杉万俊夫(2006)『グループ・ダイナミックスの理論と実践』Revue japonaise de didactique du français 1(1), 63-77
- 矢守克也(1995)『「いじめ」の基底--グル-プ・ダイナミックスの視点から』奈良大学紀要 (23), p271-278
- 日本グループ・ダイナミックス学会,http://www.groupdynamics.gr.jp/?msclkid=ffc0ec1fbc6111ec8800a56259825869