心理検査には様々な種類があります。そのうち、知的能力を測定し、それがクライエントの不適応にどのように関連しているのかを捉えようとするものが知能検査です。
それでは知能検査とはどのようなものなのでしょうか。その特徴や歴史、目的、種類、受けられる場所などについてご紹介していきます。
目次
知能検査とは
知能検査とは、人の知的能力の発達の程度を測定する心理検査の総称です。
知的能力とは、知能とも呼ばれ、古くから様々な学者が研究を行ってきました。
最も古い知能のモデルを提唱したのは、スピアマン,C.E.です。
スピアマンは小学生の成績に対し因子分析と呼ばれる解析を行い、様々な種類の科目に共通する2つの因子を見出しました。
【スピアマンの2因子説】
- 一般知能:全ての知的な活動に対し共通して働く知的能力
- 特殊知能:特定の課題や領域に固有に働く知的能力
多くの場合、学校の成績などは、もちろん得意不得意はありますが、多くの場合、全体的に成績が良い人もしくは全体的に成績が悪いなどの共通した傾向を持っているケースがほとんどです。
全体的に成績は悪くないのに、読み書きだけ著しく苦手などのケースはまれであり、そのような場合は学習障害などと判断されますこともあるでしょう。
このスピアマンの理論は、知能を単純化しすぎているという批判を浴びることになりますが、このスピアマンの発見は知能検査の基盤ともなるものです。
この2因子説に従えば、どのような知的活動にも共通して働く一般知能を測定し、比較することができれば、個人の知的能力の個人差を比較することができるでしょう。
このような知見に基づき、知能に関する理論はいくつかの知能を構成する要素のそれぞれを測定することで、全体的な知的能力を測定しようとする流れになっているのです。
知能検査の結果は何を表しているのか
知能検査の結果の多くは知能を数値化した形で表されます。
そのもっとも代表的な例が知能指数(IQ)です。
この知能指数とは、知的能力を比較するための数値であり、次のような計算式で表されます。
【知能指数の計算式】
知能指数=精神年齢(MA)÷生活年齢(CA)×100
そして、知能検査で測定される数値は、この精神年齢と呼ばれるものです。
この数値を、実年齢である生活年齢で割り、100倍することで知能指数が算出されるのです。
ただし、この計算によって有効な比較ができるのは知能の発達が著しい幼児だけであり、大人になった後も、子どものように年齢を重ねることで知的能力が発達していくことはありません。
そのため、現在の知能検査で採用されることの多い知能指数は、各年齢集団の平均値と比較して知的能力がどの程度のなのかを判定する偏差知能指数(DIQ)を算出するケースが多いでしょう。
【偏差知能指数の計算式】
偏差知能指数=100+15×{(個人の得点―同年齢集団の平均点)÷ 同年齢集団の標準偏差}
知能検査の歴史
知能検査は、心理検査の中でも歴史あるものです。
なぜ知能検査が開発されるに至ったかという経緯には、大きく戦争と教育という2つの契機が挙げられます。
1910年代に起こった歴史的出来事として、第一次世界大戦が挙げられます。
この戦争では、1917年にアメリカが参戦を果たすのですが、それにあたり、軍隊を編成するための基準が求められます。
そして、一般人の中から、指揮官などの高い知的能力を必要とするポジションに適した人物は誰なのかを選ぶ必要がありました。
そこで、心理学者を検査官とした集団知能検査を実施し、知的能力の高い人をスクリーニングすることでその能力を活かせる軍隊を編成するための資料を作ろうとしたのです。
一方で、ヨーロッパでは教育制度の確立がなされていました。
子どもは学校へ通うようになるのですが、生徒の中には勉強についていけず、落第を繰り返す子どもが問題となり、当時はこのような子どもたちは怠け者とみなされていたようです。
しかし、17世紀後半になり、学業の不振は決して怠けているからではなく、知的障害などの能力不足に起因する者も多く含まれているため、そのような子どもたちも含む「子ども一人一人の個性に合わせた教育」の推進が求められていきました。
その目的達成のためにまず必要となるのが、障害児に対する特別支援教育です。
そこで1904年にパリの文部省は「異常児教育の利点を確実にするための方法を考える委員会」を発足させ、心理学者であるビネーを委員の一人として任命します。
こうして、知的障害児をスクリーニングするためのツールとして、精神科医のシモンの協力のもと1905年に初めて「知能測定尺度」を開発しました。
この検査は、現在も用いられているビネー式知能検査の原型ともなるものなのです。
知能検査の目的
知能検査では知的能力と呼ばれる認知的な機能を測定するツールです。
しかし、それはあくまで検査の実施によってもたらされる結果に過ぎず、その目的と混同してはいけません。
心理検査の歴史では、戦争と教育という2つの出来事に関連した開発の経緯をご紹介しました。
戦争では、指揮官と選出するため、教育では知的障害児を発見するためというものでしたが、両者には「その人の個性を見つけ、その個性にあった環境を提供できるようにすること」という共通点があるのです。
知能には、頭の良い・悪いというイメージがついて回りますが、それを明らかにすることで知能検査の目的を達成することはできないのです。
そして、このような知能指数をはじめとする知能検査から導かれる結果はあくまで、その検査が捉えることのできる知的能力の一部に過ぎません。
そのため、知能検査の結果を解釈する際には次のような事項を気を付けなければいけません。
【知能検査の結果を捉える際の注意点】
- 知能は人間の価値を示すのではなく、あくまで知的能力の一面に過ぎないこと
- 知能は生涯変わらないのではなく、個人差はあるものの発達したり、変動したりするもの
- 知能は人に差をつけるものではなく、個性を理解するための考え方であること
知能検査のフィードバック
このような知能検査の目的を達成するために重要となるのが、検査のフィードバックを適切に行うことです。
知能検査を実施するケースの多くは、クライエントに特別な支援を必要としている場合が多いでしょう。
そのため、進路選択や生活環境の支援に用いられるために、検査結果を専門家でない人にもわかりやすく、安心して受け取ることができるフィードバックを心がけましょう。
特に丁寧なフィードバックを心がけなければならないのは、クライエントが低年齢の子どもである場合です。
このような場合、知能検査の受検の必要性を感じるのは保護者や支援者である場合が多く、自分が生活上で困っていることをうまく言語化できないケースも少なくありません。
そのため、クライエント本人が検査体験をどのように感じているのかを踏まえたうえで、本人の困り感が緩和され、検査体験が傷つき体験にならないよう、丁寧なフィードバックを行う必要があります。
また、子どもの発達環境に深く関わっている保護者や支援者に対し、クライエントの困り感を代弁し、適切で具体的な関わり方を提案できるようにすると良いでしょう。
知能検査の種類
知能検査には様々な種類があります。
今回は代表的な知能検査を4つご紹介します。
ウェクスラー式知能検査
乳幼児版のWIPPSI、児童用のWISC、成人用のWAISと幅広い年齢層に対し知能検査を行うことのできるウェクスラー式知能検査は、心理臨床の現場で用いられることの多い知能検査です。
ウェクスラー式知能検査は全体的な知能の発達の程度に加え、4つの指標得点により、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度というそれぞれの知的能力の高低を捉えることで、クライエントの特徴を詳細に捉えることのできる検査です。
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K-ABC
2歳6ヵ月の幼児から18歳11ヵ月まで(KABC-Ⅱ)を適用範囲とする知能検査です。
この検査の大きな特徴は、知能を認知処理過程と知識や技能の習得度という2側面から捉えることで、クライエントの特異な認知処理の傾向を把握できることです。
これにより、知能検査の目的である子どもの個性を活かす教育や指導につなげることができます。
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DN-CAS
5歳から17歳の子供のプランニング、注意、同時処理、継次処理の能力を評価するDN-CASは認知処理過程に重きを置いた知能検査です。
【DN-CASの尺度】
- プランニング:決められた目標を達成するためにプロセスや知識、意図性、自己統制をうまく利用する認知的な制御能力
- 注意:一定時間にわたって認知的活動を焦点化させ、選択するもの
- 同時処理:注意を向けた情報を同時に処理する認知活動の様式
- 継次処理:認知処理を行う対象を次の対象へ注意を向けかえる認知活動の様式
ビネー式知能検査
2歳から成人まで適用可能なビネー式知能検査は13歳までは精神年齢を測定することで知能指数を算出する知能検査です。
ビネー式知能検査は同一年齢の子供がどこまで課題を達成できるのかという基準を持って作られているため、知的発達の遅れを全体的に捉える際に最も活用されます。
なお、14歳以上の場合は精神年齢を算出せず、結晶性領域、流動性領域、記憶領域、論理推理領域という4つの領域からクライエントの知能の特徴を分析することができます。
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知能検査を受けられる場所
知能検査を受けられる場所としてはどのようなものがあるのでしょうか。
医療機関
知能検査は精神科や心療内科などの医療機関において、治療を行うための情報収集のために必要だと判断されれば知能検査を受けることができるでしょう。
しかし、医療機関ではあくまで治療に役立てるためのツールとして捉えられているため、いくら本人が知能検査を受けたいと思っても、医師が必要だと判断しなければ受検することは難しいでしょう。
心理相談室
大学の心理臨床センターなど病院とは異なったこころの問題を取り扱う専門機関でも治療検査を実施していることがあります。
臨床心理士や公認心理士など専門資格を持っているカウンセラーが検査を実施し、カウンセリングを通じて丁寧なフィードバックをもらえるという点が大きな特徴です。
児童相談所
都道府県に設置されている児童相談所は、虐待などの問題に加え、発達などの相談にも応じている機関です。
そして、公的機関のため、無料で検査を受けられるというメリットもありますが、相談数も多く、即座に検査を受けられるとは限りません。
また、知的障害かどうかを判断するためにビネー式知能検査を実施することが多く、その他の知能検査を希望したとしても、その希望が通るとは限らないでしょう。
発達障がい者支援センター
都道府県に設置される発達障がい者支援センターは精神科医により必要だと判断された場合、知能検査を無料で受けることのできる公的機関です。
しかし、児童相談所と同じく相談数増加により、検査の実施まで時間がかかってしまう可能性が高いことに注意しましょう。
知能検査について学べる本
知能検査について学べる本をまとめました。
初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
子どもの心理検査・知能検査 保護者と先生のための100%活用ブック
知能検査は優れたツールではありますが、それが何のために行われるのかをしっかりと把握しなければ、本来の目的を達成できません。
知能検査は子どもの利益はもちろんですが、保護者や先生など周囲の大人にとっても有益になるよう活用しなければなりません。
ぜひ、本書で知能検査を十分に活用するための方法を学びましょう。
子どもの心を診る医師のための発達検査・心理検査入門 改訂2版
子どもへの検査の実施は、成人とは異なり気を付けなければいけないポイントが存在します。
そして、困り感を抱えた子どもに対して実施することも多い知能検査もそのようなポイントを事前に抑えておく必要があるでしょう。
ぜひ本書で子どもに対し心理検査を実施するときに気を付けなければならないことを学びましょう。
子どもの得意分野を見つけること
子どもに対し知能検査を実施する場合、保護者などにも検査結果を伝えなければならないでしょう。
しかし、知的な能力の発達に遅れがある、偏りがあるなどの事実をそのまま伝えてしまうことは、保護者への支援というという観点から不十分でしょう。
そのため、保護者の子育てに関する困り感をきちんと捉えると共に、子どもの得意な部分、伸ばしていった方がいい部分などポジティブな面もフィードバックするようにしましょう。
【参考文献】
- 中村淳子・大川一郎(2003)『田中ビネー知能検査開発の歴史』立命館人間科学研究 (6), 93-111
- 鈴木朋子・鈴木聡志・安齋順子『ウェクスラー式知能検査本邦導入の背景 : 品川不二郎・孝子へのインタビューから』横浜国立大学教育人間科学部紀要. II, 人文科学 (18), 1-18
- 土肥裕貴『本邦における心理検査のフィードバックに関する展望と課題』日本福祉大学子ども発達学論集(14), 23-35
- 仁科いくみ・橋本創一(2015)『知能検査で測定される認知機能と発達障害児の特性に関する研究動向 : WISC, K-ABC, DN-CAS,田中ビネー,K式発達検査を用いた臨床研究について』東京学芸大学教育実践研究支援センター紀要 11, 27-35