長期記憶とは?意味や種類、脳部位との関連を具体例とともに解説

2021-06-23

長期記憶は、ほぼ永久的に覚えていられる記憶です。

今回は、宣言的記憶・非宣言的記憶(手続き記憶)といった長期記憶の種類やその意味を具体例でわかりやすく解説します。また、長期記憶と脳部位との関係、長期記憶の障害についても記載していきます。

最後に長期記憶について学べる本もご紹介しますので、さらに学びたい方は参考になさってください。

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保持時間に基づく記憶の分類:感覚記憶・短期記憶・長期記憶

記憶は、保持時間に基づいて、感覚記憶・短期記憶・長期記憶に分類されます。

環境から入力された情報は、まず認知的な処理を受けないままの形で感覚記憶として数秒間保持されます。そのうち注意が向けられた情報については短期記憶に送られます。

そして最終的に、短期記憶から長期記憶に転送された情報のみが、ほぼ永久に保持される事になります

この記事では長期記憶について解説していきます。

長期記憶とは?

まずはじめに、長期記憶の意味と具体例を見ていきましょう。

長期記憶の意味

リチャード・アトキンソンとリチャード・シフリンは、環境から入力された情報は、感覚レジスタを通して短期貯蔵庫に流れ、そこから長期貯蔵庫に送られるという情報多重貯蔵モデルを提唱しました。

これによると、短期貯蔵庫に保管されている記憶のうち、リハーサルによって長期貯蔵庫に転送された記憶が、長期記憶という事になります。

長期記憶の具体例

短期記憶は、保持時間も保持容量も共に限界があります。そのため、私たちが通常「記憶」と呼ぶものの大部分が長期記憶という事になります。

身近な所では自分や家族や親しい友達の名前がそうです。自分の名前を聞かれるたびに、思い出すのに苦労するという人はほとんどいないでしょう。

また、行き慣れた場所への道順も長期記憶です。最寄りの駅まで歩いてどの電車に乗ってどこで乗り換える、という情報は何度も繰り返すうちに記憶に定着しています。

さらに自転車に乗れる人、車を運転できる人にとって、自転車や車の運転技術も長期記憶です。運転前にいつも運転方法を復習するという事もなく、自然に運転ができるはずです。

このように、長期記憶は記憶していることを忘れているほど身近で、日々利用している記憶なのです。

長期記憶の種類と分類

長期記憶の種類は多岐に渡ります。その分類と内容を見て行きましょう。

長期記憶は、まず大きく2つに分ける事ができます。宣言的記憶非宣言的記憶(手続き的記憶)です。宣言的記憶は、言語によって記述できる記憶であるのに対して、非宣言的記憶は、言語による記述が難しい記憶です。

長期記憶の種類はそれぞれ、この宣言的記憶か非宣言的記憶のいずれかに分類されることになります。

今回は宣言的記憶であるエピソード記憶と意味記憶、非宣言的記憶である技能・習慣、プライミング、古典的条件づけについて見ていきましょう。

宣言的記憶:エピソード記憶と意味記憶

宣言的記憶は、言語によって記述できる記憶であるとご紹介しました。宣言的記憶はさらに、エピソード記憶と意味記憶の2つに分けることができます。

エピソード記憶

エピソード記憶は、いわゆる個人の「思い出」として記憶されているものです。

日記を書く時のように、「いつ、どこで、誰と、何をしたのか」という内容を明確にすることができます。

また、エピソード記憶は、符号化(記銘)、貯蔵(保持)、検索(想起)という3段階に分ける事ができます。

このうち、符号化の時と検索の時の感情が一致している場合の方が、一致していない場合に比べて記憶されやすいとされています(気分状態依存効果)。

このことは、楽しい気分の時に悲しかった思い出を思い出したり、逆に悲しい時に楽しかった思い出を思い出すのが難しい事を考えれば、納得が行くのではないでしょうか。

意味記憶

宣言的記憶のもう一つは意味記憶です。意味記憶は、いわゆる「知識」にあたるもので、個人の体験的な記憶を伴わない記憶です。

エピソード記憶が「覚えている」という感覚なのに対し、意味記憶は「知っている」という感覚として捉えられる事が多いと言えます。

例えば、1995年の阪神・淡路大震災については歴史として知っているだけであれば「意味記憶」になります。

けれども、2011年の東日本大震災については、実際に揺れを体験して「エピソード記憶」として記憶している人も少なくないのではないでしょうか。

非宣言的記憶:技能・習慣、プライミング、古典的条件づけなど

宣言的記憶に対して、非宣言的記憶は言語による記述が難しい記憶であるとご紹介しました。非宣言的記憶には、技能・習慣、プライミング、古典的条件づけなどがあります。それぞれについて見ていきましょう。

技能・習慣

技能・習慣は、非宣言的記憶(手続き的記憶)の1つです。

その名の通り、身についていて体で覚えている記憶がこれにあたります。

例えば車を日々運転している人にとっては、車の仕組みや運転の方法を細かく言葉で言い表す事は難しくても、実際に運転する事自体は容易でしょう。

また、朝起きて顔を洗って服を着替え、朝食を用意して食べるなど、習慣として身についていることも、一々言葉で説明しなくても自然に行動することができます。

プライミング

プライミングは、過去の経験がその後の認知や行動に促進的な影響を及ぼすことです。プライミングも非宣言的記憶に分類されます。

プライミングは潜在記憶ですので、過去の記憶が意識されずにその後の行動に影響を及ぼすことになります。

例えば、子供の頃に次のような遊びをしませんでしたか?「ピザって10回言って」「ピザピザピザ…。」「(肘を指して)これはなあんだ?」「ひざ!」

この遊びはプライミング遊びと言われ、繰り返し発音した記憶によって、その後の答えを誤った方向に誘導するものです。

古典的条件づけ

古典的条件づけも非宣言的記憶です。

古典的条件づけは、生得的に結びついた刺激と反応がある場合に、生得的には結びつかない刺激(中性刺激)を合わせて繰り返し提示していると、中性刺激だけでも反応が起こるようになることです。

例えば、梅干しを食べた経験がありその酸っぱさを記憶している人が、梅干しを見たり想像したりするだけで、唾液が出るような場合です。

長期記憶と脳部位

長期記憶がさまざまに分類される事を見てきましたが、一般的に記憶として身近なものは個人の思い出としてのエピソード記憶でしょう。

そこで、日本認知心理学会(2013)に基づき、エピソード記憶と脳部位との関係を見て行くことにします。

エピソード記憶と側頭葉内側面

側頭葉内側面領域にある海馬と海馬傍回は、エピソード記憶にとって最も重要な領域です。

海馬や海馬傍回は、文脈情報を含む記憶の詳しい情報を思い出す回想という過程に関与していると考えられています。

エピソード記憶と前頭前野

前頭前野も、エピソード記憶に関して重要な領域となっています。

エピソード記憶の符号化(記銘)において、前頭前野には、記憶項目の処理に関わる部分やそれぞれの項目を関連づけてまとめる処理に関わる部分があります。

また、エピソード記憶に想起において、前頭前野には、記憶の回想に関連する部分や熟知性に関連する部分があると考えられています。

エピソード記憶と頭頂葉

頭頂葉には、エピソード記憶の想起時に、ボトムアップな注意に関わる部分と、トップダウンな注意に関わる部分があるとされています。

そしてこれら2つの注意過程が同時に機能する事で、細やかなエピソード記憶の想起が行われてると考えられています。

エピソード記憶と扁桃体

扁桃体は情動の処理に関わる部分です。

エピソード記憶と情動との関連について、扁桃体と側頭葉との相互作用が重要だと考えられています。

長期記憶の障害

言語や注意機能などにはそれほど問題なく、記憶機能のみが障害されている場合を健忘症と言い、認知症と区別されます。健忘症は脳の損傷や精神疾患などによって生じます。

脳の損傷によって生じる健忘症を器質性健忘と言い、H.M.の事例が有名です。H.M.は1953年にてんかん発作の治療で海馬を含む両側の側頭葉内側部の切除術を受けました。

これにより、てんかん発作は改善し、知能や会話能力も正常でしたが、重度の健忘が見られました。この症例などから、海馬が新しい情報の記銘に関して重要な領域であるとされています。

また、脳に障害がなく見られる心因性健忘は、脳科学的にもまだ不明な点が多く残されています。

長期記憶について学べる本

長期記憶について学べる本をご紹介します。

初学者に優しく基本が理解できる「基礎から学ぶ認知心理学」

本書は、はじめて認知心理学を学ぶ大学生に向けて書かれています。

認知心理学はどのようなものなのか、長期記憶が認知心理学の中でどのように扱われているのか、基本的な事を学ぶことができます。

文章も読みやすく、図解やコラムなど、初心者が認知心理学を身近に感じられるような工夫がなされています。

長期記憶については、「Chapter4 覚える」の中に記載があります。

日本認知心理学会編集の認知心理学の到達点「認知心理学ハンドブック」

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認知心理学の全体像を、173項目にわたって各専門の著者が解説している本です。それぞれの項目は見開き2ページごとにまとめられています。

「現時点での認知心理学の到達点」と書かれているように、大学生から大学院生まで活用する事ができる内容です。

長期記憶については、「4−1 記憶の定義と分類」「4−3 エピソード記憶」「4−3 意味記憶」「4−7 宣言的知識と手続き的知識」などに記載されています。

長期記憶が自分自身?

私たちは、1日の始まりから、自分が誰であるかを知っています。思い出そうとしなくても、自分が誰なのか、今日何をするのかわかっているので、スムーズに行動する事ができます。

小さな頃からの思い出も、自分ができるようになった事も、全てが自分を作っているものです。例え思い出が真実と違っていても、その思い出を持っている自分が自分らしいと感じるのではないでしょうか。

また、いつもできるはずの事ができないと、なんだか自分らしくないと感じてしまうこともあるでしょう。

そう考えると、私たちは、長期記憶によって作られていると言えるのかもしれません。

参考文献

  • 日本認知心理学会(2013) 認知心理学ハンドブック 有斐閣
  • 行場次朗・箱田裕司(2014) 新・知性と感性の心理ー認知心理学最前線 福村出版株式会社
  • 越智啓太(2018) 意識的な行動の無意識的な理由 心理学ビジュアル百科 認知心理学編 創元社
  • 子安増生・二宮克美(2011) キーワードコレクション 認知心理学 新曜社
  • 服部雅史・小島治幸・北神慎司(2015) 基礎から学ぶ認知心理学ー人間の認識の不思議 有斐閣

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    • この記事を書いた人

    こころ

     臨床心理学・実験心理学等を学んだ後、心理カウンセラーとして勤務。現在はライターとして活動中。

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