系統的脱感作法とは?そのやり方や具体例をわかりやすく解説

2021-11-05

心理療法と言えば、カウンセリングのように治療者とクライエントが対話をすることでこころの問題を解決しようとするイメージがありますが、こころと密接なつながりのある身体へのアプローチを行うものもあります。

今回は系統的脱感作法を取り上げ、背景理論や暴露療法(エクスポージャー法)との違い、実際のやり方とその具体例をわかりやすくご紹介します。

このサイトは心理学の知識をより多くの人に伝え、
日常に役立てていただくことを目指して運営しています。

Twitterでは更新情報などをお伝えしていますので、ぜひフォローしてご覧ください。
→Twitterのフォローはこちら 

系統的脱感作法とは

系統的脱感作法とは、ウォルピ,Jが開発した行動療法です。

この技法の背景にある理論は古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)です。

系統的脱感作法の背景理論:古典的条件づけ

古典的条件づけとは、無条件刺激に対してもともと自然に起こる「無条件反応」と条件刺激との間に新たな結びつきを作る手続きのことを指します。

例えば、酸っぱい梅干しを見ると、自然と唾液が分泌されるでしょう。

この時、梅干しという視覚刺激は無条件刺激であり、唾液の分泌は無条件反応です。

そして、梅干しという視覚刺激と同時にベルの音を鳴らすともちろん唾液が分泌されるのですが、これを繰り返すことによって梅干しを見せなくてもベルの音を聞くだけで唾液が分泌されるようになります。

本来はベルの音という条件刺激を聞いても、唾液の分泌はありませんが、梅干しと対呈示することによってベルの音を聞くと唾液の分泌という反応との間に新たな結びつきができるのです。

消去の理論

このような古典的条件づけによって新たにできた条件刺激と反応の間の結びつきを弱めるもしくは消すことを消去と呼びます。

このためには、条件刺激の呈示のみを繰り返し行うことで出来ます。

上記の梅干しの例でいうのであれば、ベルの音と唾液の分泌という新たな結びつきが出来たとしても、それはあくまで一時的な学習効果であり、ベルの音がしても梅干しが出てこないということを新たに学習すれば唾液の分泌はなくなります。

系統的脱感作法を始めとする不安障害に対する行動療法の多くはこの考えに基づいて行われるのです。

系統的脱感作法における不安の位置付け

系統的脱感作法を含む行動療法では不安を誤って学習されたものとして捉えています。

例えば、高所恐怖症の人は、高いところへ行くことに強い不安を感じます。

子どもの頃に高い木の上から落ちて大けがをした人がいたとします。その人の高所恐怖症は子どもの頃の大けがの記憶が今も強く残っており、

  • 高いところから落ちること(無条件刺激)と、大けがをして痛みが走ること(無条件反応)との結びつき

に加えて、

  • 高いところに昇る(条件刺激)と、大けがをして痛みが走る(条件反応)

という誤った学習が成立してしまったために、高いところに昇るとケガすることを予期し、不安が生起するのです。

また、不安が喚起されると、心拍数・血圧の上昇などの生理的反応や主観的な苦痛という心理的反応に加え、不安を生む対象を避ける回避行動を導きます。

この回避行動により、誤った学習はさらに強化され、よりその不安を生む対象を恐れるようになる悪循環が生まれてしまうのです。

系統的脱感作法のやり方と具体例

不安という誤った学習を消去するためには、実際に不安を生む対象に晒されても、恐れている事態が起こらないということを新たに学習する必要があります。

このような、不安対象への暴露を含む行動療法を暴露療法(エクスポージャー法)と呼びますが、これにリラクセーション法を組み合わせたのが系統的脱感作法です。

具体的には次のステップを踏みながら行われます。

アセスメントと事前説明、目標設定

系統的脱感作法は不安の元となる刺激に近づく心理療法であるため、クライエントに大きな負担がかかる恐れがあります。

そのため、他の治療法ではだめなのかを熟慮するためにもクライエントの抱える症状のアセスメントが欠かせません。

また、系統的脱感作法がなぜ必要なのか、どのようなことを行うのかをクライエントにしっかりと説明し、治療終了後にどのような状態になっていることを目標とするのかをクライエントとの合意を得てから治療を開始します。

不安階層表の作成

不安階層表とは、不安を引き起こす対象に関する刺激を不安の程度の低いものから高いものを順に並べた表のことです。

多くの場合、全く不安を感じない(もしくはほとんど不安を感じないもの)を0点として、最も不安を感じるものを100点として10段階程度で表を作っていきます。

このような、主観的な不安の程度をSUDs(主観的障害単位)と言います。

不安階層表の例としては次のようなものが挙げられます。

【不安階層表の例(高所恐怖症)】

100点飛行機に乗る
90点スカイツリーの展望台へ行く
80点観覧車に乗る
70点高層ビルの40階から下を見る
60点高層ビルの20階から下を見る
50点デパートのエレベーターの窓から下を見る
40点マンションの最上階から下を見る
30点高い光景の映像を見る
20点高い場所にいるイメージをしてみる
10点歩道橋から下を見る
0点マンションの2階から下を見る

リラクセーションの練習

いきなり不安を引き起こす刺激に晒しても、リラクセーション法を実施できるとは限りません。

クライエントの安全のためにもリラクセーション法をクライエントが実施できるよう事前に練習をします。

リラクセーション法として用いられることが多いのが、漸進的筋弛緩法と呼ばれる技法です。この技法は、筋肉に力を込める、力を抜くを繰り返すことにより、緊張をほぐし、リラックス状態を導くというものです。

参考:系統的脱感作法と拮抗条件づけ

系統的脱感作法の大きな特徴となっているのが、リラクセーションと不安への暴露を組み合わせることですが、これは拮抗条件づけという考えに基づいています。

拮抗条件づけとは、不安や恐怖などの興奮状態と対極にある反応を同時に引き起こすことが出来れば、不安反応は相殺され、感じられなくなるという理論です。

そのため、不安を引き起こす対象に晒されながらも、リラクセーション法を実施し、そのSUDsと同等のリラックス感、安心感を引き起こすことで不安反応を打消し、刺激に対する学習された不安を消去しようとするのです。

系統的脱感作の実施

ここまでの手続きが済んだら、いよいよ系統的脱感作へと進みます。

まずは、筋弛緩法などのリラクセーション法を実施し、クライエントがリラックスした状態を作り出します。

続いて、作成した不安階層表の一番下の刺激をイメージ、もしくは刺激へ暴露します。

この時の主観的な不安感について尋ねます。

不安を感じなければ次の段階(不安階層表の1つ上の段階)に進むことが出来ますが、そうでない場合はその場で感じるSUDsを確認し、リラクセーション法を再度実施します。

こうすることでSUDsが0になるまで繰り返し、不安階層表の一番上の項目に対するSUDsが0になるまで上記の手続きを繰り返します。

系統的脱感作法の限界

系統的脱感作法はその手続きにもあるように、特定の対象・状況に対する不安や対し、その度合いによって不安階層表を作り、段階的に慣れていくという流れで行われます。

そのため、全般性不安障害やパニック障害に対しては十分な治療効果が得られないケースがあるようです。

冨家ら(1999)の報告によれば、広場恐怖を伴う恐慌性障害(パニック障害)の男性に対し、抗不安薬の投薬と系統的脱感作法を実施したところ、特定の不安場面の想起と不安発作の連合が消失したものの、心配性の一面が残り、心配傾向をターゲットとした認知的技法の取り入れの必要性を示唆しています。

このように、不安のターゲットが特定のものに限られない場合は、系統的脱感作法が適さないケースもあるため、事前のアセスメントの重要性を改めて見直すことが求められます。

系統的脱感作法を学べる本

系統的脱感作法について学べる本をまとめました。

逆制止による心理療法

created by Rinker
¥16,810 (2024/11/21 08:33:19時点 Amazon調べ-詳細)

系統的脱感作法を開発したウォルピの翻訳本です。

この技法が開発される前には、実験神経症と呼ばれる動物実験で見られた現象に餌を与えることからスタートしています。

このようなウォルピが系統的脱感作法を開発する背景から学びを深めることで、実際の技法でどのようなことを行っているのかを体系的に理解できるでしょう。

登校拒否 2 (行動療法ケース研究 9)

created by Rinker
¥3,300 (2024/11/21 12:44:20時点 Amazon調べ-詳細)

ケース研究を読むことは実際に心理療法を行う前に非常に有意義なものです。

この本は行動療法による社会不適応を改善したケースがいくつもまとめてあり、その中に傾倒的脱感作法によるアプローチを採用したものもあります。

なぜ、その技法を採用したのか、実際の系統的脱感作法はどのような流れで行われたのかを知っておくとより学びが深まるでしょう。

系統的脱感作法の有効性と限界を考えてからの適用を

系統的脱感作法を始めとする行動療法には、メリットとデメリットがあります。

特にエクスポージャーや系統的脱感作法は不安に苦しむクライエントに対し、不安を喚起する刺激を与えて慣れさせるという手続きを取るため、クライエントの負担をよく考え、必要に応じて実施しなければなりません。

そのためにも事前のアセスメントが重要であるため、精神医学の知識やクライエントの全体像をつかむことが求められてくるのです。

参考文献

  • 二瓶正登・田中恒彦・澤幸祐(2019)『不安と関連する障害における古典的条件づけの役割と意義―古典的条件づけの諸現象と連合学習理論の臨床的応用―』不安症研究 11(1), 13-23
  • 遠座奈々子・中島定彦(2018)『不安障害に対するエクスポージャー法と系統的脱感作法―基礎研究と臨床実践の交流再開に向けて―』基礎心理学研究 36(2), 243-252
  • 富家直明・青山宏・平泉武志・菊池史子・田口文人・熊野宏昭・山内祐一(1999)『5.恐慌性障害に対する行動療法 : 系統的脱感作法の効用と限界(第43回 日本心身医学会東北地方会 演題抄録)』心身医学 39(5), 39

こちらもおすすめ

    • この記事を書いた人

    t8201f

    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

    -心理療法

    © 2020-2021 Psycho Psycho