「タイプA行動パターン」とは、常に時間的切迫感を持っている、競争心が強く攻撃的で怒りの感情を持ちやすい、常に行動していないとイライラする、寛容でない、野心的で高い地位を目指している等といった性格特性を言います。
心理の専門家であればよく耳にする言葉ですが、日常生活では耳慣れない言葉であるかもしれません。
しかし、タイプA行動パターンという性格特性を持つ人は冠状動脈疾患や虚血性心疾患等のリスクが高い等、病気との関連も示される性格特性であるため、心理学を専門とする方のみならず、一般の読者の方にも、この機会にぜひ知っておいて欲しい心理学用語です。
目次
タイプA行動パターンの概要
タイプA行動パターンは1959年にフリードマン(Friedmann,M.)とローゼンマン(Rosemman,R.H.)によって発見された性格特性であり、冠状動脈疾患との関連性が指摘されています。
タイプA行動パターンを示す性格特性は、フリードマン、ローゼンマンによって以下の通りに定義されています。
- 自分が定めた目標を達成しようと持続的な強い推進力を持っている。
- 競争を好み追求する傾向がある。
- 永続的な功名心を持っている。
- 時間に追われながら多方面にわたる活動を行っている。
- 身体的・精神的活動速度を常に速くしようとする習癖がある。
- 身体的・精神的な著しい過敏性を持っている。
タイプA行動パターンに関する研究の歴史
タイプA行動パターンは前述の通り、フリードマンとローゼンマンが冠状動脈性疾患を扱った研究に端を発します。
1970年代の研究
1975年、Western Collaborative Group Study(WCGS ) と呼 ば れ る 研 究 で 、カルフォルニア州在住の3,154名の男性に対し、8年間に渡る追従調査が行われました。
結果、年間1,000人当たりの虚血性心疾患発症率は、タイプA行動パターンを示すもののうち、13.2人であり、対照的な性格特性であるタイプB行動パターンを示す人が5.9人であることから、タイプA行動パターンは約2倍虚血性心疾患のリスクが高いことが示されました。
さらに、サルズ(Suls J)、ガストロフ(Gastorf, JW )、ウィッテンバーグ(Witenberg, SH)が1979年に行った研究により、タイプA行動パターンを持つ者は、心臓病のリスクが高まるだけでなく、日常生活においてイライラしやすく、ストレスを抱えやすいことが分かりました。
1980年代から近年の研究への推移
しかし、ウィリアムら(Williams RB, et al.)が1980年に行った研究では、タイプA行動パターンの「高い攻撃性を持っている」という敵意因子が虚血性心疾患の危険要素として限定的に関連しているとしました。
さらに、高倉実が1993年に行った研究から、タイプA行動パターンの持つ、高い熱中性は疲労感の抑制に関連していると示しています。
これらの指摘から、1990年代中盤以降はタイプA行動パターンを包括的な性格特性として定義するのではなく、タイプA行動パターンの構成要素に着目した研究が注目を集めるようになりました。
タイプA行動パターンと関連する性格特性
冠状動脈疾患と関連するタイプA行動パターンについてこれまで説明してきましたが、他にも類似する性格特性として「タイプB行動パターン」と「タイプC行動パターン」が発見されています。
さらに、「アレキシサイミア」という概念もタイプA行動パターンと関連していると言われていますので、この機会にまとめて覚えておきましょう。
タイプB行動パターン
タイプB行動パターンは、タイプA行動パターンとは対照的な性格特性であり、「普段からリラックスしている」「神経質ではなく」「寛容的である」「ゆったりとしている」といった特徴を持っています。
こうした性格特性を持っている人は、タイプA行動パターンを示す人に比べて、ストレスを感じずらく、身体的にも健康であると示されています(例えば、Eagleston JR,Kirmil−Gray K ,Thoresen CE., et al. 1986)。
タイプC行動パターン
タイプC行動パターンは、怒りや苛立ち、不安や心配といった感情を抑制し、理性的または合理的な行動をするといった特徴を持つ性格傾向です。こうした性格特性を持つ人は、がんの発症率が高いと言われています。
アレキシサイミア
さらに、1972年、シフネオス(Sifneos,P.E.)がアレキシサイミア(Alexisthymia)という概念を提唱しています。アレキシサイミアという言葉はギリシア語に由来し、a=luck(欠如), lexis=word(言葉), thymos=emotion(感情)という意味で、日本語では「失感情症」という言葉が当てられています。
アレキシサイミアを持つ人は自身の感情を言葉で表現することが苦手であり、内的空想よりも行動を好み、特異な思考を師、現実的・具体的な事柄ばかりを語るといった特徴を持っています。
成田善弘(1992)によれば、アレキシサイミアとタイプA行動パターンとは、内的感情や空想よりも行動を好むという点で共通していると述べています。
今回の記事のまとめと参考文献
最後にタイプA行動パターンについてまとめます。
- タイプA行動パターンは1959年にフリードマンとローゼンマンによって提唱された性格特性の一つである。
- タイプA行動パターンは虚血性心疾患のリスク要因とされている。
- 高い競争心や時間的切迫感、心身の過敏性がタイプA行動パターンの特徴である。
- 近年はタイプA行動パターンの構成要素に着目した研究が注目されている。
- タイプA行動パターンと関連する性格特性として「タイプB行動パターン」「タイプC行動パターン」「アレキシサイミア」がある。
これまでタイプA行動パターンの否定的側面についてのみ記載してきました。しかしながら、大芦治が2004年に中学生を対象に行った調査では、タイプA行動パターンを持つ人は、勉強時間が長く、受験でも早くに達成的努力を行うと言った肯定的な面も示されています。
これまで説明してきた通り、タイプA行動パターンの構成要素である「高い競争心」や「心身の過敏性」は虚血性心疾患リスクとなるなど否定的側面もありますが、タイプA行動パターンが持つ肯定的側面についての研究が今後期待されるでしょう。
参考文献
- 大芦治 (2004). タイプA行動パターンと学習動機付け、勉強時間との関係. パーソナリティ研究. 第13巻. 第1号. 58-66.
- 高倉実 (1995). 大学生のストレス過程に及ぼすタイプA行動パターンの影響. 心身医学. 35巻. 5号. p.399-406.
- 高倉 実 (1993). 大学生のタイプ A 行動パターンと疲労感,生活様式に関する研究. 学校保健研究. 日本学校保健学会. (1993) vol.35, no.10, p.484-491.
- Friedman,M.D. & Rosenman,M.D. (1959). Association of specific overt behavior pattern with blood and cardiovascular finding: Blood cholestrol level, blood clotting time, incidence of arcus senilis, and clinical coronary artery disease.