仕事や勉強、人間関係など、様々な場面でストレスを感じることが多いと思います。生活する上でストレスは完全には避けられないものですが、ストレスを溜めすぎると心身の調子を崩してしまいます。
そのため、ストレスに上手く対処すること、つまりストレスマネジメントが重要であり、その一つがストレスによって緊張した心身を緩める「リラクセーション法」です。ここでは、リラクセーション法とは何か、リラクセーション法の効果や注意点、呼吸法や自律訓練法など主な種類について解説します。
目次
リラクセーション法とは
まずは、リラクセーションとは何か、意味や定義を整理していきます。
リラクセーション法の意味・定義
リラクセーションとは、緩和、弛緩、くつろぎ、息抜きなどの意味を持つ言葉であり、これらをまとめると「心身の緊張を緩めること」と解釈されます。
医学的にリラックスした状態とは、自律神経の「副交感神経」の働きが優位になっている状態を指します。自律神経とは、内臓や筋肉、血管など体内の活動を調整する神経であり、「交感神経」と「副交感神経」の2つが必要に応じて切り替わることで、体内のバランスを調整しています。
交感神経が優位になると、血圧や心拍数が上昇し、緊張や興奮が促されます。日中の活動を遂行する上では必要なことですが、この状態が持続すると心身が疲弊してしまうため、副交感神経を活性化させることで、心身を休めることも重要です。
一方、副交感神経が優位になると、血圧や心拍数は下降し、心身の緊張が少ない状態に入ります。この状態を目指して、呼吸を整えたり、筋肉を緩めたりする意識的な働き掛けがリラクセーション法です。
リラクセーション法の種類
リラクセーション法には様々な種類があります。ここでは、主なリラクセーション法として挙げられる「呼吸法」「自律訓練法」「漸進的筋弛緩法」「バイオフィードバック法」について解説します。
呼吸法
呼吸は人間の基本的な営みであり、日々無意識に繰り返しているものですが、呼吸にも「胸式呼吸」と「腹式呼吸」の2種類があります。このうち「腹式呼吸」が心身をリラックスさせる効果があり、腹式呼吸を意識的に行うことがリラクセーションにおける呼吸法となります。
腹式呼吸を行うと横隔膜が上下に動きます。横隔膜には自律神経が集中している部分であり、腹式呼吸を行うことによって自律神経が刺激されます。特に、息を吐く際に、副交感神経が働くとされており、ゆっくりと長く息を吐くことで副交感神経が優位となり、リラックス状態を作り出します。
方法の一例として「①3秒かけて鼻から息を吸い込み、②2秒息を止めた後、③6秒かけてゆっくりと息を吐く」ことを繰り返します。
実施の際には、腹部に手を当てて横隔膜の動きを感じることも良いとされています。ポイントは吐く息に意識を置くことで、吸う時間の2倍程度の時間を掛けて吐き切ることが大切です。
腹式呼吸は、どのような場面においても実践しやすく、誰でも比較的手軽にできるため、日常生活にも取り入れやすいリラクセーション法であると言われています。
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自律訓練法
自律訓練法とは、シュルツにより開発されたリラクセーション法です。「公式」と呼ばれる身体の状態を感じる言葉を唱えながら、自己暗示を掛けていき、身体の変化を感じることで、リラックス状態を作り出す方法です。
公式は以下に示す7段階あり、まずは背景公式で気持ちを落ち着けてから、順次身体の変化を感じていくといった流れとなります。
そして、訓練中は覚醒水準が下がってぼんやりとするため、最後に消去運動(背筋を伸ばして伸びをする、両手を握って開いたりする等)をして、心身を元の状態に戻して締めくくります。
背景公式 「気持ちが落ち着いている」
第1公式 「両手両足が重たい」
第2公式 「両手両足が温かい」
第3公式 「心臓が規則正しく打っている」
第4公式 「楽に息をしている」
第5公式 「お腹が温かい」
第6公式 「額が気持ちよく涼しい」
このような身体変化の感覚を掴むまでは、ある程度の期間の練習を要すると言われています。
注意点として、第3公式以降は、意識を集中させる部位に不調があると悪化する場合が懸念されることなどから、専門家による指導の下で取り組むことが望ましいとされています。なお、第1公式、第2公式は自身で取り組むことができ、第2公式までの実施でも効果が見込まれます。
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漸進的筋弛緩法
漸進的(ぜんしんてき)筋弛緩法とは、ジェイコブソンにより開発されたリラクセーション法です。
方法は、各部位の筋肉に力を入れて緊張させた後(10秒程度)に、力を抜いて弛緩する(15~20秒程度)といった基本動作を、顔や首、肩など各部位ごとに順次行っていきます。
リラックスした状態とは、筋肉を緩んでいる状態を指していると説明しました。漸進的筋弛緩法では、筋肉を緊張させてから筋肉を緩めるといった、筋肉の緊張と弛緩を繰り返すことで、筋肉の緩みを体感しやすくなり、リラックスした状態に導くことが期待されています。
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バイオフィードバック法
バイオフィードバック法とは、身体反応(心拍数、血圧、脳波等)を測定し、知覚できる情報(数値やデータ)として確認することで、身体反応をコントロールする方法を身に付ける方法です。
リラクセーション法の意味や定義にて、副交感神経を優位にすることでリラックスした状態を作り出すと説明しましたが、自律神経の働きを確認することは難しいものです。この認識しにくい身体反応を自身で確認できる形にすることがバイオフィードバック法の特徴です。
バイオフィードバック法を用い、リラックスした状態を客観的なデータとして確認することによって、リラックスした状態を作り出すための手掛かりが得られ、意識的にリラックスした状態を作り出すことに繋がることが期待されています。
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リラクセーション法の効果
リラクセーション法は、リラックス状態を作り出すことで、ストレス反応を緩和する方法であり、緊張や不安、抑うつなどの心理面、不眠やなどの身体面におけるストレス反応を和らげる効果があると言われています。
不安症状やうつ症状などに対しての心理療法として用いられるなど治療やケアに活用されているほか、日常生活下においても、心身の健康の維持・増進、パフォーマンス向上にも役立てられるなど、幅広く活用されています。
リラクセーション法の注意点
リラクセーション法の効果は示したとおりですが、身体・精神症状が強い場合などは心身に悪影響を及ぼす可能性があるため、実施しないとされています。自律訓練法において、意識を集中させる部位に不調があると、その部位の公式を唱えることで症状が悪化する可能性が懸念されることが一例です。
そのため、何らかの疾患がある場合、あるいは心配される場合は、事前に医師に相談の上、実施することが望ましいとされています。
実施上の注意点
次に、リラクセーション法を実施する上での注意点を記載します。
実施(特に練習段階)に当たっては、なるべく静かな場所で、身体を締め付けない服装(ベルトや時計を外す)で行うなど、落ち着いた状態で取り組むことが望ましいとされています。
終了時に消去運動を行うことも重要です。消去運動を行わないと、覚醒水準が低下したぼんやりとした状態のままとなり、だるさが生じるなど、その後の活動に支障が出る場合があります。消去運動では、背筋を伸ばしたり、両手を握って開いたりするなど簡単なストレッチを行うなどします。
そのほか、リラクゼーション法の方法を理解しても、実際に習得するためには継続的な練習が大切であることも留意しておく必要があります。
リラクセーション法について学べる本
最後に、リラクセーション法について詳しく学ぶ上で参考になる書籍を紹介します。
呼吸法や自律訓練法、漸進性弛緩法などの主なリラクセーション法の解説がまとめられているほか、活用例についても紹介されています。
タイトルのように、学校場面での活用を想定している書籍ではありますが、声掛けの方法などの実施方法の紹介などは、他領域でも参考にできる内容となっています。
リラクセーションの背景から、呼吸法や自律訓練法、漸進性弛緩法などの主なリラクセーション法に関する理論が押さえられており、リラクセーション法とは何かということを学ぶ上で参考になる書籍です。勿論、実施手順や留意点などの解説もあり、実践においても参考になります。
リラクセーション法に特化した書籍ではありませんが、リラクセーション法を含むストレスマネジメント全体に関して、具体的で分かりやすくまとめられています。
自分に合ったリラクセーション法を身に付けて、リラックスした状態を意識的に作ることが大切です
私達は、日々多くの時間でストレスや緊張に曝されているため、緊張を緩めてリラックスできる時間を意識的に確保しておくことが必要です。そうした観点から、日々の生活の中にリラクセーション法を取り入れることが有効であると考えられます。
ここでは「呼吸法」、「自律訓練法」、「筋弛緩法」、「バイオフィードバック法」を紹介しましたが、他にも音楽やアロマなど、リラックス状態を作り出す方法としては様々な存在します。大切なのは、自分に合うリラクセーション法を得て、落ち着くと感じる時間を意識的に持つことです。
リラクセーション法は、訓練して習得することができれば、場所や時間を選ばず、一人でも取り組むことができる方法であることも利点です。様々なリラクセーション法を試してみて、自分に合う方法を日常生活に取り入れてみて下さい。
参考文献
藤原忠雄 著(2006)『学校で使える5つのリラクセーション技法』ほんの森出版
島悟・佐藤恵美 著(2007)『ストレスマネジメント入門』日経文庫
高山恵子・平田信也 著(2014)『実践ストレスマネジメントの心理学』サンクチュアリ出版
厚生労働省「統合医療」情報発信サイト 「健康のためのリラクゼーション法」(2021年6月28日参照)