心理学には様々な学派が存在します。その中でも人間性心理学と呼ばれる学派の有名な学者の一人にアブラハム・マズローが挙げられます。
それでは、マズローとはいったいどのような人物なのでしょうか。彼の経歴や主要な業績である欲求階層説を解説していきます。
目次
アブラハム・マズローとは
アブラハム・マズローとは20世紀にアメリカで活躍した心理学者です。
マズローやロジャーズ、シェンドリンなど名だたる心理学者たちは、それまで精神分析や行動心理学が人間を受動的な存在として捉えることに異を唱え、個人の自由意志や人格を尊重した人間性心理学を提唱しました。
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マズローの経歴
アブラハム・マズローは1908年にロシアからのユダヤ人移民の家庭にニューヨークで生まれました。
幼少期
幼い頃のマズローは母親から非常に厳しい躾を受けており、その苦い思い出は生涯忘れられることはなかったと言われています。
このように、母親から十分に愛されているという感覚を持てなかったことは、マズローの愛や友情、親切などといった思想、哲学間の根底となっていました。
幼少期は本を多く読み、当時のアメリカ大衆社会に疑問を抱いていた彼は社会主義思想に傾倒します。
心理学との出会い
そうして哲学に関心を持ったマズローはさらに知識を深めるためにウィスコンシン大学へ入ることで、心理学との出会いを果たします。
1928年にウィスコンシン大学へ転学したマズローはアメリカの心理学の権威であるワトソン,J.B.の論文と出会います。
ワトソンは行動主義と呼ばれる心理学派であり、科学としての心理学の客観性と再現性を追求した学者であり、マズローは心理学の可能性に惹かれ、実験主義・行動主義的な心理学研究に没頭します。
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しかし、1929年の大学卒業時は世界恐慌による影響を受け、職に就くことができませんでした。
そのため、マズローはコロンビア大学で有名なソーンダイクという学者と出会います。
当時の心理学は遺伝と環境のどちらが人間のこころに影響を与えるのかということに大きな注目が集まっており、ソーンダイクと考えが合わなかったため、自身が興味を持っていた人間の動機や欲求についての探求を始めます。
そして、行動主義の条件づけによってその人らしさを思い通りに形成することができるという考えに疑問を持ち、1938年に欲求の階層構造に関する理論を提唱したのです。
マズローの欲求階層説とは
マズローが提唱した理論の中で最も有名なのが欲求階層説です。
マズローは人間の欲求を次の5つに分類し、それらは階層構造を成しているという理論を提唱しました。これらの欲求は生理的欲求から自己実現の欲求までピラミッド状の階層構造を成しています。
基本的には低次の欲求が部分的にでも満たされると次の段階の欲求が生じるとされています。
そして、第一段階の生理的欲求から第四段階の承認と自尊心の欲求までを欠乏欲求と呼び、これらが満たされることで自己実現欲求が生じると考えられているのです。
【マズローの5大欲求】
- 生理的欲求
- 安全と安定の欲求
- 所属と愛情の欲求
- 承認と自尊心の欲求
- 自己実現の欲求
生理的欲求
欲求階層説で紹介されている5つの欲求のうち、一番低次にあるものが生理的欲求です。
生理的欲求とは、食事や睡眠など生命活動を維持するための活動の原動力となる欲求です。
生理的欲求はあらゆる欲求の中で最も優勢なものであり、極端なまでに生活のあらゆるものを失った人間では、生理的欲求が他のどの欲求よりも優先されます。
例えば、何もない砂漠で何日も飲まず食わずで過ごさなければならない場合、友達を作りたいだとか立派な家に住みたいなどの欲求は生じず、まずは生きるために水や食料を確保することのみを考えるようになるでしょう。
しかし、現代の日本のような文明社会では生理的欲求しか見られない状況は一般的ではありません。
安全と安定の欲求
二段階目の安全欲求とは「安全を追求し、不安や混乱からの自由や法・秩序を求める欲求」のことです。
生理的欲求が満たされると、その場での生命維持に関する問題は解消されますが、これから先も継続して生命の危険に冒されないかということが重要になってきます。
そのため、危険を回避し、安定した生活を送っていけるような暮らしを求めていくのです。
所属と愛情の欲求
人間は社会的な動物であり、人とのかかわりを求める欲求が備わっています。
これまでの生理的欲求、安全と安定の欲求はあくまで自分を対象とした欲求でした。しかし、安全が保障されることで私たちはより生活を豊かにすることに注目するようになります。
そして、生活を豊かにするために必要なものが人間関係です。
所属と愛情の欲求は何らかの集団に属し、仲間や愛情を求める欲求を意味します。私たちは社会の中でより良い生活を送るためには、多くの人と協力することが必要です。何らかの集団に所属し、メンバーから愛される環境を求めるようになるのです。
承認と自尊心の欲求
集団に所属し、所属と愛情の欲求が満たされると、今度はメンバーの中でも認められたい、人気者になりたいという承認と自尊心の欲求が生じます。
この欲求を充足することで自信が芽生えたり、世の中で必要とされているという感覚がもたらされるのです。
逆にこれが満たされないと劣等感や無力感などの感情が生じるとされています。
自己実現の欲求
生理的欲求から承認と自尊心の欲求までが満たされたとしても、人間は欲求不満に陥らないとは限りません。
衣食住が保証され、所属する集団から尊敬を得られるようになると、次は理想とする自分、理想的な人生を送るためにはどうすれば良いのかを考え、求めようとするのです。
このような欲求が自己実現の欲求です。
自己実現の欲求は5大欲求の最上位に位置し、他の欠乏欲求と分けて存在欲求とも呼ばれることがあります。
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今回は、マズローの欲求階 ...
マズローの自己実現論
厳しい躾を受け、十分に愛されなかったと感じていたマズローが考えた最も豊かな暮らし、つまり最終的に満たすべき欲求は自己実現でした。
マズローの考える自己実現は、自らの可能性を実現して、自分の人生の使命を達成し、人格内に一致・統合された状態です。
そして、自己実現欲求を満たした自己実現者は次のような特徴があると指摘しました。
【自己実現者の特徴】
- 現実をより有効に知覚し、それとより快適な関係を保つこと
- 受容-あるがままを受け入れる態度
- 自発性、単純さ、自然さ
- 課題中心的
- 超越性-プライバシーの欲求
- 自律性-文化や環境からの独立、意志、能動的人間
- 認識が絶えず新鮮であること
- 神秘的経験-至高体験
- 共同体感覚
- こころの広い、深い対人関係
- 民主的性格構造
- 手段と目的の区別、善悪の区別
- 哲学的で悪意のないユーモア
- 創造性
- 分化に組み込まれることに対する抵抗、文化の超越
自己実現の欲求は人生の使命を全うした人であるため、完全にこの欲求を達成できる人はごくわずかです。
しかし、マズローはこの自己実現の欲求が達成されるのかどうかよりも、この欲求に基づいて自己実現を追求しようとする姿勢の有無こそが重要だと主張しました。
マズローが提唱した理想的な社会:ユーサイキアとは
自己実現者は求められる最上位の欲求を満たした、いわゆる個人が幸せな状態を指しています。
そして、そのような人物が大多数を占める、世の中が自己実現者ばかりで、その際に成立するであろう理想の分化や社会のことをユーサイキアと呼びました。
ユーサイキアとシナジー
この考えはルース・ベネディクトによるシナジーという概念を基にしているとされています。シナジーとは原始的文化の健康度を示す用語です。
ローシナジーの文化では、利害が相反するため人々は衝突する社会となりますが、ハイ・シナジーの文化では相互の利益がさらに増すような行為が行われる好循環型社会となると言われています。
ユーサイキアと自己実現者
マズローは、自己実現者について非常に献身的な人であり、自己の外部の何らかの仕事、職業、業務、あるいは愛すべき職務に身をささげているこころ豊かな人物であると指摘しています。
そのため、自己実現者がほとんどのユーサイキアでは、利己的に目的を追求することが必然的に他者を助けることに繋がり、利他的に他者を助けようとする行動が必然的に自己に利益をもたらすのです。
このような利己主義と利他主義という分け方が撤廃され、個人と他者が共存していく理想的な社会を目指すべきだと考えたのです。
マズローについて学べる本
マズローについて学べる本をまとめました。
初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみて下さい。
マズロー100の言葉―名言から読み解く人間性心理学
マズローの人柄、思想に迫るためにおすすめの一冊です。
マズローによる100の名言から彼が理想とした人間性心理学とはどのようなものなのかを学ぶことができます。
これからマズローについて学びたい方はぜひ手に取ってみてください。
マズロー心理学と欲求階層~自分の本音を思い出す~
マズローの欲求階層に関する理論は非常に有名であり、その用語を知っている人も少なくありません。
多くの心理学の入門書でも、それぞれの欲求がどのような意味を持っているのかについて紹介されていますが、もう一歩踏み込んだ「マズロー心理学をどのように日常で活かしていけるのか」について知っている人はそう多くはないかもしれません。
せっかくマズローについて興味を持ったのであれば、ぜひ本書を通じて幸せに生きるためにマズロー心理学をどう読み解いていくべきなのかを学びましょう。
自己実現を目指すことの重要性
マズローの提唱した欲求階層説によれば、幸せになるために最終的に満たすべき欲求は自己実現の欲求だとされています。
現実的には寝食を忘れ没頭し、幸せを感じることのできる自分の使命、仕事を見つけられる人はそう多くないでしょう。しかし、マズローはその自己実現欲求を充足できるかどうかよりも、自己実現に向けて動きだす姿勢こそが重要であると考えたのです。
現状の生活に大きな不満が無い方は、他の4つの欠乏欲求は満たされているのかもしれません。
それでも、何か満たされない思いが残る方はぜひ自分が自己実現を成し遂げるためにはどうしたらよいのかをマズローの理論から学びましょう。
【参考文献】
- 山本淳平(2017)『コーチング支援に関する一考察』支援対話研究 4 (0), 89-98
- 小高良友(2010)『マズローの欲求階層説と臨床社会学』東海学院大学紀要 (4), 53-59
- 高橋勇一(2022)『人間性心理学の源流に関する一考察』武蔵丘短期大学紀要29 7-12