今回は、心理学者のピアジェ(Piaget)が提唱した認知的発達段階のひとつである「感覚運動期」について解説します。
感覚運動期は認知=感覚の時期であり、見たり触ったりした結果生じる感覚を通じて、自分以外の人や物を認識していく段階と言えます。
感覚運動期とは何か、感覚運動期の6段階を整理するとともに、感覚運動期の特徴である循環反応や対象物の永続性について例を挙げながらまとめていきます。
目次
感覚運動期とは
感覚運動期とは、ピアジェ(Piaget)の認知的発達理論の段階のひとつです。ピアジェによれは、子どもの認知機能は「感覚運動期」「前操作期」「具体的操作期」「形式的操作期」の4段階を経て発達すると考えています。
感覚運動期は0~2歳頃の発達の第1段階目を指します。感覚運動期は、まだ言葉が使えないため、触る・吸う・なめる・叩く・見るなどの手段であらゆる感覚を得て物事を認知します。
感覚運動期の特徴としては、繰り返しの行動を指す「循環反応」が見られることや「対象物の永続性」(目の前に物が無くても「ある」ことが分かる)を獲得することが挙げられます。
【参考】ピアジェの認知的発達段階理論
①感覚運動期(0~2歳頃):刺激に対して反射的に身体が動き、見たり触ったりした結果生じる感覚を通じて、自分以外の人や物を認識していきます。
②前操作期(2~7歳頃):イメージ(象徴)が使えるようになり、ごっこ遊びをするようになります。自分の心の中の出来事と外界の事実とを区別出来ない「自己中心性」が見られる点が特徴です。
③具体的操作期(7~12歳頃):自己中心性から脱却し、具体的な内容であれば、客観的な思考が可能になります。そして、見た目が変わっても、重さや数が変化しない概念である「保存の概念」が成立します。
④形式的操作期(13歳~):記号や負の数が使えるようになり、抽象的な概念も論理的な思考ができるようになります。
※ピアジェの発達理論については、こちらの記事も併せて参照してください。
感覚運動期の6段階
なお、感覚運動期はさらに以下の6段階に分類されています。
第1段階(0~1か月)
原始反射(外界の刺激に対応していけるように生まれつき備わっている新生児期のみに見られる反射運動)を使って環境に適応していく段階です。
原始反射には吸啜反射(指などで赤ちゃんの口に触れると吸い付こうとする反応)モロー反射(上体を少し起こした状態で頭の支えを急に外すと、両手を広げた直後に何かにしがみつこうとする反応)把握反射(手のひらに物が触れると強く握りしめる反応)などが挙げられます。
第2段階(1か月~4か月)
見る・掴む・吸うなど単純な動作ができるようになり、同じことを繰り返す「循環反応」が見られるようになります。
この段階における循環反応は、指を口に入れたり、手足をこすり合わせたりなど、自分の身体を繰り返し確かめること反応が見られます。このように自分の身体に関連した感覚に興味が向き、繰り返す反応を「第1次循環反応」と呼びます。
第3段階(4か月~8か月)
自分の身体の外にある対象物に興味を持つようになる時期であり、自分の行為による結果に関心を示し、行為を繰り返す循環反応が見られます。
このような自分の行為がもたらした外部の対象の変化に興味が向き、繰り返す反応を「第2次循環反応」と呼びます。
例としては、ガラガラ(おもちゃ)を手にして振ったときに偶然音が鳴ったことで、また鳴らそうと振る動作を繰り返すというような反応が挙げられます。
第4段階(8か月~12か月)
対象物の永続性が成立し、隠したものが存在し続けることに気が付くようになります。
例えば、遊んでいたおもちゃに布をかぶせて隠すと、布を取り除いておもちゃを取って遊ぶことができるようになります。
第5段階(12か月~18か月)
目的を達成するために様々な手段を試行錯誤し、新しい手段や方法を発見する時期です。
自分の行為を変えることによって物事がどのように変化するのかに興味を持ち、行為が違うと結果が違うという因果関係を確かめる「第3次循環反応」が形成されます。
例えば、物を床に落とすのと、タオルの上に落とすのでは音の響きが異なることを感じるように、自分の行為と結果との関係を理解するようになります。
第6段階(18か月~24か月)
頭の中に表象(イメージ)が描けるようになる表象機能が発達する時期です。目の前に存在しない物を思い浮かべることができるようになります。ピアジェは表象機能の成立を、感覚運動期の完成と考えました。
対象物の永続性とは
対象物の永続性とは、目の前に物が無くても「ある」ことが分かることを指し、感覚運動期に獲得するものとして挙げられます。
対象の永続性があることで、手や布で覆うなどして対象物を見えなくしても、その場所に存在していると理解できます。一方、対象の永続性が未獲得の段階においては、見えなくなった物は消滅したと認識します。
例えば、赤ちゃんが喜ぶ「いないいないばあ」の遊びは、手で隠されて見えなくなる顔が、手を放すとすぐに再び現れることに楽しがる仕組みです。対象物の永続性があると、目の前から顔が消えても、どこかに存在し続けると認識することができ、再び現れるのを期待して楽しがることができます。
感覚運動期について学べる本
最後に、感覚運動期などピアジェの発達理論について詳しく学ぶ上で参考になる書籍を紹介します。
内容及び表現にやや難解な部分はありますが、ピアジェの原著であり、ピアジェの理論に関して詳しく学びたい方にはおすすめできる一冊です。
ピアジェに特化した内容ではありませんが、発達心理学においてピアジェの理論は重要な位置付けであり、発達心理学に関する多くの書籍で紹介されています。
具体例が多く理解しやすい内容となっているほか、図やイラストによって視覚的に分かりやすくまとめられています。
自分の行為や感覚を通して外の世界を知っていく
子どもにとってはすべてが新しく、日々試行錯誤を繰り返しながら外の世界を知っていきます。
頭で考えるというよりも感覚を頼りにしながら色々な物事を認識していくのが感覚運動期であり、こうした段階を経て認知の発達が進んでいくものと考えられています。
参考文献
- 林洋一 監修(2010)『史上最強図解よくわかる発達心理学』ナツメ社
- 無藤 隆・岡本 祐子・大坪 治彦 編集(2009)『よくわかる発達心理学』ミネルヴァ書房
- 藤崎 亜由子・羽野 ゆつ子・渋谷 郁子・網谷 綾香 編集(2019)『あなたと生きる発達心理学: 子どもの世界を発見する保育のおもしろさを求めて』ナカニシヤ出版