人間の記憶には面白い効果があり、覚える順番は記憶の定着に深い関わりを持っています。
今回は系列位置効果と呼ばれる現象を取り上げ、系列位置効果がなぜ起こるのか、記憶との関連や日常例、論文での実験を織り交ぜながらわかりやすくご紹介します。
目次
系列位置効果とは
系列位置効果とは、複数の項目を順番に記憶・学習する際に、項目の内容ではなく、提示される順番によって覚えやすさに違いが生じる効果のことを指します。
系列位置効果の種類
系列位置効果には、最初のほうに呈示されたものと最後のほうに呈示されたものの記憶効果が高くなり、それぞれに名前が付けられています。
- 初頭効果:最初のほうに呈示された項目が記憶に保持されやすいこと
- 新近効果:最後のほうに呈示された項目が記憶に保持されやすいこと
系列位置効果の日常例
系列位置効果は日頃のいろいろな場面で活用されています。
例えば、プレゼンの場面で一番最初に結論を言い、その後に結論の理由を述べ、最後にまとめで締めるという流れは良く活用されています。
これは、一番大事な結論を初頭効果によって記憶に留め、大事な事項のまとめを新近効果によって覚えた状態で終えることで、効果的なプレゼンを狙っているからです。
系列位置効果が生じるメカニズム
系列位置効果が生じるのには、私たちの記憶の貯蔵庫が深く関わっています。
長期記憶と短期記憶
まず、私たちの記憶には2つの種類があることが分かっています。それぞれ、長期記憶と短期記憶です。
長期記憶は、その名の通り、非常に長期期間に渡って情報を記憶している貯蔵庫のことを指し、その期間は数時間前のものから数十年前のものまでと多岐に渡ります。
例えば、少年・少女時代の記憶などは長期記憶に保存されている記憶痕跡です。
これに対し、短期記憶とは、ほんの一時的に記憶に留めておく働きをする記憶の貯蔵庫です。
例えば、電話かけるとき、番号を必死に暗記せずとも、数秒の間だったら覚えておき、プッシュボタンを押せるでしょう。
これは短期記憶を活用した認知活動であり、このような記憶は数分経つと消えてしまいます。
長期記憶・短期記憶の脳部位
このような2つの記憶が存在するのは、私たちの記憶には海馬と大脳皮質と呼ばれる2つの部位が使われるからです。
この海馬と呼ばれるものは出来事に関する情報を記憶として残しておけるよう変換し、大きなハードディスクとしての役割を担う大脳皮質へ送るかどうかを判断する役割を担っています。
そのため、長期記憶は海馬に必要と判断され大脳皮質に送られた記憶情報、短期記憶は一時的に海馬に留められている記憶情報であると言えます。
長期記憶・短期記憶と系列位置効果
それでは系列位置効果とそれぞれの記憶はどのような関連をしているのでしょうか。
実は2つの効果はそれぞれ異なる記憶と関連しているのです。
初頭効果と長期記憶
短期記憶の容量はチャンクと呼ばれる単位で数えられており、7±2チャンクが一般的な人間の記憶容量の限界と言われています。
そのため、7個以上のものの暗記を行う際に初頭効果が表れるのは、長期記憶に情報が保存されるからです。
短期記憶から長期記憶に情報を移すために有効な手段として、「リハーサル」と呼ばれる、情報を繰り返し頭に思い浮かべる活動が挙げられます。
最初のほうに呈示された事項はリハーサルを何度も行う余裕があるため、長期記憶に定着し、覚えていやすいのです。
新近効果と短期記憶
また、新近効果に関しては、短期記憶に貯蔵された記憶が関連しています。
最後に呈示された事項を覚えておこうとしてから回答するまでの間に、短期記憶に残っている情報が記憶として想起されるわけです。そのため、最後の事項の提示から時間を空ければ空けるほど新近効果は弱まることが分かっています。
系列位置効果の実験論文
系列位置効果に関する様々な心理学研究をまとめました。
系列位置効果を妨げる要因
系列位置効果がみられなくなる条件が存在することは古くから指摘されています。
先に説明したように、回答までの時間を長くとることで新近効果が消滅してしまうことはその一つです。
それ以外にも、カテゴリーの効果が挙げられます。
私たちの記憶は無意味なものと有意味なものであれば、有意味のものの方が記憶しやすいことが分かっており、例えば「あ・じ・ば・か・め・れ・お・ん・だ・の・わ・こ・い」などの文字列を暗記する場合、途中のカメレオンというのは順番に想起しやすいでしょう。
このように体制化がなされ、カテゴリーとしてまとまりをもつと記憶を促進しやすいのです。
小川・木原(2014)はこのような体制化が可能な単語リストを用いて、体制化が系列位置効果に及ぼす影響に関して検討しました。
その結果、カテゴリー語を含むリストと非カテゴリー語のリストではカテゴリー語を含むリストの方が再生率が高いことが示されています。
このように、系列位置効果は単語リストを用いた自由再生課題の結果でも必ず認められるほど頑強なものではないことが分かります。
動物における系列位置効果の諸研究
系列位置効果は人間にのみ見られる現象ではありません。
実は、猿やイルカ、ラットなどの動物にも系列位置効果がみられることが研究で分かっています。
例えば、ラットを対象とした実験で「非見本合わせ」と呼ばれる手続きがあります。
これは動物の記憶や概念を調べる課題の代表例であり、見本(A1)となる刺激を呈示した後で、比較刺激を2つ(A2とB2)呈示し、このうち見本刺激と異なるもの(B1)を選ぶことが出来れば、報酬を与えるというものです。
この手続きを学習させたラットに対し、特定の目標箱のみの扉が開くという方法で強制的にA・B・C・D・Eという順番で5種類の目標箱を訪れさせます。
一定期間を空けた後、リストの中の目標箱(例えば目標箱B)と全く関係のない目標箱(目標箱X)を選ばせました。(非見本合わせの学習をしているため、通った目標箱を選ばなければ報酬の餌がもらえます)
その結果、AやEの目標箱は記憶されやすいのに対し、中間の目標箱は記憶されにくく、U字型の系列位置効果が得られたとされています。
系列位置効果を学ぶための本
系列位置効果について学べる本をまとめました。
なるほど! 心理学実験法 (心理学ベーシック)
こころの科学である心理学では知覚、認知、学習、記憶、生理など様々な分野で実験を行い、エビデンスを集積することで発展してきました。
そのような実験法の基礎から、系列位置効果を含む、過去に行われてきた有名な心理学実験のデザインまでを丁寧にまとめてある良書です。
よくわかる心理学実験実習 (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)
代表的な心理学実験や調査を取り上げ、問題から目的、方法、結果、考察までの流れをまとめてある入門書です。
系列位置効果は心理学実験で検証されるものであり、基礎からどのように実験をデザインするかを学びましょう。
系列位置効果の実験から学ぶ研究デザイン
古くから指摘されている系列位置効果をご紹介しました。実は私たちの記憶力はこれまでの経験と深い関わりを持っています。
記憶に関する実験を行うとしても、それが被検者にとって覚えやすいものであるとするならば、真の効果は見られません。
このような、心理学研究での交絡(研究で意図したもの以外が結果に強く影響してしまうこと)を避けた実験デザインを出来るよう、過去の論文での実験の組み立て方を学びましょう。
【参考文献】
- 中嶋定彦(2001)『動物における系列位置効果の諸研究』人文論究 51(2), 1-22, 2001-09
- 小川徳子・木原香代子(2014)『系列位置効果を妨げる要因』立命館文學(636), 1039-1032
- 梅岡義貴・大山正(1966)『学習心理学』,誠信書房