来談者(クライエント)中心療法とは?特徴やメリット・デメリットと批判を解説

2021-02-24

今回のテーマは、来談者中心療法(クライエント中心療法)です。ロジャーズが提唱した来談者中心療法の理論について、その特徴やメリット・デメリットと事例、さらに本理論への批判・欠点について学びます。

また、来談者中心療法において、カウンセラーが求められる態度についても見ていきます。

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来談者中心療法(クライエント中心療法)とは

そもそも、来談者中心療法とはどのようなものなのでしょうか。

カール・ロジャーズによる来談者中心療法の提唱

来談者中心療法は、カール・ロジャーズ(Carl Rogers)によって提唱されました。

ロジャーズは、1902年にシカゴ郊外オークパークで、6人兄弟の4番目に生まれました。ロジャーズが12歳の時、家族はシカゴの西48キロの広大な農場に移り住みます。

この農業の経験が、来談者中心療法に大きな影響を及ぼしています。

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来談者中心療法の理論

来談者中心療法の理論は、ロジャーズの農業体験に基づいています。このことがよく分かるロジャーズの言葉を引用しましょう。

個人的に、私は農業研究者や農夫や園芸家のようなアプローチを好みます。私がトウモロコシを大きくすることなんてできないが、適格な土壌を準備して、適切な場所に植え付け、水が切れないよう見守ることはできます。

養分を与えることができると、感動するようなことが起きるのです。私はそれがセラピーの本質だと考えます。(カール R. ロジャーズ&デイビッド E. ラッセル 2006)

農業では、人は作物を直接大きく育てることはできませんが、土壌など良い環境を整えることはできます。作物は元々成長する能力を持っており、良い環境の元では、その能力を最大限に発揮することができるのです。

来談者中心療法においても、クライエント自身の中に治癒し、成長していく力があると考えます。そのため、カウンセラーの役割は、クライエントに何かを支持するのではなく、クライエントが成長していく力が発揮できる環境を整えることとなります。

来談者中心療法の目的

来談者中心療法の目的は、クライエントが十分に機能している状態になることです。十分に機能しているとは、自分の経験に開かれている状態であり、否定的な感情も肯定的な感情も全て体験できている状態です。

十分に機能している人間は、マズローの提示した自己実現する人間に極めて近いものだと、ロジャーズは言っています。

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来談者中心療法(クライエント中心療法)の特徴とメリット・デメリット

来談者中心療法の特徴と、メリット及びデメリットを見ていきましょう。

来談者中心療法の特徴

来談者中心療法の特徴は、カウンセラーとクライエントとの関係にあります。

ロジャーズは、患者ではなく来談者(クラエイント)という言葉を用いることによって、その特徴を示しています。

患者は何かを与えてもらう存在です。これに対しクライエントは、援助を必要とはしているものの、判断と決定を下す存在です。

来談者中心療法の特徴は、カウンセラーがクライエントを治したり知識を与えるのではなく、クライエントの同伴者として共にあろうとすることだと言えます。

来談者中心療法のメリット

来談者中心療法のメリットは、クライエント自身の力を使う分、害が少なく、クライエントが自身の力を信じられることだと言えるでしょう。

例えば、精神分析のように患者の無意識をセラピストが一方的に分析をすれば、患者はセラピストよりも自分が劣っていると感じる可能性が高くなります。

行動療法のように、セラピストがクライエントの行動を変化させることを目的とした療法でも、クライエントはセラピストの力で自分が変われたと考えやすくなるでしょう。

これに対し、来談者中心療法では、カウンセラーはクライエントの同伴者でいるだけですから、クライエントは自分のペースで、自分の力で、自分の世界を探索することができるのです。

医療に例えると、強い薬を飲んだり手術をしたりするのではなく、適度な運動を取り入れたり、漢方で自己治癒力を高めたりするようなイメージでしょうか。

来談者中心療法のデメリット

来談者中心療法では、誰でも実施可能な単純な技法が使われている訳ではありません。カウンセラーの、クライエントとの「在り方」(Being)についての理論だからです。

カウンセリングにおいて簡単に利用できるような技法を身につけたいと思うカウンセラーにとっては、これ程使いにくい心理療法はないかもしれません。

ロジャーズは、来談者中心療法の理解のために、公開面接を多く実施しています。カウンセラーのトレーニングに最も良い方法が、公開面接だと考えているのです。

来談者中心療法の特徴とデメリットは、ロジャーズの次の言葉から想像できるでしょう。

セラピストであることは人間性を投入していくことなのです。それは犠牲を払うように見えます。……クライエントとの関係性に全面的に入り込んでいくよりも、クライエントとの関わりで技法を使うほうが容易です。人によっては関係性に入るのは恐怖でもあります。(カール R.ロジャーズ&デイビッド E.ラッセル)(2006)

来談者中心療法は、カウンセラーにとっての使いやすさよりも、クライエントにとっての安全性と効果を重視した心理療法と言えるでしょう。

来談者中心療法(クライエント中心療法)の進め方

それではこういった特徴を持つ来談者中心療法は、どのように進められるのでしょうか。

カウンセラーが求められる態度

まず来談者中心療法において、カウンセラーに求められる態度について見ていきましょう。

純粋性(自己一致)

ロジャーズが最も重要だとしたのが、この純粋性です。カウンセラーが、素直に、ありのままでいることです。

例えば、カウンセラーがクライエントの言動に不快感を感じた時に、それをありのまま感じていて、必要があればそれを伝えたり、伝えなかったりすることです。

自己一致できていないと、ソワソワしたり、気持ちがザワザワしたりと、何かしらが感覚としてキャッチされます。

純粋性は、カウンセリングのゴールでもある、クライエントの状況の1つでもあります。

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無条件の肯定的配慮(受容)

カウンセリングでは、クライエントの自己探索にカウンセラーが同伴します。この時、クライエントが自己探索に乗り出せるのは、カウンセラーの受容によって勇気づけられるためです。

「何を話しても良いのだ、何を感じても良いのだ」という安心感を、クライエントが感じられる場を提供するカウンセラーの態度です。

共感的理解

クライエントが見ている世界、感じている世界に、カウンセラーもまるでそこにいるかのように感じることです。

来談者中心療法という名の通り、まさに来談者(=クライエント)の中心に入り込んでいこうとする態度と言えるかもしれません。

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カウンセリング技法

来談者療法においては、カウンセリング技法よりもカウンセラーの態度が重要であると考えます。

感情の反射という行為が、技法として説明される場合があります。クライエントの言葉や感情を繰り返すという技法と捉えられる場合もあるようです。

ですが、感情の反射は、あくまでも上に述べたカウンセラーの態度のうちの「共感的理解」に自然に伴う行動なのです。

つまり、カウンセラーがクライエントの世界を理解しようとする時、「あなたの感じている世界はこういう感じですか?」と問い合わせる行為です。

ロジャーズは、感情の反射というより、理解の確認という言い方の方がしっくりくる、とも述べています。

来談者中心療法(クライエント中心療法)の事例

ロジャーズは、カウセリングを録音するという、当時では画期的なことを行いました。

カウンセリングを勉強されている方が、学校で必ず見る「グロリアと3人のセラピスト」というビデオが有名です。

これは、グロリアというクライエントに対して、来談者中心療法(ロジャーズ)、ゲシュタルト療法(パールズ)、論理療法(エリス)という3つの心理療法を試みる映像です。

ロジャーズの対話の様子が実際に見られますので、ぜひご覧ください。

来談者中心療法(クライエント中心療法)の批判・欠点と反論

来談者中心療法は多くの批判を浴びながらも、同時に多くの他領域のセラピストにも影響を与え続けている、不思議な療法です。

来談者中心療法に対する批判と、それに対する反論を見ることで、来談者中心療法の理解をより深めることができます。

専門家としての権威に固執する人々からの批判

ロジャーズは、カウンセラーの態度の重要性を主張しました。受けた傷の癒し方はクライエント自身が知っており、カウンセラーの役割はクライエントの同伴者となることだと考えました。

このような考え方は、セラピストである自分達がクライエントよりも優位であり、クライエントを評価しその問題を取り除くことが自分達の仕事だと認識している人々から、批判を受けました。

ロジャーズの考え方は、自分達を治療者とみなしたい人々からすると、専門性を否定される脅威と受け取られたためです。

しかし、ロジャーズはカウンセラーの専門性を否定しているわけではありません。むしろ、クライエントが成長できる環境を与えられるカウンセラーには、高い能力が必要と考えていました。

精神分析の立場からの批判

精神分析では、無意識の存在を重視し、無意識には強力な破壊力があると考えます。そのため、人間は信頼できる存在ではなく、絶えず監視し制御する必要がある存在とみなします。

このような立場からすると、人間に絶対的な信頼を置くロジャーズの考え方は、無意識の破壊力を過小評価し、楽観的すぎると思われるのです。

ロジャーズ自身は、フロイトを批判している訳ではなく、フロイトの真理を追求する姿勢を評価していました。ただ、その後継者に対しては厳しく批判をしています。

精神分析家は専門性に固執し、複雑さに価値を置きすぎていると言うのです。

しかし、革新的精神分析家であるハインツ・コフートは、サイコセラピーの重要な特徴として共感を導入しました。この点を、ロジャーズも評価しています。

行動主義の立場からの批判

行動主義では、行動という目に見えることのみを対象とします。人間の内側で生じていることは見えないため、対象とはしません。

そのため、人間は自分の内面の資質や可能性を見つけ出していく力を持っているというロジャーズの考え方は、行動主義の立場からは批判されます。

行動主義の第一人者であるB・F・スキナーとの対話で、ロジャーズは次のように反論しています。

しかし、人は、原因と結果の一連の因果関係であるばかりでなく、主観的な生を生きています。ここに大切なものがあるように私には思えるのです。(Kirschenbaum and Henderson,1990)

キリスト教の立場からの批判

来談者中心療法においては、人の能力に対して高い信頼を置くため、人を超える神の存在が想定されていません。

人を超えた神を信仰するキリスト教では、人間は神に裁かれるべき存在であると考えます。人間は、生まれながらにして罪を持っている(原罪)ためです。

そのため、クライエント自身が自分の経験についての唯一の評価者であるというロジャーズの考え方は、キリスト教の立場からは、神や原罪を否定しているとして批判を受けます。

来談者中心療法について学べる本

来談者中心療法について学べる本をご紹介します。

ロジャーズ自身の言葉に触れる「カール・ロジャーズ 静かなる革命」

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かなり分厚い本です。ですが、ロジャーズの生涯やロジャーズの考え方を、ロジャーズ自身の言葉で読むことができます。

ロジャーズとラッセルの対話形式で書かれているので、難解な解説書を読むよりも、分かりやすく真のロジャーズに触れることができます。

コンパクトにロジャーズを知る「カール・ロジャーズ」

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これも、ロジャーズの生涯と、来談者中心療法の理論について書かれた本です。先ほどの本よりも手に取りやすい大きさです。

ロジャーズの臨床実践、来談者中心療法への批判とそれへの反論、ロジャーズの影響についても書かれています。

クライエントの中心とは何か

今回は、ロジャーズの来談者中心療法について学びました。

心理療法はクライエントのためのものですから、クライエントが尊重されるのは当然のことです。

けれども、来談者中心療法を学んでいると、クライエントを尊重するとはどういうことなのかを、カウンセラー1人1人が真剣に考えなさい、と問われているような気がしてきます。

クライエントと向き合う時は、専門家としての知識を持ちながら、それを手放す勇気も必要なのかもしれません。

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参考文献

  • カール R. ロジャーズ&デイビッド E.ラッセル畠瀬直子(訳)(2006) カール・ロジャーズ 静かなる革命 誠信書房
  • ブライアン・ソーン(Brian Thorne) 諸富祥彦(監訳)(2003) カール・ロジャーズ コスモス・ライブラリー
  • Kirschenbaom,H. and Henderson,V.L.(1990) Carl Rogers: Dialogues. London: Constable
  • 松原達哉(2010) 史上最強カラー図解 臨床心理学のすべてがわかる本 ナツメ社
  • 村瀬孝雄・村瀬嘉代子(2015) [全訂]ロジャーズークライアント中心療法の現在 日本評論社

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    • この記事を書いた人

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     臨床心理学・実験心理学等を学んだ後、心理カウンセラーとして勤務。現在はライターとして活動中。

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