心理臨床の現場で重視されているのは、クライエントに適切な治療を行うことです。そのためには、クライエントが抱えている問題がどのような要因から現れているのかをしっかりと把握するアセスメントが欠かせません。
今回は、そのような心理アセスメントにおける有用なツールである心理検査を種類ごとのメリット・デメリットや具体的な検査を一覧でご紹介していきます。
目次
心理検査とは
心理検査とは、その名の通り、被検査者の心理的な特徴を客観的に把握するためのツールです。
心理検査を行うこと主な場面としては、心理臨床の現場においてクライエントの心理的特徴を把握するためや新たな知見を得るための研究などが挙げられます。
心理検査の種類
心理検査の種類は、大きく分けて質問紙法、投映法、作業検査法と呼ばれる3つの検査に分けられます。
また、そのほかにも、個人の知的発達を調べることのできる知能検査も特徴的な心理検査です。
まずはそれぞれの検査の概要についてみていきましょう。
質問紙法
質問紙法とは、事前に用意された用紙に書かれている質問事項へ回答してもらうことで、個人の心理的特徴を捉えようとするものです。
この方法は、現在の心理学研究で最も使用されている検査法であり、アンケートのように質問に対して「当てはまる」・「当てはまらない」を選ばせる方式のものや、自由記述によって回答を得るものがあります。
代表的な検査としては、STAI(状態-特性不安質問尺度)やBDI(ベック抑うつ質問票)、MMPI(ミネソタ多面人格目録)などが挙げられます。
投映法
投映法とは、良い・悪い、正解・不正解などが分かりにくい(もしくはない)曖昧な刺激を呈示し、その刺激に対する言語反応をデータとして収集するものです。
また、何も書かれていない用紙にテーマに沿った絵を描くように教示し、そこに描かれた絵から個人の心理的特徴を探ろうとする描画法も投映法の一つです。
代表的な検査としては、「ロールシャッハ・テスト」や「TAT(主題統覚検査)」、「HTPテスト」、「バウムテスト」などが挙げられます。
作業検査法
作業検査法とは、被検者に簡単な単純作業を行ってもらうことで、その結果から現れるパーソナリティを捉えようとする検査です。
代表的な検査としては「内田-クレペリン精神作業検査」や「ベンダー・ゲシュタルト・テスト」が挙げられます。
知能検査
知能検査とは、個人の知的能力(知能)を測定すること検査のことです。
知能検査の結果は、IQ(知能指数)という数値で表されるものも多く、これにより発達の水準などを捉えることもできます。
代表的な知能検査としては、「ウェクスラー式知能検査」や「ビネー式知能検査」が挙げられます。
各心理検査のメリット・デメリット
それぞれの心理検査にはメリットとデメリットがあります。
そのような特徴を知っておくのは検査を実施するうえで非常に有用なのでぜひ確認しておきましょう。
質問紙法のメリット
質問紙法は、紙に記載された質問に対して自己申告をするという形式で行われます。
そのため、質問紙をたくさん印刷すれば、一度の実施で多くの人を対象に検査を実施することができます。
また、質問紙を配り、簡単な注意説明をすることで実施の主な部分は被検者に進めてもらう形式なため、検査への熟練度はそれほど必要とされず、得られたデータの得点化なども容易で、検査者の主観が入りにくいというメリットがあります。
質問紙法のデメリット
一方、質問紙法において質問内容が被検者に理解されるためには一定の言語能力が必要となります。
そして、自己申告ということは、被検者が意識できている内容に限られるため、質問紙法では無意識的な内容を測定することが難しいという難点もあります。
さらに、その回答内容は意図的に歪曲することができてしまいます。
例えば、自分は優しくて素晴らしい人間だと思い込みたい人は、「他者の言動に対するいら立ちを抑えられなくなる時がある」という刺激に対し嘘をつきたくなってしまうかもしれません。
このような、質問紙法による正確な評価や表現を妨げる要因として有名なのが社会的望ましさです。
最新の研究では、この社会的望ましさは次の2つに分けられます。
【社会的望ましさの構成要素】
- 自己欺瞞:回答者が本当に自分の自己像と信じて、無意識的に社会的に望ましい回答をする反応
- 印象操作:故意に回答を良い方に歪め、真の自己像を偽る反応
このような社会的望ましさの影響は取り除くことが非常に難しいですが、質問紙法の中には、心理的特徴を測定する尺度に加え、回答が本人の心理的特徴を反映しているのかどうかを判定する妥当性尺度を備えているものもあります。
投映法のメリット
投映法は、質問紙法では捉えることのできない被検者の無意識的な側面を測定することができるということが大きな特徴です。
そして、良いとも悪いともいえない曖昧な刺激に対する自由な反応を求めるという検査方式から、虚偽の回答をしたり、社会的に望ましい回答をしようと歪ませることが難しいということもメリットの1つです。
そして、質問紙法のように文章を読まなくては回答ができないということはないため、言語表現が苦手な子どもや視覚障害のある方にも適用が出来ることもあります。
投映法のデメリット
しかし、投映法は検査の実施時間が長くなることも多く、こころの深い層(無意識)の内容を対象とするため、侵襲性(現実的な自分のこころを保つ機能への負担)が高く被検者の肉体的、心理的負担が大きくなってしまいがちです。
また、検査の手続きもそれぞれ特殊な形態であり、余計な刺激を与えずにスムーズに検査を実施し、結果を解釈するためにはある程度の技能が必要となります。
そして、得られたデータの解釈においては、検査者の主観性が入りやすく、信頼性や妥当性に批判が寄せられることもあります。
作業検査法のメリット
作業検査法は一見すると心理検査というよりも、単純課題のように見えるため、意図的な回答の歪曲が難しいです。
また、実施や結果の解釈はそれほど難しくなく、言語的な表現が難しい場合でも適用ができるということがあります。
作業検査法のデメリット
しかし、作業検査法では、ある程度の時間、被検者にひたすら単純作業をしてもらうため、あきてしまったり、苦痛を感じてしまう場合があります。
特に落ち着きがないなどの特徴を持つ人に対しては実施が困難となるかもしれません。
心理検査の一覧(代表例)
それぞれの心理検査において、代表的なものを一覧でご紹介します。
質問紙法の代表例
質問紙法の代表例としては次の通りです。
- Y-G性格検査(矢田部-ギルフォード性格検査)
- MMPI(ミネソタ多面人格目録)
- MPI(モーズレイ性格検査)
- NEO-PI-R
- TEG(東大式エゴグラム)
- STAI(状態-特性不安質問尺度)
- CMI(コーネル健康調査票)
- GHQ(精神健康調査票)
- BDI(ベック抑うつ質問票)
- SDS(うつ性自己評価尺度)
上記の質問紙はあくまで一部であり、このほかにも様々な質問紙尺度が心理臨床の現場や研究で用いられています。
投映法の代表例
投映法の代表的なものは次の通りです。
- ロールシャッハ・テスト(片口式・エクスナー式)
- TAT(主題統覚検査)
- SCT(文章完成法)
- P-Fスタディ(絵画欲求不満テスト)
- バウムテスト
- HTPテスト
- 動的家族画法
投映法は質問紙法に比べて種類は劣りますが、それぞれが非常に特徴的な手続きで行われ、その結果の出方も様々です。
必要に応じて使い分けられるよう、代表的な投映法についての知識を深めましょう。
作業検査法の代表例
作業検査法の代表例は次の通りです。
作業検査法は集団実施が可能で、実施・解釈に熟練度が求められないため、企業等の採用活動の際に用いられていたこともあったようです。
独特の手続きによって行われる精神作業検査ですが、ぜひ一度ご自身で体験してみるのも良いかもしれません。
知能検査の代表例
知能検査の代表例は次の通りです。
- ウェクスラー式知能検査(WAIS・WISC・WPPSI)
- 田中-ビネー知能検査
- K-ABC(カウフマン式子ども用心理検査)
知能検査の結果は知能指数(IQ)と呼ばれる数値で示されますが、一般的に用いられるIQのように頭の良い-悪いということを示しているのではありません。
それぞれの知能検査で想定している知的能力は異なり、その能力の高低を示しているだけに過ぎないため、しっかりと知能検査の理論的背景についても学んでおきましょう。
心理検査を実施するうえでの重要なポイント
心理臨床の現場において、検査を行ううえで基本的に行わなければならないポイントがいくつかあります。
このような決められたポイントをきちんと行うかどうかが、検査結果に大きな影響を与える可能性もあるため、注意が必要です。
落ち着いた環境
検査をどのような状況で実施するのかというのは非常に重要です。
例えば、人の笑い声が聞こえ、ガラス張りになっているような部屋で心理検査により、自分のこころの内側を探られるという状況は、被検者の負担も大きいでしょう。
また、部屋に様々な装飾品が飾ってあることで、気分が変わり、本当の心理的特徴が探れないかもしれません。
そのため、検査を行う場合は、静かで、余計なものが置かれていない落ち着いて検査に集中できる環境を整えるようにしましょう。
テスト・バッテリー
これまでに述べたように、それぞれの心理検査には長所と短所、測定できる範囲の限界があります。そのため、心理検査を行う場合、複数の検査を必要に応じて組み合わせることが多いでしょう。
このように、心理検査を組み合わせて実施することをテスト・バッテリーと呼びます。
ただし、心理検査は被検者の時間や精神的疲労など負担を強いるものであることを忘れてはいけません。
そのため、クライエントの何を測定したいのかを明確にし、必要最低限の検査を実施して、不必要な負担を負わせないように留意する必要があります。ただやみくもに多くの検査を実施すればよいというものではないことを覚えておきましょう。
インフォームド・コンセント
インフォームド・コンセントとは、治療を開始するうえでのしっかりとした事前説明とそれに対する合意を取ることを指します。
心理検査においても、どのような目的で、どのような検査を、どれくらい時間行うのかをしっかりと説明し、被検者から承認が得られなければなりません。
これは、倫理的に求められるものでもありますが、正確な検査結果を得るためにも非常に重要です。
例えば、いきなり「今日は心理検査を行います」と目的やどのようなことを説明せず検査を実施しようとすれば、当然ながらこれから何を行うのかという不安が生じますし、検査者に対する不信感も生まれるかもしれません。
このような心理的反応が生じていては、検査結果は歪んでしまう可能性が高いでしょう。
また、検査に対するモチベーションが低いことも大きな問題です。
例えば、やる気が低い状況では、たくさんある質問項目を億劫に感じ、全て適当に〇をつけてしまうかもしれません。
そのため、クライエントのために検査を行う必要性をしっかりと説明し、検査に臨むにあたって不安を取り除き、検査への意欲を引き出せるようインフォームド・コンセントを成立させ、しっかりとした信頼関係を築くよう対応しましょう。
検査の所見とフィードバック
心理検査を行うと、何かしらの結果が出てきます。しかし、ただその結果として出た数値を被検者に伝えたとしても何の意味もありません。
そのため、検査を行った場合は、行った検査から得られたデータとクライエントの抱える問題がどのようにつながっているのかをまとめた検査所見を書きます。
心理臨床の現場では、カウンセラーが心理検査を行うこともありますが、検査者、テスターなどと呼ばれる心理検査のみを実施するという形のみでケースに係る場合もあります。
このような所見は、ケースを受け持つカウンセラーが治療を進める方針の根拠資料となります。
それだけでなく、検査を行うのはあくまでクライエントの利益のためであるため、得られた検査結果はクライエントにフィードバックをしなくてはなりません。
しかし、あまりにも直接的な表現(例えば、他者の立場に立って物事を考えるのが苦手で、依存的な傾向も強いため、他者から煙たがられてしまい、職場での居心地の悪さに繋がっているなど)はクライエントを傷つけてしまう可能性が高いです。
本人がどの程度まで自分の心理的な特徴を受け入れられるのかを考えながら慎重に所見をまとめ、クライエントにフィードバックする必要があります。
心理検査について学べる本
心理検査について学べる本をまとめました。
心理検査の実施の初歩 (心理学基礎演習)
心理検査を実施するために気を付けるべきポイントを押さえておかなければ、しっかりとした検査結果を得ることは難しいでしょう。
そのため、初学者の方向けの本書に目を通し、検査実施の練習を重ねることをお勧めします。
表で覚える心理検査25(第二版)
様々な種類のある心理検査。
それぞれには特徴に違いがあり、1つ1つ勉強するのはこころが折れます。
そのため、心理検査を一覧でまとめた本書から全体像をつかんでみるのはいかがでしょうか。
幅広い心理検査をできるように
心理検査には様々な種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあることをご紹介しました。
しかし、自分がやりやすい得意な検査があったとしても、ケースによってはそれが適さないことも少なくありません。
そのため、より多くの検査の実施、解釈に慣れ、心理検査全体を得意になれるようにすることが求められるでしょう。
【参考文献】
- 村上宣寛・村上千恵子(2019)『[三訂]臨床心理アセスメントハンドブック』北大路書房
- 岩野香織・横山恭子(2013)『心理検査の結果をフィードバックすることの意義 : インフォームド・コンセントの観点から』上智大学心理学年報 37, 25-35
- 谷伊織(2008)『バランス型社会的望ましさ反応尺度日本語版(BIDR‐J)の作成と信頼性・妥当性の検討』パーソナリティ研究 17(1), 18-28