この記事では、社会心理学の代表的な用語とその意味をまとめています。
はじめに社会心理学のキーワード、その後に著名な社会心理学者を「あいうえお順」で並べています。リンクからは、より詳しい解説をしている記事に飛ぶことができますので、気になるワードをチェックしてみてください。
※社会心理学がどういう分野なのか、研究対象や領域が知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
>社会心理学とは?学ぶ意義、活かせる仕事、学べる大学等について解説
事項
あ行
愛の三角形モデル 親密性、熱情、コミットメントという3要素を頂点とした三角形を元に愛を種類を分類したもの。
アイヒマン実験(服従実験) 教師役の被験者が問題を間違えた生徒役(サクラ)に対して、どれ位大きな電気ショックを与えられるかという実験。被験者の6割以上が、実験者の要請に従い最大の450ボルトまで電流を上げた。ミルグラムは、被験者が自分の行為を権威者である実験者に責任転嫁したためであると解釈した。
アクション・リサーチ 社会問題の改善を目的として、現場への介入の効果を測定する研究方法。
アルゴリズム コンピューターのように、様々な情報を駆使し論理的な手続きによって、必ず正解にたどり着けるような解決法。⇄ヒューリスティック
アンダードッグ効果 選挙結果の予想では有利とされていた人が落選したしたり、逆に不利とされていた人が当然したりする現象。⇄バンドワゴン効果
一貫性 ある人が、同じ出来事について他の機会でも同じように行動する程度のこと。
逸脱 社会の中で共有されているルールに反すること。
イデオロギー 人・社会・歴史などについての思想体系のことで、どのような立場に立つかを表すもの。
印象形成 ある人の全体的なパーソナリティの印象が、その人の表情、声、仕草などの部分的な情報を元にして作られること。
SL(ライフサイクル)理論 集団メンバーの成熟度を4段階に分け、各段階ごとに適切なリーダーシップを示した理論。
か行
確証バイアス 自分の考えや予想と合致するような情報を信じ、合致しない情報を見落としてしまう傾向のこと。
カリギュラ効果 制限や禁止を受けた物事に対して、却ってやってみたいと興味を持ってしまう心理現象。
観察学習(モデリング) 自分自身が直接経験していなくても、他者の行動とその結果を見たり聞いたりすることによって行われる学習のこと。
キティ・ジェノビーズ事件 1964年、ニューヨークに住むキティ・ジェノビーズが、深夜の住宅街の自身のアパートの前で刺殺された事件。殺されるまでの30分以上の間、何十人もの目撃者は助ける事は元より警察への通報すらしなかった。
グループ・ダイナミックス リーダーシップの研究に代表されるように、集団やそれに属するメンバーに見られる法則を明らかにする研究のこと。
コーシャス・シフト 一人で判断した場合に比べて、集団で討議した場合の方がより安全な意思決定に向かう現象のこと。⇄リスキー・シフト
心の理論 他者の行動や考えを推測するための枠組みのこと。
個人的アイデンティティ 性格や能力など、個人としての自分の捉え方。⇄社会的アイデンティティ
コミットメント リスクを伴う意思決定を、誰かの意思ではなく自分自身で能動的に行う行為のこと。
さ行
自己概念 自分はこういう人間であるという、自分自身についての知識や信念のこと。
自己効力感(セルフ・エフィカシー) 「自分にはできる」という確信のこと。
社会生態学的アプローチ 自然環境や社会環境に対して人間がどのように適応しているかという視点から、人間と環境との相互作用の仕組みを実証的に研究する方法。
社会的アイデンティティ 自分がある集団の一員であるという自己理解のこと。⇄個人的アイデンティティ
社会的交換 社会の中で、様々な資源を交換すること。物理的な物だけでなく、愛情や情報も含まれる。
社会的促進 一人で作業を行う場合に比べ、他者が見ていたり、他者と一緒に作業を行う場合の方が作業の能率が上がること。前者を観衆効果、後者を共行為者効果という。習熟した課題で見られやすい。
社会的手抜き 集団で作業を行うと、個人が1人で作業を行うよりも1人当たりの努力量・生産性が少なくなる現象。集団が大きくなるほど、個人の出す力が弱まる。
社会的抑制 一人で作業を行う場合に比べ、他者と一緒に作業を行う場合の方が作業の能率が下がること。複雑で習熟していない課題で見られやすい。
囚人のジレンマ・ゲーム 一人一人の利益だけを優先させようとすると、両者とも利益が減ってしまうというジレンマ。
二人の囚人が共に自白しなければ二年の刑で済むところ、自分だけ自白して刑を軽くしようとするため、二人共が自白しそれぞれ五年の刑となってしまうという例から。
集団意思決定 集団の構成員がそれぞれ話し合った上で、共通した意思決定を行うこと。
重要他者 その人の行動に影響を与える大切な人のこと。
心理的拘泥現象 集団におけるある意思決定がその後に誤りであると判明しても、それまでに費やした労力やプライドのために、修正できなくなる現象のこと。
心理的リアクタンス 他者からの説得に対し、自分の自由が侵害されたと感じ、説得に応じるよりも反発をして自分の自由を確保しようとする心理状態のこと。
スティグマ 元は「烙印」という意味。同性愛や生活困窮者、精神疾患患者など特定の属性・特徴を持つ人に対するネガティブな態度のこと。
ステレオタイプ ある集団を他と比較した時の単純化されたイメージ。
スポットライト効果 自分自身が目立つ行動をしたと感じた場合に、他者の注目を浴びていると思い込む傾向のこと。
説得の4要因 説得の効果が左右されるのは、メッセージの①送り手、②内容、③受け手、④媒体という4つの要素の特徴による、という考え方。
ソーシャル・サポート ソーシャル・ネットワークによってもたらさせれる支援。
ソーシャル・ネットワーク 個人を取り巻く人間関係のこと。
た行
態度 その人の行動につながるような、ある対象に対する感情、信念などの準備状態のこと。
多元的無知 自分一人なら危機的状況において正しい判断や行動が出来るのに、行動しない他者を目にすることで、自分も行動の必要がないと判断してしまうこと。ラタネとダーリーの実験が有名。
単純接触効果 何度も顔を合わせることで対人魅力が増す現象のこと。
つり橋実験 人は、生理的な現象の要因を認知した状況に求めることを示した実験。安定した木製の橋と不安定なつり橋の上で女性に電話番号を知らされた男性のうち、後から女性に電話をかけたのは後者の方が多かった。これは、不安定なつり橋を渡る際のドキドキする生理現象が、女性に対する恋愛感情のためと認知されたことによる。
同調 ある集団におけるメンバーの考えや行動がまとまっている場合、他のメンバーもその集団の考えや行動に合っていくこと。
ドア・イン・ザ・フェイス 始めに難しい要請を提示して断らせた後、それよりも容易な要請することで受け入れられやすくなること。
泥棒洞窟実験 「泥棒洞窟」というキャンプ場で2つの少年グループに対して行われた実験のこと。両グループごとの親睦が深まった後、試合などに集団間葛藤が見られたが、両グループで協力する課題を与えると友好的な関係へと変化した。
な行
内集団ひいき 自分が属している集団(内集団)をそれ以外の集団(外集団)と比較し、内集団の方が優れていると評価する現象のこと。
認知的不協和 自分の本来の意思とは違う行動を取るなど、認知間の矛盾のこと。
認知的不協和実験 つまらないと感じる作業をした人が、1ドルの報酬を受けて「面白かった」と次の作業者に告げる実験では、その後の作業への評価が「面白かった」と変化した。これは、つまらない作業なのに1ドルしか貰えなかった認知的不協和の状態を、「本当は面白い作業だった」と認知を変えることで不協和を解消したとされる。
は行
パスーゴール理論 どのような集団においても、リーダーの役割は、メンバーに対してゴール(目標)に至るパス(道筋)を明確に示すことであるとする考え方。
バランス理論(均衡理論) 相手に対する態度や物事に対する関わり方を、相手のその物事への関わり方とのバランスで説明しようとする理論。例えば、好きな人が好きな音楽を自分も好きになる、自分が大切にしている物事を非難されてその人が嫌いになるなど。
ハロー効果 ある人に対して部分的に良い印象を持つと、他の面についても望ましい印象を持つこと。
バンドワゴン効果 「これが多数派の意見だ」とアナウンスされることにより、その意見を支持する人がさらに増える現象。⇄アンダードッグ効果
PM理論 リーダー行動をP行動(課題達成機能)とM行動(集団維持機能)により4つに分類し、両機能共に高いPM型のリーダーが望ましいとした理論
ピグマリオン効果 教師から、「知能が高く今後成績が伸びる」と期待された生徒の成績が、実際に伸びる現象。
ヒューリスティックス 必ずしも正解に結びつくという保証はないが、限られた情報資源を使い効率的に解決する方法。⇄アルゴリズム
ブーメラン効果 説得しようとした内容とは逆の行動が助長される現象のこと。
フォールス・コンセンサス効果 周囲に自分と同じ意見を持つ人が実際よりも多くいると考える認識の誤りのこと。
フット・イン・ザ・ドア実験 事前に小さな要請を受け入れていた被験者の方が、その後の大きな要請も受け入れる事を実証した実験。
プライミング効果 事前に呈示された情報によって、それに関連する概念が活性化される現象。
フリー・ライダー効果 他のメンバーの努力を当てにし自分は努力をしないで集団の恩恵を受けようとする人の存在が、全員のモチベーションを下げてしまう現象。
フレーミング効果 同じ事実でも、情報の提示の仕方により、受け手の捉え方が変わる現象。例えばある治療法について、「生存率40%」と伝えるか「死亡率60%」と伝えるかにより選択が影響を受ける。
変革型リーダーシップ 集団の長期的な目標を示し、メンバーに変化を生じさせ、自らも組織を変革していくリーダーシップのこと。1980年代以降、経営環境の変化に伴い求められるようになった。
返報性規範(互恵性規範) 何かをしてもらったことに対してお返しやお礼をすること。
ホーソン実験 1924年〜1932年にアメリカのウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた実験。照明、温度、休憩時間等の物理的条件を悪くしても、従業員の要望を取り入れていると生産性が変わらなかった。心理的条件を無視し物理的条件を重視したそれまでの科学的管理法に反する結果となった。
傍観者効果 複数人が存在する危機的状況における援助行動は、その場に居合わせる傍観者が多いと抑制されるという効果。ラタネとダーリーによる傍観者実験により実証された。
没個性化 氏名、年齢、職業といった自分の個性が集団の中で埋没することにより、自分の役割に対する意識が低下し、無責任な行動が生じやすくなる現象のこと。
ボディ・ランゲージ 言語ではなく相槌や表情、手や体の動きによるコミュニケーションを指す。
ら行
リスキー・シフト 一人で意思決定を行う場合に比べて、集団で話し合うことでよりリスキーな方向に意思決定が向かう現象のこと。⇄コーシャス・シフト
リバウンド効果 ある事を考えないように意識すると、逆にその事に意識が向きやすくなる現象のこと。
人名
アッシュ(Asch,S.E.) 印象形成や同調行動に関する研究を行った。
エクマン(Ekman,P.) 基本的感情を示す表情は、文化間で共通に理解されていることを研究により実証した。
オルポート(Allport,F.H.) 社会的促進や社会的抑制という現象を実験により明らかにした。
カーネマン(Kahneman,D.) トヴェルスキーと共にヒューリスティックの研究を行なった。
ザイアンス(Zajonc,R.B.) 社会的促進の動因説や単純接触効果の提唱者。
ハイダー(Heider.F.) 対人関係論の基礎となったバランス理論の提唱者。
バンデューラ(Bandura,A.) 観察学習の実験や自己効力感の提唱で有名。
フェスティンガー(Festinger,L.) 認知的不協和理論を提唱したアメリカの心理学者。
マクドウーガル(McDougail,W.) 1908年に社会心理学の始まりとされた『社会心理学入門』を出版した。
三隅ニ不ニ 日本における代表的なリーダーシップ論であるPM理論を提唱した。
ミルグラム(Milgram,S.) アイヒマン実験により、権威と服従の関係を実証した。
メイヨー(Mayo,G.E.) ホーソン工場の研究において、作業効率に人間関係の重要性を実証した産業心理学者。
ラタネ(Latane,B) キティ・ジェノビーズ事件を元に、傍観者効果を提唱した。
レヴィン(Lewis,K.) グループ・ダイナミックスにより、集団やそのメンバーの行動についての法則を説明しようとする基礎を築いた。
参考文献
- 明田芳久・岡本浩一・奥田秀宇・戸山みどり・山口勧(2007) ベーシック現代心理学7 社会心理学 有斐閣
- 池田謙一・唐沢穣・工藤恵理子・村本由紀子(2019) 社会心理学[補訂版] 有斐閣
- 遠藤由美(2009) いちばんはじめに読む心理学の本② 社会心理学ー社会で生きる人のいとなみを探るー ミネルヴァ書房
- 山岸俊男(監修)(2011) 徹底図解 社会心理学 新星出版社
- 古畑和孝・岡隆(編者)(2002) 社会心理学小辞典[増補版] 有斐閣